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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.01.27 公開 ツイート

フィクションの感想に出て来る「気持ち悪い」はどちらか判別がつかない カレー沢薫

「ヤバい」

もうこの一言だけではクールな映像を目にした時なのか、またはホットなクレカ明細を開いた時なのかシチュエーションが判別できないぐらい「ヤバい」は褒め言葉としても浸透してきている。

 

「ヤバい」だけではなく、貶しと褒めは紙一重なところがあり、どんな侮辱も「いい意味で」をつけることで、むしろ最上級の褒め言葉となる場合もある。

つまり実写デビルマンは「いい意味でクソ」であり、うっかり私の実デビクソ発言に乗って「本当にクソ、途中で見るのをやめた」などと言うと「最後まで見てないくせにお前に実デビの何が分かる」と血相を変えて怒りだすので、いろんな意味で「悪口の便乗」は慎重に行ったほうがいい。

ただし、貶し褒めが通用するのはあくまで自分の中だけであり、他人に対し「いい意味でハゲ」などと言ったら例え褒め言葉のつもりでも、いい意味で全員の骨を粉砕されても文句は言えない。

だが、フィクションの世界では「一見貶しに聞こえる褒め言葉」という文化がさらに顕著である。

もし、実生活で「会社の上司が本当にクズ」と相談を受けたら「でもそういうところが好きだし、何だったらもう不倫してるんだろ」とは思わないだろう。

しかしフィクションの場合「このキャラが本当にクズで」と言い出したら、その直後に「だからもうアクスタを10体買った」という話になっても何ら不思議ではなく、さらに「全部玄関に飾っているけど本当にキモイ」と言いながら、目が輝いているのである。

だが、もちろん本当にキモイだけで一刻も早く消えてほしいクズキャラな場合もあるので、フィクションの感想に出て来る「気持ち悪い」は、一見にしてどちらか判別がつかないのである。

そんな中「気持ち悪い」という感想が席巻するアニメが登場して話題になっていた。
それが「勇気爆発バーンブレイバーン」である。

少し前に「作品などに対し少しでもネガティブな感想をつぶやくと、そのファンに批判されるため、気軽に感想もつぶやけなくなった」という旨のポストが話題になり物議を醸していた。

確かに、どれだけ悪い意味で面白くない作品にであっても、それが好きな人がいて、その人が気分を害するかもと思ったら、そう公で面白くないとは言えないものである。

そういう意味では「気持ち悪い」も大きな声で言うには若干勇気がいる感想だ。
しかし、ブレイバーンに関しては、もはや気持ち悪い以外の感想を探すのが難しいレベルなのである。

かつて名探偵コナンの映画「ゼロの執行人」が公開された時、見た者が男女問わず次々と「安室の女」のと化す現象が起こった。
だが、そうなるにつれ、これから見る者の間に「もし安室透に対し何も思わなかったらどうしよう」というある種の恐怖が広がり、実際そうだった者は「自分には刺さらなかった」ということさえ言えず、孤独を抱えたという。

それと同じように「もしブレイバーンを見てキモイと思えなかったらどうしよう」と、自分の感性に不安が起こるほど、みんなブレイバーンを見て気持ち悪くなっていたのだ。

だが、前述の通り、フィクションにおいて「気持ち悪い」は悪口ではなく、むしろ最上級の褒め言葉である場合も多い。

実際ブレイバーンに対する「気持ち悪い」は、口元をハンカチで押さえながらの小声ではなく、虹色のゲロを吐きながら、という感じのものも多かった。

ここまで言われると、怖いもの見たさではどれだけ気持ち悪いのか確かめて見たくなるものである。

そんなわけで、私は真相を確かめてアマゾンプライムの奥地へと飛んだのだが、簡潔に言うと「ここまで気持ち悪いとは聞いていなかった」ことを争点に法廷で戦いを挑めるレベルだった。

本当に「気持ち悪い」以外の感想を口にしようものなら「本当に見たのか」とエアプ疑惑をかけられても仕方がなく、いい意味か悪い意味かでいうと「キモいという意味でキモかった」としか言いようがない。

しかし「不快だから二度と見たくない」というものでもない。
むしろ「こんなに気持ち悪くてこの先どうするつもりなんだ」という、行く末を見届けたくなる気持ち悪さであり「視聴者に続きを気にさせる」という点では、見事な滑り出しと言うほかない。

さらに、これがロボットアニメというのが改めてすごい。

私はロボットに対する造詣は極めて浅い方であり、仮面ライダーのバイクを見せられた中川の如く、ロボットを並べられても「全部一緒じゃないですか」と言い出す、わかっていない側である。
よって今まで、ロボットを見て「かっこいい」「ダサい」などと感じることすらなかった。

そんなロボットに対し感情がなかった人間に「キモい」という感情を芽生えさせたというのは、心がないロボットに愛を教えるより難しいのではないだろうか。

そもそも、ロボットアニメに食指が動かない人間に興味を抱かせ、見させるに至った時点でスゴイのだ。
その代わり、従来のロボットファンたちがこれをどう思っているのかがわからないのだが、何事も既存客ばかりを相手にしていては先細りである。

気になった人はぜひ見て欲しいのだが「いくらなんでもここまで気持ち悪いとは思わなかった」という苦情は受付けかねる。

その点に関しては私も未だ原告側の一人なのだ。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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