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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月

2024.04.17 公開 ツイート

【5月】植物の香りで神様とあそぶ幸せ その1

5月は、よもぎと柏で開運。これがテッパンです! 桃虚

現職の神職さんが指南する、「神様とのお付き合い」の仕方。新緑の季節だからこその、幸運の引き寄せ方とは?

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神事にも使われる、薬効のある植物で自愛、自祓い、そして開運!

五月は若葉の季節です。そして、風の季節でもありますよね。

神社の社務所の窓からも、(くす)や(さかき)の葉が、風で揺れているのが見えます。風そのものは目に見えないのに、揺れる青葉によって風が見えるという、すばらしい現象。このことを「青嵐(せいらん)」や、「風青し(かぜあおし)」と言ったむかしの人たち、天才です。

 

五月の風は、境内に吊るされているたくさんの絵馬を、カラカラと鳴らしてゆきます。この音もまた、目にみえない「風」という存在に、音で「あそぼうよ」と言われているようで、つい、草履をつっかけて外に出てしまう……浮かれた奴、と言われようとも、五月の風が呼んでいるのだから、仕方がないのです。

近ごろの大阪は、ゴールデンウィークが終わるころに、常緑樹の葉の生え変わりが完了するというサイクル。ということは、その前のひと月ほどが、古い葉が落ちる時期になります。私のおつとめする神社では、毎日二時間ずつ境内の落ち葉そうじをしますが、その時期は、朝、かんぺきにおそうじをしても、夕方にはもとの状態になっています。風がつよかった日など、社務を終えるころには斎庭(ゆにわ)に敷きつめられた白い玉砂利(たまじゃり)が見えなくなるほど、落ち葉が山もりになっています。ああ無情!

樹齢百年近い古木であろうとも、古くなった葉をあっさりと捨て去り、つやつやとした新鮮な青葉をわんさかと生やす。それも、時季がきたら、ごちゃごちゃ言わず、だまって生え変わりを実行。そんな古木の姿を見ていると、植物の代謝の力に感嘆し、ぜひあやかりたい、という気持ちも湧いてきます。

植物の生命力、健康で静かなうつくしさ、薬効、そして香り。人間が太古の昔からそれらを尊いと感じ、神様としてあがめたり、神様にお供えしたりしてきたこと、さもありなん、と思う五月です。

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神棚にお供えしたり、神事で拝礼するときに神様に捧げたりする「榊(さかき)」の葉は、漢字では木へんに神と書き、「神と人との境目に生える木」あるいは「栄える木」から「さかき」という名がついていると言われます。

京都市内の神社へ研修に行っていたとき、「榊の枝を切ってきてください」と、高枝切ばさみを渡されて、宮山(神社地の山のことを私たちはこう呼んでいます)に入っていったことがあります。

榊の葉はいつも見ているからすぐ分かるはず、と思っていたのですが、山の中は似たような常緑樹がところせましと生えていて、どれがどれだか、区別がつきません。ま、どれでもいっか。見た目変わらないし。と思って切ろうとしたところ、背後から
「桃虚さん、それは榊ではないです!」
との声。先輩の神職さんが、心配して様子を見に来てくれていたのでした。
「ほら、幹がつるっとしているのが榊ですよ」
と教えていただき、無事、神事に使う榊の枝葉をとることができました。

とった枝葉をよく見てみると、榊の葉はふくよかな楕円形をしていますが、先は思ったより尖っています。神様が降りてこられる依り代として立てたときに、張りのあるつやつやした葉が一斉に天のほうを向きます。そしてすべての葉の先端は尖って天を指しているのです。ああ、かっこいい。常緑樹のつるっとしたイケメンだから、神様の依り代に選ばれたのだなあ、と、納得しました。実際に、山に榊をとりにいかなかったら、この納得感はなかったように思います。実習って大事だなと思いました。

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五月はまた、田植えの季節でもあります。
そのむかし、田植えは、稲の神様「サ」が田んぼに命を吹き込む神聖なお祭りでした。この時期にあちこちの神社で行われる「お田植え祭」は、それを今の世に伝えるものです。実際に神様にお供えするお米、御饌米(みけまい)専用の田んぼで実際に田植えをするお祭りもあれば、境内で、「早乙女(サおとめ)」の装束をまとった女性たちが、田植えの仕草をする形式のお祭りもあります。

「早乙女」というのは、お田植え神事で、田の神様にご奉仕する女性たちのことです。古代、早乙女たちは、田植えに備えて「忌みごもり」をしました。忌みごもりというのは、神事において神様に近づく人が清い状態でいるために、神事の前に外部との接触を断って家にこもることで、私たち神職も、大事な神事の前に忌みごもりをすることがあります。(たんに、外で遊んだり飲んだりするのをがまんすることを「物忌み」と言ったりもします。)

早乙女たちの忌みごもりは、集落のうちの一軒に早乙女だけが集まり、その家の屋根に、清めの霊力のある植物、「菖蒲(しょうぶ)」「ヨモギ」を葺いて、早乙女たちだけで、一晩そこで過ごすというものでした。

屋根というのはとても重要で、屋根の上に霊力のある植物をのせると、その霊力がたてもの全体にゆきわたり、バリアのように外部の穢れ(けがれ)や邪気から守ってくれると信じられていたのです。

古式には、「忌みごもりのためだけに仮の家を建てた」、とも伝えられていて、簡易的に建てられた仮家ですから、屋根にのった菖蒲やヨモギの香りが、そのままダイレクトに家の中にあふれたのではないかと思います。

この「女の家」と呼ばれる風習は、関東から西に、広く存在していました。屋根を葺く菖蒲とヨモギの量が多ければ多いほど、「お清めを万全にした!」ということになるため、早乙女たちは屋根に盛る菖蒲やヨモギの量を競った、とも伝えられています。まるでおとぎ話のようですね。

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毎年五月五日に行われる、京都の上賀茂神社の「賀茂競馬(かもくらべうま)」という行事があります。これはもともと、奈良時代から平安時代にかけて宮中で行われてきた馬の競走、「走馬(はしりうま)」という神事を、上賀茂神社に移しておこなうようになったものです。神社の神様には、この「賀茂競馬」を近くでごらんいただくため、神様がいつもご鎮座されている本殿から、馬場に設けられた仮の神様の家「頓宮(とんぐう)」に、そのときだけお引越ししていただきます。

そのさい、乗尻(のりじり)と呼ばれる競馬の騎手(左方・右方の二頭対決なので、騎手も二名です)が、菖蒲の束を、頓宮の屋根に投げてのせます。これも、屋根に菖蒲をのせることで、「頓宮全体をお清めする」というお祓いの儀式なのです。しかしこちらは「女の家」のように植物の量を競うのではなく、投げた菖蒲の束で「より深く屋根を葺いたほうの勝ち」、という勝負で、左方・右方のどちらが勝つかで、見物客は商売繁盛などを占ったと言います。

屋根を霊力のある植物で葺いて、室内の空間を、植物の芳香で満たす。これもまた、「お祓い」であり、むかしの人はそこに、勝負という遊びの要素も加えていたのですね。

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清少納言は、枕草子の第二〇七段「五月ばかりなどに山里をありく」のなかで、ヨモギの葉が牛車の車輪におしつぶされてくっつき、車輪がまわるたびにその香りがふわっとしてくるのが「をかし(すばらしい)」、と言っています。

これは、ゆっくりとまわる牛車の車輪だからこそ成り立つ「をかし」で、今のような自転車や自動車では成り立ちません。わたしたちは速さと便利さを手に入れたかわりに、このような情緒を失ってしまいましたが、こうして清少納言が書き残してくれたおかげで、その「をかし」を知ることができますし、さいわいヨモギは絶滅していませんので、今でもその芳香を「をかし」と、感じることができます。

実を言いますと、こうして原稿を書いている今日も、私は神社から歩いて三分ほどのところにあるサロンに「ヨモギ蒸し」に行ってまいりました。ヨモギ蒸しとは、全裸になり、首から下を大きなガウンでおおって、ヨモギを煎じた蒸気を、下から浴びるという民間療法で、もともとは中国の楊貴妃が発明して、その後韓国で広まったと言われています。中国の黄河の泥でつくった陶器の椅子は、真ん中に穴があいていて、座ると、下の鍋で煎じているヨモギの蒸気が、おしりや膣に当たり、その粘膜からヨモギの薬効成分が吸収されてゆく、というあんばいです。私はその椅子のうえで座禅を組み、一時間ほど蒸されます。

煎じるのは沖縄産のヨモギに、いくつかのハーブをブレンドしたもので、自然なよい香りに誘われて、無理なく瞑想状態に入ります。四十分たったところで、ガウンの中に頭もすっぽり入れて、目や耳、口の粘膜からも、蒸気を吸収します。すると、顔や頭から、だー、と汗が流れ出て、悪いものがすべて出尽くした感がします。

そのとき、ガウンの中はわたしだけの小さな「女の家」だなあと思うのです。閉じられた空間に、薬効のある植物の芳香を立ち込めらせ、そこにこもっているのですから、まさにリアルな「女の家」ですよね。

ちなみにここではどれだけ汗が出ても、べたつかないので、終わったあとは体をふくだけで、気持ちよく帰れます。ヨモギの抗酸化効果、血流促進効果のおかげです。

私は水風呂が苦手なのでサウナには行かないのですが、ヨモギ蒸しは、サウナの「ロウリュ」にも似ているのかもしれません。「ロウリュ」というのは、熱した石にアロマ水をかけて蒸気を発生させることで、アロマ水ではなくヨモギなどの生のハーブを石の上につるしておこなうこともあるようです。

神職にとっては、体調不良も「穢れ(けがれ)」のひとつとされています。清く健やかな状態でないと、ご神前での奉仕ができなくなってしまうので、心身の健康を保つために、私は「自愛(セルフケア)」と「自祓い(デトックス)」を欠かさないのですが、私にとってヨモギ蒸しは、その最たるもののひとつなのです。

さて、食べ物としてもヨモギは優秀です。栄養としてはビタミンA,B1 B2,C,Kが豊富で、ビタミンKは野菜の中でもトップクラスの含有量。それに、カルシウム、カリウム、鉄などのミネラルが豊富。さらにほうれん草の三倍のβカロテンや、殺菌作用と活性酸素をおさえるはたらきのあるクロロフィルを含んでいます。

世界的長寿で名高い沖縄では、よもぎはむかしから「ふーちばー」として親しまれ、「ふーちばーじゅーしー(よもぎの炊き込みご飯)」をはじめ、沖縄そばやヤギ汁などに入れて日常的に食されています。

私のおつとめしている神社の近所に、神様用のおもちを納めてくださるおもち屋さんがあるのですが、五月五日にはかならず、柏もちの「白」と「よもぎ」をお供えしてくださいます。神様用だけでなく、人が食べる用も持ってきてくださるのです。中のあんこは一緒ですが、ヨモギを練りこんであるおもち生地のほうが風味絶佳、ふたつ、みっつと手が出てしまうので困ります。

そうそう、柏の葉は、子孫繁栄を意味するおめでたい葉で、神社では古来、神饌(お供え物)を載せるお皿の役割も果たしてきた葉です。柏もちは五月五日の行事食。むかしから福徳開運の効果があると実感されて続いてきた、いわば「まちがいない開運スイーツ」ですので、五月五日にはぜひ食べたいものですね!

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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月

「小さな一瞬一瞬の幸せを感じる」を毎日続けていけば、「一生幸せを感じ続ける」ということになる。――当たり前のことだが、これが、神社神職として日々、神様に季節の食べものをお供えしたり、境内の落ち葉を履いて清めたり、厄除開運の祈祷を行って参拝者さんとお話ししたりする中でたどり着いた、唯一、確実な開運法なのです。

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桃虚 神職/ライター

神社神職。インド(ムンバイ)生まれ東京育ち。関西住まい。二児の母。

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