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キリ番踏んだら私のターン

2023.12.10 公開 ツイート

新居を探して3年目、ようやく出会った「息がしやすい家」の条件について 長井短

「新居が傾いていた」ところから始まった、3年間の苦悩

ようやく、本当に本当にようやく、引っ越しできた。

3年前、新居が傾いていて出て行かなきゃいけなくなった時が全ての始まりである。一目惚れした小ぶりなマンション。部屋を区切る小さなドアも、これでもかってくらいに光を入れる2つの出窓も、目の前にあるみたいに思い出せる。でも、なんせ傾いていたのだ法に触れるレベルで。人間が住めるレベルの傾きではなかった。「ここしかない!」と思った部屋は瞬く間に「ここだけはダメ」な部屋に代わって、大慌てで引っ越し先を探した。

 

当然、最高の部屋なんてそう次々見つかるはずもなく、とりあえず傾いていないだけのマンションを契約した。あぁ……あれから3年も経つのか……絶対にすぐ引っ越そうと思っていたものの、良い物件との出会いとか仕事の都合とか貯金額とかで、こんなに時間が経ってしまった。

でも、ようやく私出会いました! 心から愛する家に引っ越せて、生活に色が帰ってきたような日々。譲らなくてよかった。妥協しなくてよかった。そう思えたことで、目減りしていた自己愛がぐんぐん復活している。

「お揃いの間取り」に打ちのめされた日々。

我ながら、とんでもなくめんどくさい人間だと思う。物件を検索するときの条件は緩いほうなのに。駅から徒歩15分くらいまではOKだし、築年数もこだわりはない。2階以上なら全然いいし、オートロックとか置き配ボックスもなくて大丈夫。でも、記入できないこだわりがあった。その家の作りに、オリジナリティがあるかどうかだ。「なんでこうなってんの?」って疑問に思うような意味わかんない何かが一つでも良いからあってほしい。

ホテルに泊まった時、フロントに「漫画コーナー」って看板があって、行ってみたらビビるほど児童館だった。漫画のラインナップは幅がすごくて、本当に漫画が好きな人が作ってくれたんだなってわかる。読みたい漫画がない人いない部屋すごい。

3年間毎日物件検索をしていた私はもう、マンションの外観を見るだけでおおよその間取りの検討がつくようになっていた。大抵ね、小綺麗な見た目のマンションってのは中の作りが同じなんですよ。

小ぶりな玄関広めのリビング。なんとなくのカウンターキッチンと、押し入れみたいなクローゼット。はいはい、でここを寝室にするって想定でしょ。で、こっちは仕事部屋としても○みたいなね。見るたびに頭がおかしくなりそうだった。こちら側に、想像の余地があまりにも少ないのだ。「え~どっちを寝室にしよう」とか「ここがリビングもアリじゃない?」とか、そういう想像と破壊を行える可能性が見えない。「この間取りならこうするしかないね」って部屋の連続

もちろん、その方が楽で性に合う人もいるだろう。スタンダードな間取りの中に、お気に入りの家具を置いていくことに喜びを感じる気持ちもわかる。でも! 私は違うの!

あまりにもお揃いの間取りに打ちのめされすぎて、ワンルーム限定で検索をしていた時期もある。昔一人暮らしをしていた部屋は広めのワンルームで、それを家具とかカーテンで区切って済むのが大好きだったから。ジャングルみたいで。あの頃よりも広いド級のワンルームを借りて、そこをまた、オリジナルに仕切っていけばいいのでは? あつ森みたいにさって思ったけど、流石に、2人暮らしでのそれは無理があった。2人とも台詞覚えないといけない時、無茶苦茶になるし。

となると、次のターゲットは築年数の古い家になる。中でも一軒家。最近はマンションより一軒家の方がむしろ家賃が安かったりして、選択肢は沢山あった。

「一軒家ツアー」で分かった「本当の住みたい家」

一軒家はマンションと逆で、外から見た姿は結構みんな似ているのに、中の構造がまるで違った。キッチンとリビングが遠い家や、執拗に区切りすぎて狭い家。なんか抜け道みたいに洗面所と廊下が繋がってる家もあったっけ。

それらのほとんどは木造で、築40年以上経っていて、傾いていた。傾きにトラウマがある私たち夫婦はもうその時点でどうしてもダメで、何度涙を飲んだだろう。

でも、この一軒家ツアーで分かったことがある。

終電間近の上野駅、寂しくて良い場所だった。ここってきっと、かつてはマジで真ん中だったんだろうなって感じる作り。でも今は、東京駅とか品川駅の方が真ん中で、上野駅さんは東京駅たちをどんな瞳で見てるんだろう。

私は、その家に最初に住んだ人がどんな家に住みたかったかを感じられることが絶対条件なのだった。誰かの意思を感じられないと住めない。使い勝手の良いシンプルなマンションをどうしても好きになれなかったのはきっとこれが理由だ。誰の愛情で、どんな意志で作られたのかがわからない。人類の平均を算出して、そのデータを元に作ったような家が怖かった。だって「平均」ってのは、誰かが持ってるものじゃない。みんなの意思をラインナップして、その真ん中をとったものだ。もはやそれって、逆に誰も持っていないものになる。だからこそ、みんなにとって納得いくものなんだろうけど。

誰にとっても一定の快適さを提供できることはすごい才能だ。でも、あまりに私の生き方と違う。私なんて、超ピンポイントなニーズで飯食わせてもらってますからね。誰が見ても美しいとか、誰が見ても上手とか、そういうのできなくて、全然自分にない才能で、だからもう、私は私をやるしかない。そうやって腹を括って生きてきたのに、自分の家が綺麗な五角形グラフを描くべく作られたそれっていうのは、自分自身を否定して生きているような気分なのだ。ちゃんと苦しい3年間だった。自分の家だって思えなくて、構造を感じるたびに「ちゃんとしなさい」って言われてるような。自我は捨てて平均を追いかけろって囁かれるみたいな。あー! きつかった!

「息をするのが楽」な家に住めて、来年への希望がわいてきています。

やっと出会った今の家には、溢れるような意志がある。家を探し始めた時に条件としていた「意味わかんない何かが一つあってほしい」っていう私の注文は、玄関にある天窓という形で回収された。本当、意味わかんないよ。あとなんか、用途がわからないスイッチがあるよ。だから大好きだよ。

今になって思うのは、私が求めていたのは「意味わかんない何かがある変な家」とかじゃなかったってこと。多くの人からしたら「いらなくない?」とか「もったいないよ」と言われることを「いいや! いるんだ!」って踏ん張り続けた足跡が欲しかった。意思を持って平均を取らず、自分にまっすぐ建てられた家に住みたかったの。だってそれが、私の望む生き方だから

おかげでここ最近、息をするのが楽だ。誰かの頑なな愛情と意思を感じる家のおかげで、私も自分の好きなところを、ちゃんと好きだって思えるようになっている。矯正器具が外れたみたいな解放感だ。きっと来年は良い年になる。失敗しても、求められなくても、自分の意思がここにあるから。

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キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短 女優・モデル

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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