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ひらりさ⇔鈴木綾 Beyond the Binary

2023.02.08 公開 / 2023.10.23 更新 ツイート

綾には自分で自分を生かしてきた自負を感じる。その背景をもっと話したい ひらりさ

10月28日(土)19時より、「30歳からの人生計画、どう考える?~お金・パートナー・生きがい~」講座を開催する鈴木綾さんとひらりささん。ふたりの関係と価値観がわかる往復書簡の一通目、ひらりささんからの手紙をあらためてご紹介します。

(写真:ひらりさ)

ひらりさ→鈴木綾

「いっしょに笑って、ときどき背中を押されて。綾さんの文章は、長年の親友みたいに凛々しくてやさしい。」

綾が出したエッセイ集『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』にこの推薦文を寄せたとき、まさか本当に綾と友達になるとは思っていなかった。

自国の大学を卒業してから日本に移り住み、知人が一人もいない東京で懸命に働き、日本語を覚えて、自分の基盤をつくったという綾。でも、6年かけて築いたものをきっぱりと捨てて、新天地であるロンドンで、30代の生活を謳歌している綾。文章の端々に、自分の心と体が求めるものを見定めて人生の舵をとってきた人の覚悟と、だからこその優しさがあふれていて、まだ一介の読者だったわたしを励ましてくれた。

推薦文の依頼は担当編集の竹村さんがくれたもの。綾が本を出したとき、わたしたちはまだ見ず知らずの他人同士だった。それでもわたしは大学院留学の真っ只中でロンドンに住んでいたし(だから依頼が来たわけだ)、依頼をきっかけに綾ともTwitterでつながったのだから、「ごはんでもしませんか?」とDMすることはできた。でも、なんとなく躊躇われた。こんな本を書いた人の前で胸を張れる自分ではないなと思っていたから。ロンドンまで来たのに英語全然できないし、大学院で友達できなくて学生寮にこもりきりだったし、日本の友人たちのTwitterばかり眺めていたし……。ある人の文章を読むのと、その人と人間として関わるのは、まったく別のことだ。

そんなわたしがこうして綾のことを、「鈴木さん」でも「綾さん」でもなく「綾」と呼べているのは、色々あって2022年10月に初対面を果たし、そこからは飲みまくりしゃべりまくり遊びまくり、急速に仲良くなったからだ。共通の友人・ユカがいることが判明してからは、あっという間だった。

パリでエンジニアをしているユカが綾の一人で住むフラットに泊まりにきて、わたしの大学院の友人も誘って、異国で暮らすほぼ同世代の女同士ではしゃいだフライデーナイトは本当に最高だった。当初の予定では土曜日に三人でパジャマパーティーする予定だったのに、金曜の夜、ロンドンに到着したばかりのユカがWhatsAppで送ってきた綾とのツーショットを見て我慢できなくなったわたしは、そのとき一緒に飲んでいたエミリ(その日はロンドンで仕事を見つけ、大学院修了後もビザを延長することを決めた彼女の就職祝いをしていた)を引っ張り、綾の家になだれ込んだのだった。

ロンドンのフラットシェア文化(と高額の家賃)に逆らって一人暮らしを満喫しているという綾のフラットには、自分が求めるものをわかっている人のセンスと、自分で自分を生かしてきた人の自負が漂っていると感じた。綾はさかんに立ち上がっては食べ物を用意し、ワインを開け、部屋のアートや本のことをにこやかに紹介してくれた。あの晩の私たち、何本のワインボトルを空けたっけ? 

予定通り(でもエミリも加えて)開催した土曜日のパジャマパーティーでも、めちゃくちゃしゃべったね。わたしが、昼間ロンドン郊外のコリアンタウン・ニューモルデンのHマートで購入した韓国海苔を持って行ったら、大好評だった。綾も目を丸くしながら美味しい美味しいって食べて、後日二人で映画館に行ったときには自分で買った韓国海苔を持ってきてくれた。そこまで気に入ってくれたのが嬉しかったし、文章の隅々にまで行き渡っている綾の優しさと同じものを感じた。

思い出話が長くなってしまった。もっと早くDMしておけばよかったと後悔した一方で、ユカとエミリがいたから、私たちはスムーズに友達になれたのだとも思う。それぞれしんどい経験をして、パリやロンドンで生きることを決め、フェミニストを自認している二人の日本人女性――ユカとエミリがいたから生まれた会話があり、遠慮なく開示できたことや、築かれた共感があった。

そして、実はあの日は綾と仲良くなれただけではなかった。エミリとざっくばらんに話ができたのも、わたしにとって大事なことだった。というのもわたし、エミリと二人のときはフェミニズムの話を避けていたから。

彼女は「日本のすべてに絶望したのでロンドンで暮らす」「もう一生男と付き合う気はない」と言い切るラディカルフェミニスト。はるばるロンドンまでフェミニズムを学びに来たくせにフェミニストを名乗ることに躊躇し続けているわたしより、よほど肝が据わった女性だ。デモにもたくさん参加していたし、在外投票にもしっかり行っていたし(わたしは事務手続きが苦手すぎて断念した……)、女性への抑圧と動物への抑圧を同じと捉えて、ヴィーガンの食生活も実践していた(わたしもアリサにならって挑戦したが1週間で断念した……)。綾やユカ同様、留学生活の間仲良くなれて本当に嬉しかった友達の一人。

ただフェミニズムの話でも、トピックによっては意見が違い、二人だと微妙なムードになってしまうことがあって。わたしは人と意見が違ったとき、自分より知識があると思う相手だと100パーセント迎合してしまう傾向がある。あるいは自分のほうが勉強している、と思ったときには100パーセントの正しさをぶつけてしまう。それで壊してしまったり傷つけてしまったりした友人が多い……という話はまさに今回の本にも書いた通りです。

エミリに関しては、「わたしより勉強してる人」のほうに当たるので、喧嘩にはならなかった。わたしが、「それは違うんじゃないかなあ」と思うことがあっても、「でもエミリのほうが私より『正しい』からそうなのかなあ……」と、自分の意見をひっこめていたから。エミリはとても一本気な人だから、下手な言い方をしたら、呆れられて嫌われて二度と遊んでもらえなくなっちゃうんじゃないかなと、不安だった。大体わたしの意見が正しいのかも、わからなかったし。で、そういう状態でいると息が詰まってきて、結局フェミニズムの話は、もっと意見が合う別の友達とばかりしていた。だからあの日はすごく久しぶりにエミリとフェミニズムの話をしたんだけれど、とても楽しかった。

本当は違いを恐れずにもっと意見をかわせばよかったな……と思い始めたのは、あの日があって、そのあとすぐ日本に帰ってエッセイ本の執筆作業に入り、自分の他者に対するコミュニケーションのやり方を徹底的に見つめ直してから。よくよく考えたら、ロンドンであまり友達ができなかったのは、文化の違いゆえに意見が違うだろう人たちと突っ込んで話した時に、自分の正しくなさがさらけだされてしまうのが怖かったからもあった気がする。だからこれはエミリの問題ではなく、わたしの問題で、エミリとの関係だけではなくて、すべての人との関係における問題。

実際に会っても体感したけれど、綾は誰とでも仲良くなれるし、それでいて、うわべだけのソーシャルワーキングではなく、しっかりと芯のある会話をしているよね。『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』には、懇意になった男性にフェミニズムの話を拒絶され、疎遠になったエピソードがあった。

女友達との関係はどうですか? 綾が相手に求めること、綾がバックグラウンドや意見の違う友人とのコミュニケーションで大切にしていること、そしてフェミニズムの話を女同士でするときに気をつけていることなど。とにかくなんでも、聞かせてください。

*   *   *

鈴木綾×ひらりさ「30歳からの人生計画、どう考える?~お金・パートナー・生きがい~」

10月28日(土)19時より、オンラインにて開催いたします。「いわゆる成功」「いわゆる幸せ」以外を探す対談。詳しくは、幻冬舎大学のページをご覧ください。

ひらりさ『それでも女をやっていく

「肥大化した自意識、『女であること』をめぐる様々な葛藤との向き合い方。 自分の罪を認めて許していくこと。 その試行錯誤の過程がこれでもかというほど切実に描かれていて、 読み進めるのが苦しくなる瞬間さえある。 それでもここで描かれているりささんの戦いの記録に、私自身も戦う勇気をもらうのだ」 ――「エルピス」「大豆田とわ子と三人の元夫」プロデューサー 佐野亜裕美さん推薦! 実体験をもとに女を取り巻くラベルを見つめ直す渾身のエッセイ!

関連書籍

鈴木綾『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』

フェミニズムの生まれた国でも 、若い女は便利屋扱いされるんだよ! 思い切り仕事ができる環境と、理解のあるパートナーは、どこで見つかるの? 孤高の街ロンドンをサバイブする30代独身女性のリアルライフ 日本が好きだった。東京で6年間働いた。だけど、モラハラ、セクハラ、息苦しくて限界に。そしてロンドンにたどり着いた――。 国も文化も越える女性の生きづらさをユーモアたっぷりに鋭く綴る。 鮮烈なデビュー作!

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ひらりさ⇔鈴木綾 Beyond the Binary

社会を取り巻くバイナリー(二元論)な価値観を超えて、「それでも女をやっていく」ための往復書簡。

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ひらりさ

文筆家。1989年生まれ。オタク文化、BL、美意識などのテーマで、女性についての様々なエッセイ、インタビュー、レビューを執筆する。単著に『沼で溺れてみたけれど』(講談社)。 平成元年生まれのオタク女子4人によるサークル「劇団雌猫」メンバー。劇団雌猫としての編著書に、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

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