
寝付きはよいほうだと思う。布団に入って目を閉じれば自然にスーッと眠れるのは昔から。友人らとの旅行でもまっ先に寝るのはいつもわたしで、
「ホンマ、こどもみたいやな」
みなに感心されていたものだった。
何年か前、急に眠れなくなった時期があった。布団に入ってから1時間、2時間、3時間。暗がりの中で漫然と横になっていた。
なんでこうなっている?
落ち着いて考えてみれば慌ただしい日々がつづいていたのだった。
あれしてこれしてあれしてこれして。前へ前へと前のめり。
今のわたし、のりしろないやんか。
接着する隙間がないのに強引に接着し、そのせいではがれかけているというのに、またのりを塗っている。くっつくはずがないのである。
のりしろとはすなわちスペース。詰め込みすぎ禁止である。詰め込みすぎが全てよくないとは思わない。スーパーのじゃがいも詰め放題には燃える質である。されど自分自身をぎゅーぎゅーすることはなかろうぞ。
最近どーも眠れなくて。
ふと、身近な人に言ってみた。普段は「言ってみる」ことがない性分なのだ。言ってみたらのりしろができた。すると、ほどなくしてクナイプの入浴剤が届けられた。パッケージにはぐっすりと眠る女性の写真。その下に「ホップ&バレリアンのやすまる香りで おやすみ前のリラックスバスタイムを」というコピーがあった。
早速つかってみた。びっくりするくらい青い入浴剤だった。
これ何ブルー? コバルトブルー?
異次元色の湯船につかる。好きな香りだった。その夜、久しぶりにスーッと眠れた。以来、愛用の入浴剤。休まってほしい人に今度はわたしが贈っている。
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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。