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結婚って何?

2023.05.26 更新 ツイート

なぜ同性婚が必要か 寺田和弘(NPO法人EMA日本理事長)

「配偶者は異性に限る」と明確に定めた法律はないにもかかわらず、民法や戸籍法の「夫婦」という言葉が「男女」を差すとして、法律上の性別が異性どうしでないと婚姻が認められないとされている日本。昨今は、裁判や国会、世論などで一定の動きが出てきてはいますが、こうした動きが高まる10年近く前から「同性婚の法制化」を求めて活動し続けてきた「NPO法人EMA(いーま)日本」の代表を務める寺田和弘さんに、活動を始めたきっかけと、現状の壁、今後の展望などについてご寄稿いただきました。

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家族にすら本当の自分をわかってもらえない孤独

 

ゲイであることを両親にカミングアウトしたのは20代の終わりになってからでした。私は仕事でデンマークに住み、同性カップルも事実上の結婚ができる社会を目の当たりにしながら、翻って日本では自分の大切な一部を身近な人に分かってもらえない孤独に耐えられなくなっていました。

(写真:iStock.com/viewApart)

息子が20代の終わりにもなると、親は我が子がいずれ女性と結婚をして幸せな家庭を築くことを願います。それは自然な親心でしたが、依然としてオカマや変態などと同性愛者を揶揄する社会で、私は同性が好きだから女性とは結婚できないと親に告白することはとてもできませんでした。

それでも、実家に帰省した際に、女性のお見合い写真が用意されていたこともあり、いつまでも親に真実を隠し続け、かなわぬ期待をさせ続けるのは残酷であると感じるようになりました。デンマークの人たちの自由で自分を偽らない生き方を思い出し、なにより自分にとって大切な両親に本当の自分を分かってもらえないまま人生が続くことに恐怖や不安、寂しさも覚えました。

今世紀に入っても、同性愛についての知識を欠き、むしろ偏見が残る地方に住む両親にとって、私からのカミングアウトは大きな衝撃だったと思います。当初は精神科を受診してほしいと言ったり、子育てのやり方が悪かったから(両親は共働きでした)息子がゲイになってしまったのではないかなどと論理の通らないことを言ったりすることがありました。

それでも、父・母ともにそれまでの人生で出会ってきた人たちの多様性や、同性愛者であることを告白した有名人、古今東西の同性愛者であると考えられる多くの偉人や芸術家の存在、そして息子が住んだデンマークを含めて既に多くの国が同性愛者を差別せず同性婚を認める世界の現実を認識するにつれて、最愛の息子を理解しようと努力し、ついに分かってくれたのでした。生まれた瞬間から誰よりも身近に我が子を見ていた親であれば、私が多くの男の子とどこか違っていたことは当然感じていたでしょうし、その疑問が全てある時に突然解けた時に、むしろほっとしたのではないかと思います。私も両親に受け入れてもらえたことが、どんなに心強かったことか。

しかし、数ヶ月後に母が私に言った言葉が忘れられません。「和弘が思春期に、自分のことに気づいた時、きっと孤独で不安だっただろうに。けれど、当時、そのことを分かってあげられなかったのは親として失格だと思うわ」。

4年前にガンで他界した父も、最後に病院から1日だけ家に戻って家族と過ごした夜、当時のことを思い出して「自分は息子に何かをしてあげられたのか、息子のことを理解できず苦労をさせてしまって……」と涙を流しながら言うのでした。

カミングアウトの恐怖、親が親自身を責める背景にあるもの

愛情をもって育ててくれた両親に私は感謝してもしきれません。社会に理解がなかったから、子どもがゲイであることを想像できなかっただけなのに、なぜ子育ての仕方が悪かったなどと自らを責め、後悔しなければならないのでしょうか。LGBTという言葉が一般的になり、理解も進んできた今日でも、親にカミングアウトできず、大切な家族にすら理解されず苦しむ同性愛者の若い人たちはまだまだたくさんいるのです。私はもし親から縁を切られても20代の終わりには経済的にも自立できていたので、人生は何とかなるだろうという見通しもあってカミングアウトすることができました。しかし、経済的に親に頼らざるを得ない若い人たちにとって、カミングアウトできないことも孤独ですが、カミングアウトすることも恐怖なのです。

私が10年前にEMA日本を立ち上げて、同性婚の法制化を求める活動を始めたのはそんな動機からでした。

同性婚を認めることでただちに同性愛者に対する社会の偏見がなくなるわけではないでしょう。そもそも、日本では同性愛者を直接的に差別する制度や暴力などは他国と比べて多くありません。しかし、結婚を認めないのは、明白な、法律による差別です。首相補佐官が同性愛者を見下す「失言」をする社会で、どれだけたくさんの子どもたちが、孤独の中に苦しみ続けていることか。そんな失言の背景にも、法律自体が同性愛者を差別していることが背景にあります。

(写真:iStock.com/ruslanshramko)

結婚は、多くの人たちにとって人生のハイライトであり、周囲からも祝福される最も幸福な瞬間の一つです。だからこそ私は、思春期の頃、大人になっても自分が結婚できないと気づいて絶望しました。国家からの自由を重視し、国家による承認という側面から結婚制度に反対する人がいることは理解できます。しかし、多くの人が国や文化を超えて、結婚に対するそうした感情を共有しています。それゆえに、周囲からも祝福される幸福な人生のハイライトである結婚ができないと思春期に気づいた人たちは孤独の淵に追いやられてしまいます。このことに皆さんが気づいてほしいと思います。

“法律による差別”の解消を求めて

かつては王や貴族の出自を明らかにすることが結婚制度の主な目的だった国もあれば、異なる身分の間の結婚を禁じる国もありました。異人種間の結婚を禁ずる国や、親が子どもに結婚相手を強制する文化もありました。そうした過去を経て、現在、世界の国々が同性間での婚姻をも認める現代を迎えています。

すでに34カ国が同性婚を認めています。それらの国の経済力を合計すると世界の6割を占めます。人々の自由や多様性を尊重する社会が、より豊かな社会を形成することも証明されていると言えます。

安倍晋三元首相もこうした点を認識され、2022年夏の参議院選挙の後に、LGBTの人たちと一緒に、新宿のゲイバーを訪れて下さるはずでした。日本の将来を見据えておられた安倍元首相が凶弾にたおれたことは残念としかいいようがありません。

同性間の婚姻を認めないことは法の下の平等に反し違憲である、同性愛者がパートナーと家族になる制度がないことは、個人の尊厳の観点からも憲法に違反すると結論づける判例も出てきています。国会にも同性婚法案が提出されています。世論調査でも賛成は反対を大きく上回ります。多くの人たちの努力もあって、日本も前進していることに勇気づけられます。同性婚の実現に向けて、私たちも引き続き力を尽くしていきたいと思います。

 

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結婚って何?

<第一弾>事実婚や別居婚、別姓に向けたペーパー離婚など、典型的な結婚制度や生活スタイルに不自由を感じ、自由な形を模索する人が増えてきている今、あなたにとっての「結婚」とは。

<第二弾>社会の意識の変化、要望があっても、“選択的”夫婦別姓や同性婚の法制化が進まないのはなぜなのか。「夫婦同姓」でないと認められない権利や利益とは? 夫婦別姓の各国事情は? 婚姻制度の不平等を考える。

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寺田和弘(NPO法人EMA日本理事長)

1998年慶応義塾大学法学部卒。同年日本商工会議所入所、1999年外務省在デンマーク日本大使館(コペンハーゲン)。2004年参議院議員政策担当秘書。2014年デンマーク大使館上席政治経済担当官。1989年に世界で初めて事実上の同性結婚を認めたデンマークにおいてゲイやレズビアンの人達、その家族や友人、同僚の人達も含めて、誰もが自然に社会の一員として生きている姿に共感。さらに日本の国会で法律ができるプロセスを身近に経験したことから、日本でも同性結婚を認める法律が必要であると同時に、実現可能だと考え、2014年2月にNPO法人EMA日本を設立。EMA日本HP→http://emajapan.org/

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