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文豪未満

2024.04.20 公開 ツイート

あなたの書店で1万円使わせてください ~コーチャンフォー新川通り店~ 岩井圭也

北海道札幌市。そこは、私が青春時代を過ごした地である。

大阪出身の私は大学進学のため18歳で札幌に移り住み、大学院(修士)を修了する24歳まで過ごした。修了後は関東に就職したため、北海道に足を運んだ回数は数えるほどしかない。

その札幌に、このたび6年ぶりに訪問することになったのは、ありがたいことにサイン会の機会をいただけたからである。

 
サイン会の日の朝には、北大キャンパスに立ち寄りました。

前回の更新は福井市の勝木書店さんでのサイン会がきっかけだったが、同じ流れである。今回サイン会を開いていただいたのは、札幌市北区にあるコーチャンフォー新川通り店さん。縁あって、3月に刊行された『人生賭博 横浜ネイバーズ4』の発売記念として、サイン会をやらせていただいた。

実は、3月は3週連続でサイン会をやらせてもらった。開催地は福井、横浜、札幌とバラバラだったが、どの会場でもたくさんの読者の方々に足を運んでいただいた。著者冥利に尽きる。

そもそも、サイン会は何のために開かれるのだろうか。なんとなく、「読者のため」のイベントだと思われていないだろうか。もちろん間違ってはいないが、それだけではない。サイン会は「著者のため」でもあるのだ。

読者の方からじかに励ましの言葉をもらったり、感想を聞かせてもらえるのは、著者にとっては非常に貴重な機会である。「面白かったです!」「楽しみにしてます!」と言ってもらえるだけで、モチベーションは爆裂に上昇する。もちろん、ネットで素敵な感想をいただけるのもとても嬉しい。けれど、「目の前にいるこの人のために頑張ろう!」という感情は、対面しないと生まれてこない。

ただ、人と会うのが苦手な人もいるだろうし、顔を出していない著者もいる。サイン会に乗り気でない著者も少なからずいるだろう。その気持ちを否定するつもりはない。ただ、岩井圭也という著者にとっては、サイン会は一種の「ごほうび」でもあるのだ。

閑話休題。

コーチャンフォーさんには、サイン会が決まってすぐに「あなたの書店で1万円使わせてください!」の取材についてご相談し、快諾いただいた。おかげさまで、第6弾となったこの企画の舞台はすんなりと決定した。

* * *

3月下旬、札幌。

タクシーでお店に到着したのはお昼頃。路傍には雪が残っているものの、日なたの路面はかなり融けていた。なお公共交通機関を使う場合は、バスがおすすめである。最寄りの天狗橋停留所から徒歩3分で到着する。

コーチャンフォーといえば「店舗の広大さ」で知られる。なかでも今回訪れた新川通り店は、屈指の広さを誇る超巨大店舗である。店舗面積は約3000坪に及ぶというから、半端ではない。

外からの一枚。大きすぎてまったく画角に収まらない。

お店では書籍はもちろんのこと、文具、雑貨、食品、CD、DVDなどを揃えていて、一日中いても飽きない作りになっている。買い物のしがいがあるというものだ。

ルールは「(できるだけ)一万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。今回は、サイン会のために同行してくれた担当編集者氏が一緒に回ってくれることとなった。さらに、コーチャンフォーのスタッフさんまで一緒についてきてくださった。お忙しいなか、ありがとうございます。

というわけで、いつも通り自腹の1万円を準備して、買い物スタート!

正面の出入口から入ってすぐの場所に、岩井圭也コーナーがあった。『横浜ネイバーズ』シリーズのほか、『楽園の犬』などが大々的に展開されていた。感謝。

お店に入ってすぐの一等地。

書籍コーナーのすぐ近くの棚では、食品が販売されていた。手作りおはぎセットに、たまごかけごはん専用コンビーフ、桜DRAFTなど、バラエティも豊富である。一瞬、自分が何屋さんに来たのかわからなくなる。

そう考えてから、思い直した。ここは何屋さんではなく、「コーチャンフォー」という唯一無二の業態なのだった。

広すぎて、どこから行けばいいのやら……

いったん書籍を離れて、食品コーナーへ足を運んでみることに。

道産食材や北海道企業の商品が多数販売されているだけでなく、カレーやドレッシングなどのオリジナルアイテムも豊富にそろっていた。ここだけでちょっとしたスーパーくらいの売り場面積である。

お土産でいただいた「ウマッシングじる」は自宅でいただきました。とてもおいしかったです。

こちらの店舗は、レストラン&カフェ「インターリュード」も併設している。買い物に疲れたらここで食事や休憩もできる。

「白い恋人ソフトクリーム」が食べられる貴重なお店。ランチビュッフェもやっている。

このままでは本を買わずに終わってしまいそうなため、なかば無理やり書籍コーナーへ戻ることに。

最初に足が止まったのは、「寿郎社フェア」の棚である。パネルに「地元の出版社」とあるように、寿郎社は札幌市に拠点を置いているという。

どれどれ。

棚には『北海道でがんとともに生きる』『利尻島から流れ流れて本屋になった』などの気になるタイトルがずらりと並んでいる。

なかでも私が惹かれたのは、ぼそっと池井多『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(寿郎社)である。「世界の車窓から」とか「世界のナベアツ」なら知っているが、「世界のひきこもり」は初耳だ。

著者は断続的に35年(!)ほどひきこもっているといい、世界ひきこもり機構(GHO)の創設者でもあるという。本書は、その著者が世界各国のひきこもりたちと交信した記録なのだという。

前代未聞のコンセプトだ。「地下茎コスモポリタニズム」に触れてみたくなったため、最初の1冊はこちらに決定。

今日の1冊目。

周辺の棚には「北海道の本」が取り揃えられている。『シマエナガと交換日記』『カムイ』などの写真集も豊富で、どれを手に取ろうか目移りする。

大好物の『スープカレー本』もあった。

棚の前をウロウロしている最中、ふと手が伸びたのは平積みされていた一冊だった。姉崎等、片山龍峯『クマにあったらどうするか アイヌ民族最後の狩人 姉崎等』(ちくま文庫)である。

帯にはこう書かれている。

「クマが怖い」という言葉が怖い

うーん、どういう意味だろう。そういえば、今冬は北海道や東北でクマが出没したというニュースをたくさん聞いた。これからの「クマ共生社会」を作るにあたって、これは必読の書なのではないだろうか。

というわけで、2冊目はこちらに決定。

表紙のクマもキュート。

再び、広大な書籍コーナーを歩く。

延々と続く本棚は、見ているだけで楽しい。しかしこれは一応企画であり、しかもサイン会の前に時間をもらってお店を巡っている。開始の時刻も迫ってきた。いったん撤収する頃合いか……

と思ったところで、足が止まった。文庫棚のまさきとしかさんコーナーである。まさきとしかさんは北海道にお住まいという縁もあり、大きく展開されているそうだ。

ジャーン。

かねてから、まさきさんの評判は各所で聞いていたものの未読であった。これを機に読ませてもらうことを決意。

選んだのは、まさきとしか『あの日、君は何をした』(小学館文庫)。50万部突破シリーズの第1作とのこと。今から読むのが楽しみである。

シリーズ3作目まで刊行されている模様。

前半はここでタイムアップ。いったん買い物は中断し、サイン会会場へ移動した。サイン会の前と後、両方で本を買う作家というのも珍しいのではないか。

当日は素敵な会場を用意していただいた。

盛況のうちにサイン会は終了し、少し休憩した後に買い物を再開。

最初に向かったのは、CDやDVDのコーナーである。

ウエスギ専務との一枚。わからない人は『ブギウギ専務』で検索してみてください。

隣には、北海道最大級のカプセルトイ専門店も併設されている。

およそ1300台あるそう。

同行してくださったスタッフさんいわく、店舗の端から端まで180メートルあるという。あまりの広さと売り場の豊富さには、圧倒されるばかりだ。

売り場の端から撮影した一枚。嘘みたいな広さである。

次に向かったのは、コミックコーナー。

全国に3つしかないらしい。

視線が吸い寄せられたのは、森田まさのり先生のサイン色紙だ。

不穏さがいい。

森田先生といえば『ろくでなしBLUES』や『べしゃり暮らし』の印象が強いが、今作はかなりダークなイメージである。色紙につられて、森田まさのり『ザシス』1~2(集英社)をフラフラと手に取り、購入決定。

5月に3巻が発売される予定。

近くにあったのは、今年亡くなられた鳥山明先生のコーナー。

大判の本に手が伸びる。

鳥山先生の作品ももちろん気になるのだが、とりわけ気になったのは、見覚えのない書影の本だった。鳥嶋和彦『Dr.マシリト 最強漫画術』(集英社)である。

伝説の編集者として名高い鳥嶋さんは、たびたび雑誌やネットの取材に応じている。つい最近も、『エンタの巨匠』に収録されていたインタビューを読んだばかりだ。その鳥嶋さんが語る漫画術というのはいかにも興味深い。

作家と漫画家で通じる部分もたくさんあるはず、ということで今日の6冊目に決定。

表紙にもマシリトが。

なんとなく、あと2冊くらいはいけそうである。

続いて、好物のノンフィクションを物色しに「社会」棚へ。

社会派の作品が並ぶなかに、大塚将司『回想イトマン事件 闇に挑んだ工作 30年目の真実』(岩波書店)を発見。戦後最大の経済事件といわれるイトマン事件は前々から興味があったが、背後関係が複雑すぎてなかなか理解しきれなかった。この一冊が手掛かりになるかもしれない。

7冊目はこちらに決定。

「本が本なんで、怖い顔で」と言われたのだが、なぜかトイレを我慢している人のようになった。

最後の1冊を求めて、文庫を物色することに。

売れ筋がズラリと陳列されている。

もはや全部面白そうに見えてきて、かえって決めきれない。

そんななかでも、「おや」と思ったのが伊吹有喜『犬がいた季節』(双葉文庫)である。本屋大賞3位の有名作品だが、文庫化していたとは知らなかった。実は本作もまだ読んだことがない。

サイン会では拙著『楽園の犬』が対象になっていたが、犬つながりということで、最後の1冊はこちらに決定。

初回限定の特製メッセージカードつき。

買い物はこれにて終了。

レジに持っていって、お会計。さあ、今回も1万円プラスマイナス千円の範囲内に収まっているのか。企画の趣旨はブレずに済むのか。

ドン。

いいね~

8冊で10406円。いい線いってるんじゃないでしょうか!

今回は企画はじまって以来の超大型店舗だった。広大な店舗を興味の赴くままに歩いていると、ちょっとしたハイキングのようにワクワクしてくる。この日は土曜ということもあって、店内はお客さんで溢れていた。スタッフさんいわく、札幌市外から足を運ぶお客様も少なくないという。

コーチャンフォーはきっとこれからも、北海道民の生活を豊かにしてくれるだろう。なにせここには本も、音楽も、食べ物もある。一日中といわず、二日でも三日でも滞在していられる。そういう魅力が、このお店にはあるのだから。

ランチに食べたスープカレー。札幌駅のhirihiri2号店にて。

* * *

最後に。

この企画に協力してくださる書店さんを募集中です。

「うちの店でやってもいいよ!」という書店員の方がいらっしゃれば、岩井圭也のXアカウント(https://twitter.com/keiya_iwai)までDMをください。関東であれば比較的早いうちに伺えると思いますが、それ以外の地域でもご遠慮なく。

それでは、次回また!

【今回買った本】

・ぼそっと池井多『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(寿郎社)

・姉崎等、片山龍峯『クマにあったらどうするか アイヌ民族最後の狩人 姉崎等』(ちくま文庫)

・まさきとしか『あの日、君は何をした』(小学館文庫)

・森田まさのり『ザシス』1~2(集英社)

・鳥嶋和彦『Dr.マシリト 最強漫画術』(集英社)

・大塚将司『回想イトマン事件 闇に挑んだ工作 30年目の真実』(岩波書店)

・伊吹有喜『犬がいた季節』(双葉文庫)

関連書籍

岩井圭也『プリズン・ドクター』

奨学金免除の為しぶしぶ刑務所の医者になった是永史郎。患者にナメられ助手に怒られ、憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が変死した。胸をかきむしった痕、覚せい剤の使用歴。これは自殺か、病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査を依頼するが――手に汗握る医療ミステリ。

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文豪未満

デビューしてから4年経った2022年夏。私は10年勤めた会社を辞めて専業作家になっ(てしまっ)た。妻も子どももいる。死に物狂いで書き続けるしかない。

そんな一作家が、七転八倒の日々の中で(願わくば)成長していくさまをお届けできればと思う。

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岩井圭也 作家

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュ ー。著書に『夏の陰』( KADOKAWA)、『文身』(祥伝社)、『最後の鑑定人』(KADOKAWA)、『付き添う人』(ポプラ社)等がある。

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