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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.02.12 公開 ツイート

我々の感じる「気持ち悪さ」とは何なのか『勇気爆発バーンブレイバーン』から考える カレー沢薫

前回、周囲が口を揃えて「気持ち悪い」と感想を漏らす「勇気爆発バーンブレイバーン」が気になりすぎて、ほぼ人生初のロボットアニメ視聴を始めた、という話をした。

 

例外としてGガンダムの内容は大体知っているが、あれもフィルムブックとコミカライズを読んだだけでアニメは未視聴である。

確かに、聞きしに勝る気持ち悪さで、むしろ「自分もブレイバーンを気持ち悪いと思える標準的感性を持っていて良かった」と安心すらしてしまった。

そこで安堵して見るのをやめても良かったが、やはりこの気持ち悪さの行方がどこなのかが気になる。
私としては「最終的にあれだけイサミしか乗せたくないと言っていたブレイバーンが他のパイロットに乗り回され『もうイサミの操縦じゃ物足りないんだ!』というブレイバーンのビデオレターを見てイサミが泣き崩れるNTR」をキボンヌと言ったところ、100人中120人に「なんでそんなひどいことを考えるんだ」とドン引かれた。

どうやら自分が標準的感性を持っていると思って油断してしまったようである。

そんなわけで、現在4話まで視聴を進めた。

正直2話目までは「キモーい」「すごーい」とフレンズのような無邪気さで見ていたのだが、3、4話と続けて見るうちにだんだん私のツラは神妙になっていた。

これは我々が感じる「気持ち悪さ」とな何なのか、今一度考え直させるための作品なのではないか。

もちろん製作者にそんな意図は全くないかもしれない。しかし、描かれていない意図の幻覚を見たり、発信されてないメッセージを受信しやすいのがオタクであり、それがオタクが気持ち悪いゆえんの一つとも言える。

実際ブレイバーンのキモさについて考察している人間も多い。
まず気持ち悪さの大元は主役であるイサミへの一方的な謎の執着であり、それに引っ張られてなのか、それがキモさを助長させているのか、プレイバーンの表情にキモさを感じている勢も多い。

実際ロボットに詳しい人によると、ブレイバーンの監督のロボットは「口」があることが特徴なのだという、そういわれてみればガンダムにはない。
もちろん他にも口があるロボットはいるだろうが、さらに監督によるとブレイバーンには歯も舌もあるそうだ。
この顔の造形と表情がブレイバーンの気持ち悪さに拍車をかけているのは確かだろう。
監督のロボットの特徴を最大限に利用しているとも言え、とても感心してしまった。

しかし、口や歯や舌、表情があることで余計気持ち悪いということは「ロボットは人間に近づくほどキモイ」ということになる。
そもそも、ブレイバーンが見せる個人に対するクソでか感情も、人間が見せがちなものである。
つまり、ブレイバーンがキモいというより、我々人間の感情と造形がそもそもキモイのではないか。

確かに我々は皮膚丸出しなだけでなく部分的かつ集中的に毛が生えている気持ち悪い生物であり、他のお動物様が「ワン」や「ニャー」などシンプルなお声しかあげないのに対し「拙者の解釈といたしましては……」など、奇声の種類がやたら豊富である。

そんなキモイ人間がキモイのは当たり前であり、珍しいことではない。
しかし他人の自分の言動をモノマネされることで「自分はいつもこんなに気持ち悪いのか」と驚愕し恥じ入ってしまうように、ロボットに人間のキモさをトレースされることで、自分たちのキモさを強烈に自覚して「気持ち悪い」という自家中毒を起こしてしまったのではないか。

……と思ったが、3、4話を見る内に、ブレイバーンに感じる気持ち悪さは、言動、まして見た目の問題ではないのではないか、と思い始めてきた。

3話から、謎の少女キャラ「ルル」が登場し、4話の段階では何者なのか全く不明であり、言語も通じない。
ただ、イサミと対になるスミスというキャラに猛烈に懐くのだ。

何者なのかさっぱりわからないものが説明もなく一方的に懐いてくる、という構図はイサミとブレイバーンの関係とほぼ一緒である。
しかし、私はスミスとルルを見て、ブレイバーンとイサミに感じたような気持ち悪さは感じなかったし、微笑ましいとすら思えた。
実際、イサミも自分の境遇との差に怒りを見せるようなそぶりさえあった。

一方的な好意も「カワイイ女の子」から向けられるのは良くて、巨大ロボットから向けられるのは気持ち悪いという、これ以上ないほど「見た目の問題」のように見えるが、それも違う。

何故なら私は3,4話のブレイバーンを気持ち悪いとは思わなかった。

確かに2話目に比べれば直接的すぎる言動がなかったというのもあるが、2話目のブレイバーンはイサミに対してだけではなく周囲の人間に対し「人の話を全く聞かずに自分のいいたいことを一方的に話していた」のである。

それに比べれば3,4話のブレイバーンは、イサミへの執着はそのままだが、「会話」がほぼ成り立っていた。

だが、それを言うならルルも全く会話が通じないキャラであり、話の通じなさだけで言えばブレイバーンよりキモイと言ってもいい。
だが、ルルと会話ができないのは、ルルが言語を理解していないからである。

つまり私の感じた気持ち悪さの最大要因は「言語を理解しているのに話が通じない奴」に対する恐怖だったのかもしれない。

しかし「日本語をしゃべっているのに言っていることが何もわからないし、それを一方的に喋って来る」というのは、まさに私のようなオタクがやりがちなことだったりする。

もしかして、ブレイバーンは自分の気持ち悪さをこれでもか見せつけて来る鏡であり、自分は鏡に映った自分を指さして「キモーい」と笑っているピエロなのではないか。

もちろん、製作者にそんなつもりは全くないかもしれず、これこそが「日本語で書いてあるのに全く理解できない文章」として気持ち悪がられているような気がしてならない。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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