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うかうか手帖

2023.03.09 更新 ツイート

休まってほしい人に 益田ミリ

寝付きはよいほうだと思う。布団に入って目を閉じれば自然にスーッと眠れるのは昔から。友人らとの旅行でもまっ先に寝るのはいつもわたしで、

 

「ホンマ、こどもみたいやな」

みなに感心されていたものだった。

何年か前、急に眠れなくなった時期があった。布団に入ってから1時間、2時間、3時間。暗がりの中で漫然と横になっていた。

なんでこうなっている?

落ち着いて考えてみれば慌ただしい日々がつづいていたのだった。

あれしてこれしてあれしてこれして。前へ前へと前のめり。

今のわたし、のりしろないやんか。

接着する隙間がないのに強引に接着し、そのせいではがれかけているというのに、またのりを塗っている。くっつくはずがないのである。

のりしろとはすなわちスペース。詰め込みすぎ禁止である。詰め込みすぎが全てよくないとは思わない。スーパーのじゃがいも詰め放題には燃える質である。されど自分自身をぎゅーぎゅーすることはなかろうぞ。

最近どーも眠れなくて。

ふと、身近な人に言ってみた。普段は「言ってみる」ことがない性分なのだ。言ってみたらのりしろができた。すると、ほどなくしてクナイプの入浴剤が届けられた。パッケージにはぐっすりと眠る女性の写真。その下に「ホップ&バレリアンのやすまる香りで おやすみ前のリラックスバスタイムを」というコピーがあった。

早速つかってみた。びっくりするくらい青い入浴剤だった。

これ何ブルー? コバルトブルー?

異次元色の湯船につかる。好きな香りだった。その夜、久しぶりにスーッと眠れた。以来、愛用の入浴剤。休まってほしい人に今度はわたしが贈っている。

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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。

イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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