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月が綺麗ですね 綾の倫敦日記

2024.02.08 公開 ツイート

「男性はより保守的」「女性はより進歩的」韓国、アメリカのZ世代で広がる男女間の分裂…日本はまだ間に合う! 鈴木綾

ロンドン在住の鈴木綾さんのまわりで話題になっている男女間の価値観の分裂をめぐるニュース。Z世代が特徴的だけれども、他の世代でも見られる傾向とのこと。世代が二分されるとはどういうことなのでしょうか?

男女は敵同士ではない

先月のコラムで、男女の「読書ギャップ」について書いたけど、さらに重大な分断が男女の間で拡大しているニュースが英語圏ツイッターで話題になっている。この情報を日本の皆様にぜひ伝えたい、そして意見を聞きたい。

英ファイナンシャル・タイムズ(以下、FT)の分析によると、イギリス、アメリカ、ドイツ、韓国など、多くの国ではZ世代の男女間で価値観の分裂が生じている。中国でも同じ傾向が見られる。他世代と比較すると、女性はより進歩的(progressive)に、他方で男性はより保守的(conservative)になっている。つまり、一世代が二分されている。

 

ここで、FTは敢えて「右傾化」「左傾化」という表現をせず、「progressive」「conservative」という表現を使っている。これは、価値観の分裂が政治的立場の分裂――ある特定の政党を支持する――に止まらず、「社会のあり方そのものに関する価値観の分裂」になっていることを示している。Progressiveは「既存のシステムを改善する余地がある」と考える人々を指し、一方でConservativeは「既存のシステム維持派」の人々を指す。Progressiveの人は、より平等な社会を作ればいいと思っている。Conservativeは既存の構造を守りたい。そして排外主義的。

スタンフォード大学の客員研究員、アリス・エバンスによると、この現象の背景には複数の要因があると考えられる。「女性文化」の台頭――女性作家に書かれた本、映画の増加――や「経済的恨み」がその一例。要するに、女性の社会進出が進み、相対的に男性の社会的地位が低下した。そのことへの恨み、要するに女性への羨み・嫉みの気持ちが男性たちを保守的にしている。

このイデオロギー・ギャップは深刻な影響を及ぼす可能性がある。若い男女が理解しあわないことで、出生率がさらに下がるだろうし、政治的摩擦も起るかもしれない。社会はもっと不安定になる。

このFTの記事をフェミニストの女友達のWhatsAppグループに送ったところ、

「悩ましいね」
「やばいこれすぐ読む。ありがとうね」

という返事がたくさんきた。

FTの記事はZ世代の話に焦点を当てているが、30代・40代の女性たちにもその話が響くことは間違いない。なぜかというと、35歳の私と同世代の女性たちは同じことを実感しているから。

このWhatsAppグループの一人とちょうど今週末食事をした。30代後半でキャリアで大成功している、独立精神の強い彼女は彼氏の回転が早い。最近別れた彼氏の発言が彼女を嫌な気持ちにさせた話を聞いてあげた。

「世の中は勝者と敗者に別れている」と彼が何気なく、彼女に言ったらしい。

この「ゼロサム」的な考え方、要するに誰かが勝てば誰かが負ける、という考え方は若い男女間の価値観ギャップの背景にあると言われている。これも経済と密接な関係があると思っていい。第二次世界大戦直後の経済成長期は、程度の差はあれみんながそれなりに一定豊かになることができた。しかし現在、その「社会契約」が崩れつつある。

ちなみに、この彼氏はZ世代ではなく、立派なミレニアル世代だった。

実際、FTが発表したグラフを見ると、イギリスでこのイデオロギー・ギャップが開き始めたのは2010年ごろのよう。このイデオロギー・ギャップはZ世代において深刻なのかもしれないが、ミレニアル時代から存在していた。アメリカの場合、この分裂が始まったのは1990年の前。

Xのポストで見たが、ポーランドでこのイデオロギー・ギャップが特に深刻らしい。去年の選挙で、18歳から21歳ポーランド人男性の46%が右翼の政党を支持したのに対して、同年代の女性の支持率はわずか16%。今回の選挙では民主化推進政党が勝ったけど、将来は不透明。

去年ちょっと付き合ったポーランド人の彼を思い出す。彼は今まで付き合った人の中でもっとも保守的だったと言ってもいい。例えば、「金融業界はあまり女性に優しくないねー私たちはもっと女性に優しい業界にしないといけないねー」という話を金融業界経験5年の彼にしたら、抵抗された、というか、なかなか理解してもらえなかった。

彼の会社は投資家からの「チームの多様性向上」の圧力を受け、女性を雇おうとしたけど、女性求職者に断られたらしい。理由は、女性社員が一人もいない職場はいやだ。

「女性は子供を産んだら業界を離れるから頑張ってチームに入れても無駄」と彼が付け加えた。

研究者や経済学者によれば、男女の価値観分裂は違う観点からも説明できる。これはSNSの普及。InstagramやTikTokなどのアルゴリズムの進化で、私たちは自分の信念に近い情報、自分の信念を裏付けてくれる情報だけが選別されて届く。自分にとって都合の悪い情報はそもそも私の手元に届かない。

世界に繋がっているはずのSNSで、人々は蛸壺のような閉鎖空間に入り、そこでは同じ意見を持っている者同士の意見だけが反響する。エコーチェンバー現象だ。

ポーランド人の彼はよくTikTokを見ていたけど、とんでもない動画見ていたね。かわいい動物の動画と交差して、女性蔑視発言で有名な極右インフルエンサーのアンドリュー・テイト(性的人身売買の容疑で逮捕された)のような情報がいっぱい流れていた。彼のような男性はそういう動画をたくさん見ているだろうけど、「見せられている」というのも事実。私たちの信念や思い込みは無意識に、私たちの本能に働きかけ、見続けさせたい大手企業に左右されている。

男女間で広がりつつある分裂を埋めるには、「相手」じゃなくて「私たち」を操ろうとしている会社を共同の敵にしないといけない。

ポーランド人の彼と私は、ジェンダーや政治について違う価値観を持っていたのは確か。しかし、これで彼のことが嫌いになったわけではない。むしろ「私がこの人の意見を変えたら世界は少しでもよくなる」をチャレンジとして受け入れていた。

さて、日本はどうだろう。残念ながら、FTは日本のデータを発表していないが、女性友達の話を聞く限り、少なくとも男女間の経済的ミスマッチが生じていると思う。賃金の停滞(これは男女一緒だが)は男性のプライドを傷つけている。自分より稼いでいる女性と結婚したくない、といった保守的な見方を持つ男性が増えている一方、専業主婦として生活させてくれる位稼いでいる男性と結婚したい、と無理な夢を見続けている女性も少なくはないように思う。高収入・高学歴でセンスも良くて結婚願望があるのにパートナーがなかなか見つからない女性は多い。

イデオロギー的にはどうだろう。「若い男性が保守化しているかどうか」という問いについてヒントをくれるデータはなんだろう、と考えて、西洋の保守派と同じ排外主義的な考えを持っているネトウヨに関するデータを調べてみた。東洋経済オンラインの記事によると、ネトウヨの平均年齢は40代前半だから、あまりヒントにならないことがわかった。世代別では見れないが、「夫が外で働き、妻は家庭を守るべきである」と質問について政府は昭和時代から調査しているが、賛成派は男女共減ってきている。長いスパンで見れば、社会全体がより「Progressive」になっていることは確かだ。

また、日本は他国と比べたら生活水準が高く、社会的セーフティーネットがしっかりしている。このことは社会の一体性を支えていて、日本のアドバンテージになっている。

しかし、SNSの影響は日本も他国と変わらないし、経済も停滞しているのでイデオロギー分裂が生じ始めていてもおかしくない。何もしないでいたら、欧州の国のように分裂が進んで社会の対立が先鋭化してしまうかもしれない。

だから、遅くならないうちに、男女は一体となって、共同な価値観に合うような社会像を描いて、一緒に作らないといけない。

日本のみなさま、あなたたちにはまだそのチャンスがあるし、条件にも恵まれている。そのチャンスを無駄にしないで。

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鈴木綾さんとひらりささんのイベント第3弾を4月13日に開催します。今回は、「私たちに「恋愛」は必要なのか」を『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』を手掛かりに考えます。詳細・お申し込みは、幻冬舎大学のページをご覧ください。

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イギリスに住む30代女性が向き合う社会の矛盾と現実。そして幸福について。

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鈴木綾

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。ロンドンの投資会社勤務を経て、現在はロンドンのスタートアップ企業に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

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