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「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?

2023.11.20 公開 ツイート

俳句を詠ませて分かった、ChatGPTの創造力のなさ 野口悠紀雄

AIに小説や俳句は作れる?――AI時代にアイデアを生み出す最強の手法を解説する幻冬舎新書『「超」創造法 生成系AIで知的活動はどう変わる?』より、内容を抜粋してお届けします。

*   *   *

AIが 作る俳句は 駄作だけ

ChatGPTが俳句を作れるかどうかを実験してみました。「俳句を作ってもらいたいのですが、どのようなプロンプトを書いたらよいですか?」とChatGPTに尋ねたところ、つぎの事項を指定せよとの回答でした。

  • (1) 季語(テーマや季節感を表すもの)
  • (2) 表現やイメージについての要望。

そこで、季語を「クレマチス」とし、庭でクレマチスの花が咲き始めている状況を説明する、いささか長めの文章を書いて、〈新しい俳句を作ってほしい〉と指示したところ、直ちにいくつかの俳句が得られました。しかし、どれもひどい出来です。

「GPT、俳句は詠めてもひどい出来」

 

「クレマチス」というカタカナは俳句には向かないのかと思い、〈クレマチスと春という言葉が入っている俳句で、これまでに作られたものを10点教えてください〉と指示したところ、直ちに示してくれました。

これを見る限り、この言葉が俳句向きでないとは言えないようです(なお、これらが、現実の人間によって作られたものかどうかを尋ねたのですが、曖昧な答えでした)。

要するに、人間を感動させるほどの俳句を作る能力は、ChatGPTにはないことが分かりました。俳人の方々は、どうかご安心ください。

前節で述べたように、小説や映画の筋書きを書いてほしいという要望に対して、ChatGPTはまことにお粗末な答えしか出してくれません。それと同じことです。

 

ChatGPTが作った俳句や、小説・映画の筋書きはなぜだめなのか? そう問い詰められても、「こういうのではダメなんだよ」と言うしかなく、うまく説明できません。

第6章の2で、「人間の創造的活動は『審美的洞察力』に導かれて行なわれる」というポアンカレの言葉を紹介します。この言葉を用いれば、「人間は審美眼を持っているが、ChatGPTは持っていない」ということです。

 

ChatGPTの創造能力を判定するには、俳句の出来栄えを見るのが一番簡単だと思います。判定する側から言えば、長い文章を読まなくとも、わずか17字で判別できるからです。作る側から言えば、わずか17字で、これまでにない新しい作品を生み出そうというのですから、大変なことです。

しかも、いまの場合は、「クレマチスという言葉を使え」と制約しているので、残りは12字しかありません。12個の文字の組み合わせで、これまでになかった世界を作り出そうというのは、極限の創造活動と言えるでしょう(ただし、そうであっても、可能な組み合わせの数は膨大です。これについては、第6章の2で、具体的な数字を示します)。

 

ChatGPTの能力がいまのレベルである限り、創造的な仕事に従事している人は、あまり心配しなくてよいでしょう。むしろ、人間が持っている創造力の価値が上がると考えてよいでしょう。

ChatGPTが俳句を作るプロセス

以上の実験で、興味深いことが分かりました。

それは、ChatGPTが俳句を作るプロセスです。「クレマチス」という言葉を含んだ俳句を参照し、それらの俳句で使われている表現を、真似ているようなのです。

なぜそう考えられるかというと、前項で述べた10点の既存俳句例の中で使われている表現が、ChatGPTの作った俳句に、そのまま現れるからです。

クレマチスの花(Jolly Janner, Public domain, via Wikimedia Commons)

人間も、これまでに作られた俳句に影響を受けているでしょう。しかし、それらは、いったん記憶の中に取り入れられ、無意識のレベルにまで沈んだあとに、いま作ろうとしている俳句に、無意識のうちに影響を与えるのではないかと思います。

それに対してChatGPTの場合には、過去に作られた俳句の利用が、もっと直接的・機械的に行なわれているように思えます。

俳句以外のことに関しても、ChatGPTは同じようなプロセスで出力をしているのでしょう。俳句の場合にはわずか17字しかないので、これがはっきり分かってしまうのだと思います。

*   *   *

この続きは幻冬舎新書『「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?』でお楽しみください。

関連書籍

野口悠紀雄『「超」創造法 生成系AIで知的活動はどう変わる?』

生成AIによって、単純な知的作業の効率を著しく高めることが可能になった。そのおかげで人間は、AIにはできない”創造活動”に集中できる。創造とは、アイディアを見つけ、育てること。方法論なしに、いいアイディアを思いつくことは、ない。半世紀にわたってアイディアを生み出す手法を蓄積してきた著者は、生成AIを導入・実験して、真に効果がある使い方を発見。生成AIという優秀な助手を得て、さらにバージョンアップした、最強のアイディア創造法を公開。AI時代に誰が失業し、誰が伸びるか?

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「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?

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野口悠紀雄

1940年、東京に生まれる。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専攻は日本経済論。近著に『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社、岡倉天心賞)、『2040年の日本』(幻冬舎新書)、『超「超」勉強法』(プレジデント社)、『日銀の責任』(PHP新書)、『プア・ジャパン』(朝日新書)ほか多数。

・Twitter @yukionoguchi10
野口悠紀雄Online
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