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西野亮廣の本

2023.02.20 公開 ツイート

松本零士さんは、西野亮廣さんが初めて絵本を描いたとき、どんな言葉をかけたか? 幻冬舎編集部

松本零士さんがお亡くなりになりました。

西野亮廣さんの初めての絵本『Dr.インクの星空キネマ』というのを出したとき、帯に、松本零士さんから、コメントをいただきました。

「心に夢が鏡のように映る、絵と物語だ!」というコメントでした。

本が出たとき、松本零士さんにお礼を言いにいきましょうとアポイントメントを取って、西野さんとご自宅にお邪魔しました。

すると、奥様が出てこられて、「あら? 会合があるからって、出かけてしまいましたよ」とおっしゃいました。たしか「新宿に」とかなんとか言ってた記憶があります。すごく謝ってくださいました。ちなみに、奥様は牧美也子さんという人気漫画家さんです。

そりゃもちろん、私は青ざめました。松本零士さんのご自宅は都心から少し離れていて、そこまで西野さんを連れ出してるわけです。

「お帰りを待ってもいいですか?」「いや、でもさっき出て行ったばかりですし」……。

西野さんには、このまま帰っていただくしかありません。でも西野さんは、「松本零士さん、飲み会だって。面白いなあー」「奥さん、かわいらしかったなあ」と笑ってました。

翌日、「すみません、忘れてました。ボソボソボソボソ…」とご本人から丁寧にお電話があり、別の日の約束をいただきました。

二回目は、ちゃんとご在宅でした。そりゃもう、ホッとしました。

 

松本零士さんのお宅は、宝の山のようです。あのアニメ、このアニメの、ポスターやらフィギュアやら小道具やらが、倉庫に置かれるみたいに無造作に積まれています。

ご本人は、しっかり「あの帽子」をかぶって出てらっしゃいました。

仕事場に入れていただくと、奥の壁が一面、宇宙の絵になっています。部屋の中はモノでいっぱいなのに、壁の前だけは綺麗になっていました。

その壁の真ん前が、松本零士さんの定位置です。そこに座ると、宇宙空間からおしゃべりしているように見えます。(「#松本零士 #インタビュー」で検索すると画像がたくさん出てきます)

 

その時、松本零士さんは、

「あなたは、絵が上手い。お話もおもしろい」と冒頭で西野さんを褒めると、その話はすぐ終わり、

「あなたは旅が好きですか? これからは、旅をしなさい。たくさん旅をしなさい」とおっしゃいました。

なんで旅の話なんだろう? と私は不思議に思いました。

西野さんは毎度のことながら、天性のおやじころがしで、和やかに楽しく盛り上がった記憶があります。松本零士さんの世界に文字通り「包まれて」過ごした時間は、それはもう素敵でした。

(※そういえば、また思い出したことがあるので追記します。松本零士さんは、西野さんのことを「絵描きさん」として対面していました。「西野さんは芸人さんで…」と私が説明したものの意にも介さず…といった風で、「あなたは絵描きとして生きていくのだから」みたいに話をされていました。絵描きとして生きていくのは決定!って前提で話していたこともあって、余計に、変な不思議さと面白さがある記憶として残っているのだと思います。

まだ1冊目の絵本でしたから、このときは、数年後に西野さんが映画を作ったり、歌舞伎やミュージカルも作ったり、世界で評価されるなんて私には想像もできてませんでした。でも、松本零士さんには、私には見えていないイメージが見えていたのかな…なんて今になって思っています)
 

さて、私はそれまで西野さんから、海外旅行が趣味とか、旅が好き、といったことを、一度も聞いたことがありませんでした。

なので帰り道で、「旅に行けって言ってましたね」と言うと、西野さんは「ですねー」と言い、その様子を見て、あ、やっぱりピンと来てないんだなあと、勝手に思っていました。

西野さんはその頃、2作目の絵本、『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』という作品にとりかかっていました。

『ジップ&キャンディ』の舞台は、中世ヨーロッパ風の石造りの街です。

当時、細部まですべて、0.03ミリの黒いペン1本で、たった一人で描いていた西野さん。

当然、石畳の石のひとつひとつも、全部細かく描いていました。

ぜひあらためて見て欲しい。(『えんとつ町のプペル』から西野作品を知ってる方には、新鮮かも…!?)

このとおり、ものすごく緻密で繊細。

ところが、途中からガラリと変わる部分が出てきます。

よく見ると、それまでの石畳は、上の絵のように、タイルのように埋まってました。

ところが、このページからは、石畳がデコボコしています。歩きにくそうにごつごつしています。

地面から見たアングルの絵にいたっては、迫力が圧倒的です。

松本零士さんのお宅にお邪魔してから、このあたりのページができるまでの間に、実は西野さんは、ベネチアに旅していたのです。山口トンボさんと。

トンボさんが移動中に、電車の車窓から外を見て「熱海みたいでいいですね」と言って、西野さんにボロクソ言われたことは、知る人ぞ知ってます。イタリア旅行をプレゼントしてもらっておきおきながら、このセリフを吐いてしまったトンボさんは、もちろん十分に反省が必要でしょう。

 

「旅をしなさい。」

その一言が、そのときの西野さんを動かしたわけですが、結果的に、“その先”の西野さんも動かし、結果、表現の世界、エンタテイメントの世界を動かしているわけです。

バタフライエフェクトって、リアルで見るとこういうことなのかなあと、思います。

 

あれ以来、世界を飛び回る西野さんを見ると、「旅をしなさい」とおっしゃった松本零士さんを、ときどき思い出します。

巨匠っていうのは、大先輩っていうのは、後輩へ伝えるべき大事なことを、簡単なひとことで伝えられるんだな、と。

きっと、松本さんほどの大人物は、たくさんの人に色んなアドバイスをなさってきたんだろうと思います。でも、そのすべてのアドバイスが、どこまで届いているかわかりません。

どんな言葉、どんなアドバイスも、受け手次第ですから。

受け手が、どう受けるか。受け手が、そこからどう解釈し、動くか。……で、どんなアドバイスも、意味のあるものにもなれば、ただのゴミにもなります。

 

あれ以来、西野さんは、どんなに忙しくても、あちこち飛び回っています。

松本零士さんのこの一言が本当に影響していたのかどうかは、西野さんにしかわかりません。もともと、ご自分の中にあった選択肢のひとつだったのかもしれません。

私が、このシーンにたまたま同席していたから、「松本零士さんのあの一言が、西野さんの背中を押したのだ」と勝手にストーリーを作ってる可能性も大いにあります。

 

とはいえ。

普段から、「誘われたら断らない」という姿勢を崩さない西野さんを見ている限り、「尊敬する先輩のアドバイスは、素直に実行に移す」のは、当然のことだったように思います。

 

自分をどんどん高めている人は、行動の積み重ねだなと思います。

高みにいる人は、最初からそこにいるのではなくて、一歩一歩の結果です、当たり前だけど。

そのときは、まさかこんな景色が見えるとは思ってもいなくて、それでも、一歩進む。どうなるかわかんないけど、まずはやってみる。どうなるかわからないのに前に進むのは、ものすごくめんどくさいし、しんどいです。それでも歩みを止めない。

わが身を振り返ると、言い訳を作って「やらない」という選択肢を選んでいることは度々あります。まさに凡人の思考……。

 

話がズレました。

松本零士さんが、あのとき、この言葉をくださったというのは、(西野さんという)後輩への期待と信頼があったからだろうと思います。

「旅をしなさい」とおっしゃったそのあとに、旅をすれば「もっと大きくなれる」「もっと羽ばたける」「もっとすごい作品を、君はどんどん作る」といった言葉もおっしゃっていたな、ということを、思い出しました。

世界を熱狂させる作品を残した偉人は、世界に向かおうとする後輩の背中もこんなふうに押していました。松本零士さんは、ディズニーを超えると言ってた西野さんを笑わなかった一人だと思います。

ご冥福をお祈りします。

文責 袖山満一子

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絵本作家、芸人、映画製作総指揮など、さまざまな肩書で活躍する、にしのあきひろ/西野亮廣さんの本にまつわるさまざまなニュースや新刊情報などをご紹介。

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