
飛行機に乗ると、必ずりんごジュースをリクエストする。
普段はそんなに選ばないのに、何故か飛行機の中で飲むりんごジュースはとびきり美味しく感じるから。
なぁんて事を考え、今日もりんごジュースを飲もうと思っていたはずなのに、客室乗務員のお姉さんが、そっと目の前にメニュー表を出してくれると、全く違うジュースを指差してしまった。
「ももとぶどう」と書かれたメニューを選んだのは、単純にぶどうが好きだからで。
へぇ~。ももとぶどうなんてあるんだ。初めて飲むなぁ~何で今まで知らなかったんだろうと考えていると、お隣のご婦人が選ぶ番となった。
ご婦人が指差した先には「ビーフコンソメスープ」と書いてあった。
な、な、なにそれ!!! 私の目には入っていなかった。今までそれなりに飛行機には乗ってきたはずだけど、「ビーフコンソメスープ」という存在も気にしたことがなかった。
こういう事よくあるんだよなぁ。
メニューを見るのが苦手というか、見ても全然頭に入ってこない事が多い。例えば今回のように好きな「ぶどう」という文字を見つけると、それ以外入ってこなくなってしまう。
しかし、私はお隣のご婦人が選んだビーフコンソメスープが一瞬にして羨ましくて仕方がなくなった。
それは、飛行機の中が寒かったから。なーんーでーーー! 寒いのに冷たいジュースを選んだ!? ︎ と自分でも思うけど、選ぶときにはそこまで考えられていないのだ。りんごジュースしか選択肢になかったのだもの。
私は知っている。飛行機の中は物凄く寒いということを。
確かロスに行ったとき、途中から寒くて寒くて寒すぎて、ブランケットにくるまり、数時間耐え続けた経験がある。
それ以来、私は夏でも上着を持って飛行機に乗るようにしている。ここ数年はインナーダウンと呼ばれる薄めのダウンをバックに忍ばせて搭乗する。9月上旬の今回も、勿論持ってきた。
機内では案の定すぐに寒さを感じ、インナーダウンを着て過ごしていた。そんなに寒いのに、温かいものを飲もうという判断にならないのはおかしすぎる。
人間の脳というものは、いや、私の脳は、勘違いも多ければ、臨機応変さにも欠けるようだ。

とはいえ、ももとぶどうのジュースを美味しく頂き、更に体は寒さを感じたけれど、残りのフライトは1時間程だったので、なんとか凌いでたどり着いた。
飛行機を降りるとマネージャーさんから「さっつん真冬みたいな格好してるじゃん! さっつんだけだよ!」と笑われた。
「え? 飛行機寒くなかった?」
「寒くない! 寒くない! 全然寒くないよ!」
ここで思った。
私が極度の寒がりというパターンもあるけれど、飛行機は寒いという思い込みも強いのかもしれないと。周りを見渡すと、確かに、薄手とはいえダウンを着ている人はいなかった。9割が半袖だった。
よくよく考えてみる。
私がいつもりんごジュースを頼むのは美味しいからではない。客室乗務員の方に伝わりやすいからだ。
フランスに向かう機内、英語で飲み物何にする? と聞かれた。そのときに言った、「オレンジジュース」が全く伝わらなかった。10代の若い私には、英語が伝わらない恥ずかしさがかなりあったのだと思う。
次のときに、「アップルジュースプリーズ」と言うと、一発で伝わった。ものすごく安心したのを覚えている。それからきっと私は、飛行機に乗ると、りんごジュースを頼んでいるのだ。
美味しいけど、きっと、美味しいからではない。それから長い間、飛行機といえばりんごジュースという脳になっていたのだ。
そんなことに気が付いたフライト。保守的である良さと、勿体無さ。私は、もう少し思い込みを外していきたいかもと思った。

翌日の帰りの飛行機。私は待望のビーフコンソメスープを頼んだ。物凄く、物凄く、美味しかった。なんでこんなに美味しいものを今まで飲まなかったのだろうと軽く後悔した。インナーダウンは相変わらず用意したけれど、膝にかけるくらいがちょうど良かった。よくよく感じてみたら、物凄く寒いではなく、少し肌寒いくらいに感じた。
思い込みに気付いたら、新しい選択肢を選んでみるのも、きっといい。
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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、34歳のリアルな日常を綴る。