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時をかける老女

2024.03.28 公開 ツイート

【最終回】「ミギスケと書くのは変ね」名付けた人にそう言われても困るのだが…。無事に年を越せた 中川右介

2023年12月1日 金曜日

<介護1123日>

午前2時まで編集の仕事。7時に起きて朝食を出す。デイサービスへ。

原稿を点検して版元へ送る。これで、ひと山越える。

午後は元総理宅へ、打ち合わせ。

夕食。今日も、「疲れたから寝ます」と18時就寝。

試写で浜辺美波の新作『サイレント・ラブ』を見る。

12月2日 土曜日

<介護1124日>

デイサービスのない日。30分、寝坊。

月曜日の講座の準備。せっかく歩行器があるので、50メートル先のスーパーへ、一緒に行く。「こんなところ、初めて」。

昼前に、『沢田研二』の見本が着く。母は「沢田研二」が分からなくなっている。

菅直人氏の本がテーブルにあり、それを見て「カンナオト」と、迷わずに読めるが、「知ってる気がするけど、分からない」会えば分かるだろうか。2年前は会うと分かったが。

講座の準備。

ドラえもん見ながら夕食。18時就寝。

12月3日 日曜日

<介護1125日>

日曜日。デイサービスはないのに、日曜日と分からないから何度も出かけようとする。

久しぶりに洗濯ものを干してもらう。

今日は仕事はせずに読書。

夕方、急な仕事が入ったので、母には早めの夕食。17時に寝てもらう。

12月4日 月曜日

<介護1126日>

デイサービスへ。

午前中は雑用で終わる。午後は早稲田大学の社会人講座。

そのあと、妻と菅伸子さんと中野でお茶。遅くなったのでデイサービスに電話して、クルマに乗せないでと頼み、迎えに行く。

15分ごとに出るバスに間に合うように計算して迎えに行ったが、トイレに行っていて、3分待たされ、バス停手前10メートルの所で、無情にもバスは行ってしまう。15分待つ。環八、タクシー一台もなし。

「バスに乗るの」「そうだよ」「静岡へ行くのね」「うちに帰る」「静岡でしょう」

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もはや母の頭には静岡以外の地名がないよう。

夕食。18時半就寝。

12月5日 火曜日

<介護1127日>

「今日は日曜日よね」「違う」「土曜日」「違う」「金曜日」「違う」「何曜日なの」「火曜日」「まだ火曜日」と悲しそう。それでも元気にデイサービスへ。

歌舞伎座へ。今日は第一部だけ。見ていて疲れた。

デイサービスから帰る。朝と違うズボン。事件があった。本人は忘れている。

夕食。18時就寝。

12月6日 水曜日

<介護1128日>

午前中はマンガ革命の校正。

洗濯ものを干してもらう。昼食後、特養へ。土曜日までショートステイ。

「どこへ行くの?」「老人ホーム」「ずっと?」「3泊」「ご飯は朝昼晩とあるのかしら」「あるよ」「あら、嬉しい」

まるで、うちでは3食出していないみたいだ。

特養に着く。スタッフさんも骨折・入院は知っているので、「心配しました」

しかし当人は忘れている。

午後は、妻と『ゴジラ−1.0』を見る。夜は校正。

12月7日 木曜日

<介護1129日>

母はショートステイ。

午前中は、文字起こしの仕事。午後は歌舞伎座。

12月8日 金曜日

<介護1130日>

母はショートステイ。

妻と新橋演舞場で新作歌舞伎「ルパン3世」。

夜は文字起こし。

12月9日土曜日

<介護1131日>

午前中は、菅源太郎氏の市議選の決起集会。途中で抜けて、12時に特養へ母を迎えに行き、介護休暇おしまい。

ロビーにクリスマスツリーがあったので記念撮影。しかし、クリスマスを忘れているようで、無反応。

午後は月曜日の講座の準備。ドラえもん見ながら夕食、18時就寝。

夜は『第二次マンガ革命史』の校正。

12月10日 日曜日

<介護1132日>

事件なし。『第二次マンガ革命史』の校正。

母は18時就寝。

12月11日 月曜日

<介護1133日>

デイサービスへ。午前中は『第二次マンガ革命史』。午後は、早稲田大学の講座。

母の帰りが30分遅れた。何かあったかと心配したが、何もなさそう。しかし、食事中、黙りこみ、目の焦点も合わない感じ。いつもと同じ量を出したが半分残す。こういう日もある。

18時半就寝。

12月12日 火曜日

<介護1134日>

事件なくデイサービスへ。夕方まで『第二次マンガ革命史』の校正。

母、今日は定刻に帰宅。夕食、全部食べた。17時半就寝。

菅直人元首相の『市民政治50年』のゲラが出たので駅近くで編集者から受け取り、打ち合わせ。

12月13日 水曜日

<介護1135日>

デイサービスのない日。1時間ごとに、『第二次マンガ革命史』と『市民政治50年』の校正。

13時、ケアマネさんの家庭訪問。

夕方16時半に、メモリークリニックへ連れて行く。10月に行くはずが、骨折事件で延びていた。8月の検査結果では問題なし。しかし、入院中に転倒し頭を打っているので、MRIを撮ることに。出血は認められなかった。

三鷹で夕食。帰宅は8時。というわけで、久しぶりに20時30分就寝。

12月14日 木曜日

<介護1136日>

デイサービスへ。いつも持って行くカバンがない。時間までに見つけられず、手ぶらで。

朝から『第二次マンガ革命史』の校正。昼過ぎ、前半を編集者に渡す。午後は『市民政治50年』の校正。

母は定刻に戻る。夕食。18時就寝。

20時過ぎに起きてきて、「明日は仕事はないわよね」

デイサービスを会社と思っているのだろうと思ったら違った。「仕事って何?」「宝石を売る仕事よ」それは、40年前にやっていた仕事。いままで忘れていたのに。

しかし、「明日も行くのね」と分かると、すぐに寝た。不思議だ。

12月15日金曜日

<介護1137日>

カバンはまだ見つからない。バスに忘れたかもしれないので、問い合わせたが、なし。本人は、見れば自分のだと分かるが、なくなったことが分かっていない。デイサービスへ。

今日も昼間は『第二次マンガ革命史』、夜は『市民政治50年』。

夕食。「私、今日はどこにも寄らないで帰ってきたわよね」「たぶん」「どこかに行ったわよね」「デイサービス」「ほう」デイサービスでは楽しくやっているようなのだが、二重人格なのかもしれない。

18時就寝。

12月16日 土曜日

<介護1138日>

土曜日はデイサービスはないが、今日は臨時で頼む。見送って、銀座へ行き、歌舞伎を語る会へ。

吉祥寺で武蔵野政治塾。中島京子さんの入管についての講演。酷い話だ。講演はいい講演。入管が、ひどい。

母を迎えに行く。8分のバスに間に合うよう、今日は6分に着いたが、バスが来たのは15分。夕食、18時半就寝。母のカバンは、妻によって発見された。

12月17日 日曜日

<介護1139日>

事件なし。18時半就寝,

平和な日曜日。ずっと『第二次マンガ革命史』の加筆。

12月18日 月曜日

<介護1140日>

デイサービスへ。事件なし。

昼まで『第二次マンガ革命史』。三部のうち、第二部を戻す。ゲラの確認に1時間。

夜は『市民政治50年』。ずっとゲラとの格闘。

母は18時半就寝。

12月19日 火曜日

<介護1141日>

今日は朝から『市民政治50年』校正。

母はデイサービス。事件なし。夕食を食べさせて、出かける。

編集者に『市民政治』のゲラを戻す。帰宅し、夜は『第二次マンガ革命史』加筆。

12月20日 水曜日

<介護1142日>

デイサービスのない日。どうにか乗り切る。今日は朝から『第二次マンガ革命史』。終わりが見えてきた。

母は18時半就寝。

12月21日 木曜日

<介護1143日>

デイサービスへ。見送って、藤沢のクリニックへ定期検診。

往復の2時間で、映画をオンライン試写で見る。便利になったものだ。

新宿で、『第二次マンガ革命史』の打ち合わせ。

母は定刻。夕食。最近、生野菜を残す。18時半就寝。

『第二次マンガ革命史』、あとがきを書く。

12月22日金曜日

<介護1144日>

今日昼から介護休暇。午前中は『第二次マンガ革命史』の図表作り。指定するより自分で作った方が早いし、イメージ通りにできるので、In Designで自分で作る。

昼食後、特養へ連れて行く。

午後も、図版。夕方、武蔵野境へ、菅源太郎氏の選挙運動を見学。

そのあと新宿へ出て『スパイ・ファミリー』劇場版を見る。

12月23日土曜日

<介護1145日>

母はショートステイ。介護休暇2日目。

昼は妻と新宿スンガリーで忘年会ランチ。

猫の本棚で、『沢田研二』のサイン会。

帰路の電車で、発熱を感じる。菅源太郎氏の最後の遊説の見学はやめて、帰宅。37.8度。19時就寝。毎年、年末年始恒例の知恵熱か。朝には36度台に。

12月24日 日曜日

<介護1146日>

母はショートステイ。

熱は下がったり、上がったり。母がいない時でよかった。一日中寝ていた。

12月25日月曜日

<介護1147日>

母はショートステイ。

昨晩は高熱で20時就寝。5時半に起きる。武蔵野市の選挙結果を知る。市長は負け。菅源太郎氏は当選。

熱は36.5度まで下がったが、咳が出る。図表作り。

妻と夕食。なぜかサイボーグ009の話題になる。今日も早く寝ることに。

12月26日火曜日

<介護1148日>

母は明日までショートステイ。

熱下がる。昨晩は21時に寝たので5時半に起きた。7時から、図表作り。

午後は、銀座へ。年末恒例の加藤登紀子さん、ほろ酔いコンサート。

はねた後、佐藤利明さん、菅直人さん、伸子さん、ほかと夕食。

12月27日水曜日

<介護1149日>

午前中、買い物して、12時に母を迎えに行く。

介護休暇、終わり。今回は半分、寝ていた。

昼食は、焼きそばと焼売。肉はしっかり食べ、野菜と麺だけ残した。

午後は、図表作り。自分から作りたいと言ったものだが、だんだん、疲れてきた。

夕食はパスタ。トマト味。今度は残さない。18時半就寝。

12月28日 木曜日

<介護1150日>

今朝はいつもより早く、7時15分に朝食開始。しかし、1時間以上かかり、ブギウギが終わっても、終わらない。

デイサービスへ。昼過ぎに、デイサービスの施設から電話。転んだとのこと。大事にはいたらなかったようだ。当人は何も覚えていない。やたら早く動くので、転ぶのか。

図表作り、泥沼化。

夕食は、45分。18時半就寝。

12月29日金曜日

<介護1151日>

朝食時、「日本はこれからどうなるの」「日本が立ち行かなくなるってどういうことかしら」「わたし、日本にいていいの」と、深刻である。テレビのニュースの影響か。

今年最後のデイサービスへ。しかし、そう言うと、「もう行けないの?」と寂しそう。「正月で休むだけ。また行けるよ」と言うと、安心する。

今日も図表作り。午後は元総理のお宅へ、ゲラを届ける。

たまたま外にいたら、母が戻ってきた。ドアが開くなり、飛び出そうとするが、ベルトにひっかかり、出られない。すごく焦っている感じ。だから転ぶのか。

夕食。今度は、誰かと会話をしながら食べている。聖霊様と会話しているのではない感じで、世間話のようみたい。「ここは右介の家なんですよ」「そうなんですか、もうここは長いんですか」「さあ、どうでしょう」「前は静岡にいたんですよね」「そうです、そうです」という感じ。

やはり、二重人格なのではないだろうか。

食事が終わると、「あなたは、私の息子なのね」が始まり、「右介というんでしょう。どうして、そんな名前なの」と言い出す。「ミギスケと書くのは変ね」名付けた人に、そう言われても困るのだが。なにか納得以下ない様子だが、18時半に就寝。

しかし、何度も起きてくる。

12月30日 土曜日

<介護1152日>

午前4時まで冊子作り。

今日からデイサービスなし。

毎年、年末に出す冊子作り。母には、折る作業をしてもらう。

15時半過ぎ、私が寒け。またも高熱。

コンビニで、母の夕食を買い、これを食べるよう書き置きして寝る。

先週と同じ症状。17時間寝た。

12月31日 日曜日

<介護1153日>

熱、下がる。

母はドラめくりを見て、大晦日だと認識したが、3分で忘れる。

妻が午前中から来て、料理。母は誰が来たか分からないが、とくに気にもしなくなった。

東中野の蕎麦屋へ、年越し蕎麦を引き取りに。

3人で、蕎麦。

入院したり、いろいろあったが、無事に年越し。

*   *   *

 

<後記>

2024年3月3日、母は95歳になりました。転ぶこともなく、元気に過ごしています。

この連載は、当初は、とんちんかんなやりとりを、面白おかしく書いてきましたが、最近は、あまり母との会話もなく、またいろいろと失敗が多くなっています。

認知症とはいえ、母にも尊厳はあります。このまま、「介護の実態」をリアルに書いていくと、それを傷つけることになるのは必至です。読者の方にも、「楽しい話」ではなくなりつつありました。

そんなわけで、日記は今後も書こうと思ってますが、このへんで、幻冬舎plusへの掲載は終えることにしました。

多くの方から、メッセージをいただきました。ありがとうございました。

書くことで、ストレスの発散にもなっていました。読んでくださる方がいると思うだけでも、励みになりました。

本当に、ありがとうございました。

中川右介 Nakagawa Yusuke

*   *   *

※連載は終了しましたが、著者への感想、コメントはしばらくの期間、こちらのフォームで受け付けています(非公開)。これまでも様々なご感想をお寄せいただき、誠にありがとうございました。

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時をかける老女

91歳の母親と、33年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことになった。この日記は、介護殺人予防のために書き始めたものである。

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中川右介

一九六〇年東京都生まれ。編集者・作家。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務の後、アルファベータを設立し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版(二〇一四年まで)。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガ、政治、経済の分野で、主に人物の評伝を執筆。膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、データと物語を融合させるスタイルで人気を博している。『プロ野球「経営」全史』(日本実業出版社)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『国家と音楽家』(集英社文庫)、『悪の出世学』(幻冬舎新書)など著書多数。

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