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突き抜けろ

2023.07.01 公開 ツイート

イニエスタ、神戸ラストマッチ!三木谷氏が実現したスター入団秘話 上阪徹/三木谷浩史

サッカーJ1のヴィッセル神戸に所属する元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタが、7月1日に退団する。なぜ世界的スーパースターは強豪バルセロナから、日本のクラブへの移籍を決断したのか。背景には神戸の三木谷浩史会長の大胆な決断があった。楽天グループの歩みを描いた、同氏監修の書籍『突き抜けろ』から、イニエスタの入団秘話を紹介する。

❇︎   ❇︎   ❇︎

「直接会いにいくしかない」

プライベートジェットの中で三木谷が決めたのは、実はFCバルセロナとのパートナー契約だけではなかった。安藤(広二、社長室室長)がもう一つ、忘れられないのは、日本だけでなく世界を驚かせた、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手の獲得だ。

FCバルセロナのスターにして、スペイン代表としても活躍した世界最高のミッドフィルダー。彼がJリーグでプレーするという夢のようなニュースは、日本のサッカーファンに大きな衝撃を与えた。

(写真:iStock.com/efks

「アンコーさ、このままじゃ、決まっちゃうよな。こうなったら、直接、会いに行くしかないか」

アメリカから日本に戻るジェット機の中で、三木谷は安藤につぶやいた。2018年4月のことだ。

イニエスタが海外に移籍する、というニュースは、その年の春から流れ始めていた。交渉していたのは、中国のクラブチーム。年俸約35億円に加え、イニエスタが所有するワイナリーのワインを約46億円で買い取るという破格の条件を出していたとも報じられていた。すでに中国に招待されていたという話もあった。安藤は回想する。

三木谷自身がイニエスタの自宅に

「ゴールデンウイークの直前でした。楽天はFCバルセロナのスポンサーですから、すぐにイニエスタにアポイントを取ってもらって、三木谷自らがイニエスタの自宅を訪れたんです」

安藤が何より驚いたのは、三木谷の電光石火の行動力だった。思いついた数日後には、もうイニエスタの自宅に向かっていたのだ。

「イニエスタは喜んでいましたね。三木谷自らわざわざ家に来てくれたわけですから。握手で迎えてくれて。中国に行くことはほぼ決まっていたと言われていましたけど、決めきれない何かがあったのだと思います。そこに、日本から三木谷がやってきた。FCバルセロナのメインパートナーのトップですからね」

「日本サッカーを引っ張ってほしい」

バルセロナ郊外の大きな邸宅の一角には、ミーティングルームがあった。プロジェクターがあり、大きなモニターが備え付けられていた。イニエスタはここに家族やマネージャーも招き入れた。三木谷が、にこやかに話し始める。安藤は語る。

「楽天グループという会社やサービスの説明から、ヴィッセル神戸というチームの素晴らしさ、日本の生活環境、神戸の街の特徴まで、いろんなことを話していきました。僕が印象深かったのは、日本のサッカー界を引っ張っていってほしい、という言葉です。イニエスタは、この言葉に一番、反応したんじゃないかと思います」

世界ナンバーワンのミッドフィルダーが日本にやってくる。それは、ヴィッセル神戸というクラブチームだけの価値ではない、ということを三木谷はよくわかっていた。日本のサッカー界のためにもイニエスタには来てほしかったのだ。

(写真:iStock.com/resulmuslu

この電撃訪問の後、三木谷は日本に戻った。イニエスタはその後、家族とパリで1週間の休暇を取ることになっていた。パリのディズニーランドを訪れると聞いた三木谷は、なんと日本からイニエスタを迎えに行くことを決意する。

そしてこのパリで、イニエスタはヴィッセル神戸との契約にサインをすることになる。

「新しい友達を連れて東京に帰ります」

「目の前で三木谷とがっちり握手をして。これは現実なのか、とさすがに私も興奮しました。とんでもないことが起きた、と思いましたね。しかも、三木谷はそのままプライベートジェットでイニエスタを日本に連れてきてしまうわけです」

イニエスタのスタッフも乗り込んだため、安藤は寝る場所がなくなってしまい、ジェットの床に寝転んで寝ることになった。もっとも、目と鼻の先に、世界的なサッカープレーヤーがいるのだ。そうそう眠れるものではなかった。

三木谷はこのとき、

「これから新しい友達を連れて東京に帰ります」

とイニエスタとのツーショット写真とともにツイッターに投稿している。日本が大騒ぎになったのは、言うまでもない。

ひと月足らずの移籍劇

2018年5月24日、イニエスタとヴィッセル神戸の契約が正式発表された。

「これから神戸に向かいます」

こうツイートした三木谷は、イニエスタを神戸に招き、鉄板焼きを食べ、神戸の夜景も案内している。さらには翌日、サポーターへのお披露目イベントも開催された。

バルセロナに行こう、と決めてから、一カ月経っていない。いやもう、とんでもないスピード感ですよね。大きな決断をして、自ら乗り込んで、しかも連れて帰ってお披露目をする。これができるのが、三木谷なんですよ」

飛行機の手配をしておく、なんて話ではない。自分で連れて帰ってきてしまったのである。それにしてもFCバルセロナにイニエスタ。世界最高峰なのだ。周囲の想像をはるかに超えることを三木谷は平気でやってしまう。

「だからもう、最近はなかなか驚かないですね(笑)」

 

関連書籍

三木谷浩史『突き抜けろ 三木谷浩史と楽天、25年の軌跡』

常識に挑む 実業家の素顔 関係者らが明かす、創業四半世紀 1997年にたった6人で創業した、ベンチャー企業、楽天。創業当時、ネットでモノは売れないと揶揄され、楽天市場の初月の売上げはたった数万円。しかし、25年経った現在、そのベンチャー企業はショッピングのみならず、ネット上で国内屈指の銀行、証券会社を有し、クレジットカード発行枚数はダントツ日本一、売上高1.7兆円の巨大経済圏を形成する、メガ企業に成長した。本書では、楽天の成長を紐解くために、創業者、三木谷をはじめ幹部ら15人超にインタビューを敢行。挑戦と挫折の歴史から、社運をかけて乗り込んだ、携帯電話事業の全貌に至るまで、唯一無二の壮大な物語が完成した。 【章立て】 はじめに 第1章:聖域を作るな ・「やる気がないなら、来るな」 ・市場の出店者がゼロになってもいい ・・・ 第2章:旗を立てよ ・「オレが営業本部長をやる」 ・グーグル並みのポテンシャル ・・・ 第3章:地べたを這いつくばれ ・社名はみんなで考えてほしい ・倒産寸前の状況 ・・・ 第4章:世界の鏡を見よ ・英語化の大きな効果 ・イニエスタを連れて帰る ・・・ 第5章:クレイジーであれ ・遅れに遅れた基地局設置 ・申込みが殺到、処理システムはパンク ・・・ 三木谷浩史ロングインタビュー

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2022年に創業25周年を迎えた、楽天。四半世紀前、たった6人で始まったベンチャーは、今や日本を代表する企業にまで成長しました。そんな楽天と、グループを率いる三木谷浩史氏の25年間に迫った、同氏監修の最新刊『突き抜けろ』は、発売直後にブックファースト新宿店のビジネス総合ランキングで1位を獲得するなど、話題となっています。

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上阪徹

1966年兵庫県豊岡市生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て94年よりフリーランスとして独立。雑誌や書籍、ウェブメディアなどの執筆やインタビューを手がける。著者に代わって本を書くブックライターとして、担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット』(三笠書房)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)など。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

三木谷浩史

1965年兵庫県神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。93年ハーバード大学にてMBAを取得。興銀を退職後、97年2月エム・ディー・エム(現楽天グループ株式会社)を設立。同年5月インターネットショッピングモール「楽天市場」を開設。その後、トラベルや証券、銀行、プロ野球、携帯キャリア事業等へと業容を拡大。現在、楽天グループ株式会社代表取締役会長兼社長。また、東京フィルハーモニー交響楽団理事長、一般社団法人新経済連盟理事、楽天メディカル社の副社長兼Co-CEOも務める。

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