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仕事がなくなる!

2023.06.15 公開 ツイート

「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」へ スキルや専門性がない人は仕事がなくなる? 丹羽宇一郎

AIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。AIに負けないマインドをいかに保つか? いかなる場所も時間も超えて、普遍的な価値を持ち得る仕事の「絶対値」を探る、丹羽宇一郎氏の新刊『仕事がなくなる!』から、一部をご紹介します。

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「メンバーシップ型雇用」は時代遅れ?

ギグ・エコノミーがビジネス社会に浸透してくると、働く人の技量や能力は、今まで以上に求められるようになります。

ギグ・エコノミー化現象は、コロナ禍を契機に一層広がりつつありますが、それと同時にコロナ禍によるリモートワークの普及がきっかけで改めて問われているのが、日本企業が採用してきた独自の雇用形態です。

(写真:iStock.com/takasuu)

日本企業が採用してきた雇用形態は、「メンバーシップ型雇用」と言われています。新卒を一括採用し、入社後は業務内容や勤務地を限定せず、転勤や移動、ジョブローテーションを繰り返しながら、長期的に人材を育成していく雇用システムです。

正社員として採用した社員を定年まで雇用し続ける「終身雇用」や、年齢・勤続年数に応じて役職・賃金を上げる「年功序列」を前提としています。

戦後、経済を立て直し、高度成長を支えるためには長期的に労働力を大量に確保する必要がありました。メンバーシップ型雇用は、まさに高度成長期に合っていた雇用システムだったと言えます。

「会社の経営方針・育成の観点から、従業員の部署や勤務地を迅速に異動させることができる」「帰属意識のある人材を育てることでチームワーク意識が高まる」。

こうしたことはメンバーシップ型雇用のメリットですが、一方で「年功序列制度を前提としているため、勤続年数が長い従業員が増えるほど人件費が上昇し、企業の負担になる」「ゼネラリスト人材ばかりを育成するため、専門的な知識や技術が身につかず、生産性が向上しない」といったデメリットもあります。

 

これと対照的なのが、欧米で一般的な「ジョブ型雇用」です。業務内容(ジョブ)・勤務地・待遇・給与が明確に決められ、雇用された側は、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)によって規定された範囲内でのみ働くという雇用システムです。

年齢や勤続年数に関係なく、スキルや専門性、成果に応じて評価され、給与が変わります。そのメリット、デメリットは、メンバーシップ型雇用におけるメリット、デメリットをちょうど反転させた恰好になります。

経済のグローバル化が進み、テレワークやリモートワークが定着してくるなか、日本の企業を支えてきたメンバーシップ型雇用は、時代に合わなくなってきています。

そのため、メンバーシップ型雇用の方針を見直し、ジョブ型雇用を部分的に取り入れる企業が増えているのです。

たとえば、ユニクロのファーストリテイリングは2023年1月、役員報酬をやめ、実力報酬にすることを決めましたが、こうしたジョブ型雇用の要素を導入する動きは、ギグ・エコノミーの浸透とも相俟って今後、加速するでしょう。

みずから学んで専門性を磨こう

ただ、日本の多くの企業が、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ100%変わることはあり得ません。メンバーシップ型雇用には日本人の気質や考え方に合った部分もあり、全面的にジョブ型雇用へ転換するとなると、さまざまな軋轢や反発もあるでしょうし、デメリットも少なくないからです。

(写真:iStock.com/takasuu)

今後は、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の要素をうまく組み合わせる形で、さまざまな模索が行われていくでしょう。

その際、もっとも考えられるのは、メンバーシップ型雇用の正社員を減らし、ジョブ型雇用の非正規社員を増やすスタイルです。

ただこれは昨今議論されている経済格差、世代間格差の問題をさらに深刻化する恐れがあり、非正規社員の給与体系、社会保障費、労災補償をどうするかといった解決策と並行して考えていく必要があります。

 

だからと言って、メンバーシップ型雇用の従業員とジョブ型雇用の従業員を、はっきり分ける必要はないと思います。

大学を卒業してから何年かは非正規社員として働きながら技術を身につけ、専門性を高めるために仕事をする。その期間を経た上で正社員になり、それまでに身につけた自らの技能を生かす。

あるいは、新卒で正社員として40歳くらいまで仕事をし、その後は成果に応じて報酬を得るジョブ型雇用の契約に切り替える。

このように雇用の仕方や働き方には、さまざまな形があっていいはずです。

どのようなスキルや専門性が身についているのか、それをいかに磨くのか、どのような職種であれば自分のスキルが生きるのか、そしてAIとうまく共存できるのか、そんなことが、ますます強く問われる時代になっているのです。

 

ところで、最近耳にすることが多くなったリスキリング(スキルの学び直し)ですが、スキルや専門性は一朝一夕に身につくものではありません。

普段から自分の専門性を意識して働き、「自分に◯◯の知識があれば、もっと仕事の幅が広がるのではないか」と思うことがあれば、自ら知識なりスキルなりを学ぶ。この姿勢こそが、AIに代替されないためには重要だと思います。

関連書籍

丹羽宇一郎『仕事がなくなる!』

昨今のAIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。世間では「リスキリング」がもてはやされているが、簡単に身につくスキルを学んだところで、一瞬でAIに追い抜かれてしまう。人生100年時代といわれる昨今、AIを超える働き方をするにはどうすればいいのか。著者は「AIが持ち得ない、人間独自のもの」に注力すればいいのだと力説する。現状維持の働き方を続ける人は、仕事どころか、居場所もなくなる!

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仕事がなくなる!

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丹羽宇一郎

公益社団法人日本中国友好協会会長。1939年愛知県生まれ。元・中華人民共和国駐箚特命全権大使。名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。98年に社長に就任すると、翌99年には約4000億円の不良資産を一括処理しながらも、2001年3月期決算で同社の史上最高益を計上し、世間を瞠目させた。04年会長就任。内閣府経済財政諮問会議議員、地方分権改革推進委員会委員長、日本郵政取締役などを歴任ののち、10年に民間出身としては初の駐中国大使に就任。一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、伊藤忠商事名誉理事。

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