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80歳の壁[実践編]

2023.05.25 公開 ツイート

自称「無趣味」じつは「多趣味」が80歳の理想の時間の使い方 和田秀樹

2022年最も売れた本『80歳の壁』は、「我慢せず好きなことをするのが体にいい」とこれまでの高齢者の健康常識を覆す一冊で、多くの反響をいただきました。では、具体的にはどんなふうにすればいいのか? 食事や運動など具体的な生活習慣について、たくさんご質問をいただく中で生まれたのが、最新刊『80歳の壁[実践編]』です。

がくっと衰える人が多い<80歳の壁>をいかに乗り越えるのか? 食べ方・眠り方・入浴・運動など……、ちょっと意外、でもすぐに取り入れられる具体的な秘訣をつめこんだこの新書より、一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

「1年に数回楽しむ」だけの趣味をいくつも持つ

高齢者をカウンセリングしていると、「趣味がなくて……」と嘆く人が多いのですが、話をよくよく聞いてみると、そういう人こそ、意外に「多趣味」であることが多いのです。たしかに、ひとつの趣味に打ち込んでいるわけではないのですが、年に数回程度ずつ、いろいろな遊びを楽しんでいるのです。

(写真:iStock.com/Rawpixel)

たとえば、患者のKさんは、年に2~3度は野球観戦に出かけ、ときどき競馬場にも足を運びます。そして、近くの低山に登ることもあれば、奥さんの付き合いで年に1度は歌舞伎見物に出かけます。そして、自宅では、YouTubeで落語を楽しんでいる──というように、すべてを合わせると、けっこうな時間を「趣味」に費やしているのです。

たしかに、Kさんには、胸を張って「趣味は○○です」といえるほどの趣味はないかもしれません。しかし、私は、Kさんのように、いろいろな遊びを「つまみ食い」するのも、立派な老後の「趣味」のあり方だと思います。

 

日本人は、趣味に関しても、妙にストイックで、「ひとつのことに打ち込まなければ、趣味とはいえない」と考える傾向があります。毎日、毎週末、同じことをして、何年も何十年と打ち込まなければ、「趣味と呼ぶに値しない」という考え方です。

しかし、それでは、レジャー(遊び)ではなく、レイバー(労働)でしょう。私は、年に数回、気が向いたときに楽しむだけでも、立派な趣味だと思います。むしろ、そうした「趣味」のほうが、飽きることがないので、長く続けられると思います。私は、「自称無趣味(じつは多趣味)」は、老後の時間の使い方として、理想的なパターンではないかとも思うのです。

 

話が飛ぶようですが、高齢者専門の医者を35年もしていると、職業病のようなもので、歴史小説を読んでいても、その人物の「老後」や「晩年」が気になります。なかでも、私が興味を抱いているのは、江戸幕府の最後の将軍、徳川慶喜の「趣味人」としての余生の過ごし方です。

彼は、幕末・維新の重要人物のなかで、最も長生きした人物の1人で、大正2年、77歳まで生きました。戊辰戦争の勝者ではなく、敗者側の元トップが、最も長く生きた1人となったのです。

彼は、維新後、謹慎生活を経た後、静岡に移り住みます。そのとき、慶喜は「これからの長い歳月、日々退屈せぬようにせねばならぬ」と語ったと伝わります。そして、慶喜は、長い余生を趣味人として生き抜きます。写真、狩猟、自転車、謡曲、油絵と、次々に趣味を広げていったのです。

彼が、明治時代を越えて、大正時代まで生き延びたのも、趣味の渉猟者となったことの「効用」だったと、私には思えるのです。

本当に趣味のない人は、とりあえず映画館に行ってみては?

さて、そうはいっても、「年に2~3回楽しむ『趣味』もない」という、本当に無趣味な人もいるでしょう。そんな人は、まず「映画館」に足を運んでみては、いかがでしょう。

私が映画を撮っているので、手前味噌に聞こえるかもしれませんが、映画鑑賞は参入障壁がごく低い遊びです。過去、まったく趣味をもたなかった人が、いきなり習い事に通うのは、ハードルが高い話でしょう。それに比べると、映画館はいたってハードルが低い。チケットを買って、あとは座っていれば、そこそこ楽しめます

(写真:iStock.com/bernardbodo)

まずは、その時期、ヒットしている映画のなかから、自分が「面白そう」と思う映画を1本選んで、観に行かれてはどうでしょうか。しつこいようですが、物は試しです。映画は、ハマれば、ひじょうに奥行きの深い趣味になります。

また、映画鑑賞のいいところは、それが繁華街やシネコンの入った大型商業施設に足を運ぶきっかけになることです。映画鑑賞は、テレビを消して街へ出る契機になるのです。

 

もうひとつ、参入障壁の低い趣味を挙げておきます。「何か」を集めることです。これは、多数の高齢者を診てきた経験からいえるのですが、いわゆる「コレクター」とか「オタク」と言われる人にボケた人はまずいないのです。その理由はいくつか考えられます。

まず、第3章でも申し上げたように、「お金を遣うことは、脳を使う」ことです。とりわけ、何かをコレクションするには、見る眼を磨き、限られた予算内で好みの品を買っていく必要があります。いずれも、脳を活発に働かせる必要がある作業です。ボケている暇はありません。

また、欲しいものを見つけたときや入手したときに、感情が高揚することも、ボケ防止になっているのかもしれません。何かを集めることは、「感情の老化」を防ぐのです。そして、何かを集めれば、それは人とのコミュニケーションのきっかけにもなります。

そのうえ、スクールに通う必要もなく、思い立った日にその日から、1人で始められます。しかも、骨董や宝石を集めるのでなければ、お金も思うほどにはかかりません。

たとえば、世の中には、いわゆる「紙物」コレクターが多数います。デザインの違う「箸袋」や「ラベル」類などを集めている人たちです。私は、多数の高齢者から、そうした収集の奥深さを耳にしてきました。あなたも、いざ集めはじめてみると、意外な発見があるかもしれませんよ。

関連書籍

和田秀樹『80歳の壁[実践篇] 幸齢者で生きぬく80の工夫』

肉を食べるなら朝から、それも牛肉・豚肉・鶏肉をまんべんなく。週5日・20分歩くと、認知症発症率が40%下がる。よい睡眠のためには「夜牛乳」と「6分間読書」を。入浴は午後2〜4時が最適等々。「我慢しないで、やりたいことだけする生活」に、お金も手間もかからない、ちょっとした工夫をプラスするだけで、あなたも「80歳の壁」を楽しく越え、人生で一番幸せな20年を生きる幸齢者に。和田式・医者と病院の選び方も必見。大ベストセラー『80歳の壁』がさらに具体的に進化した、決定版・老いのトリセツ誕生!

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80歳の壁[実践編]

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和田秀樹

一九六〇年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、三十年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『マスクを外す日のために』『バカとは何か』『感情バカ』(すべて幻冬舎新書)など著書多数。

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