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2040年の日本

2023.01.24 公開 ツイート

日本が防衛費を増やすことに意味はあるのか 野口悠紀雄

先行き不安な日本経済をはじめ、メタバースや再生エネルギー問題、EV、医療・介護など、幅広い分野の驚くべき未来を予測した新刊『2040年の日本』(野口悠紀雄著)から、試し読みを抜粋してお届けします。未来を正しく理解し、変化に備えられるかどうかで、人生の後半は決まる!

*  *  *

GDPが日本の10倍になる中国と、どのように向き合うべきか

40年経てば世界は大きく変わる

図表2-4は、過去30年と今後40年の日米中のGDPの推移を示す(OECDの長期予測による)。これを見れば、日本人の誰もがショックを受けるだろう。

中国のGDPがすでに日本の数倍であること、今後も高い成長率で伸び続けることなどは、多くの人が知っている。

しかし、図表2-4に示す姿は、そうした常識を超えて、ショッキングだ。

2060年、中国のGDPは、日本の約10倍になる(正確には、9.8倍)。米中に比べると、日本のGDPなど、見る影もない。

この図の左端に示す1990年頃、中国のGDPは日本より少なかった。2000年頃に、中国のGDPが日本とほぼ同じになった。この頃のことは、多くの人がまだよく覚えている。それから20年経ったいま、中国のGDPは日本の数倍になった。

しかし、2060年には、こうした比較が何の意味もないほどの異質な世界が出現するのだ。

2020年から2060年までの40年間に、日本のGDPは7.2%しか増えない。増加額は4258億ドルだ。図表2-4では、ほとんど増えていないように見える。

それに対して、中国のGDPは、この期間に164.3%増える。額では38.6兆ドルだ。

中国では、少子化によって、今後、労働力不足が顕在化するが、それでもこのように成長する。

市場為替レートでは、日中間格差は縮まる可能性

ところで、ここで注意しておきたいのは、図表2-4は、実質GDPを購買力平価で評価していることだ。

購買力平価による評価は、市場為替レートに比べると、新興国のGDPを大きく評価する傾向がある。

市場為替レートでGDPを比較してみると、図表2-5のとおりだ(IMFのデータベースによる)。中国のGDPは、図表2-4の場合より少なくなっている。

日本と中国のGDPが同規模になったのは、図表2-5では2010年のことだが、図表2-4では2000年のことだ。

どちらかの指標が誤りというわけではないのだが、各々がどのような意味のものであるかを正しく把握しておく必要がある。

日本が防衛費を増やすことに意味はあるのか

われわれは、中国の問題を考えるときに、将来のことであっても、無意識のうちに、現在と同じような大きさの中国を想定する。

しかし、図表2-4に示す将来の姿は、さまざまな面で、われわれの常識的な考えに本質的な変更を迫る。

これは、まず、安全保障の問題において重要な意味を持つ。

(写真:iStock.com/viper-zero)

中国の脅威が高まっていることから、防衛費を増額する必要があるという議論が日本で強まっている。具体的には、防衛費を、これまでのようにGDPの1%に抑えるのではなく、2%に引き上げる必要があるとの議論が起こっている。

しかし、中国のGDPが日本よりこれだけ大きくなってしまえば、日本が防衛費をGDPの1%から2%にしたところで、どれだけの意味があるだろうか?

日本のGDPの1%は、2060年においては、中国のGDPの0.1%にすぎない。これだけの防衛費増額がどの程度の効果があるかを、冷静に判断すべきだ。

国防の基礎は経済力だと言われる。そのこと自体は将来も正しいが、これだけ経済規模が開いてしまっては、その意味を考え直す必要がある。

第一に、安全保障を単なる軍事力の問題として捉えるのではなく、より広範に捉えるべきだ。今後の安全保障は、何よりも外交の問題だ。そして、広範囲の国を含む集団安全保障の問題として考えざるをえない。つまり、全世界的な規模での対中安全保障が必要なのだ。

すでにQUAD(日米豪印戦略対話)などの取り組みがあるが、こうした対応を、さらに範囲を広げて積極的に行なうことが必要だろう。

これから日本は何を目指すべきか

日本がこれまで経済大国だったのは、経済規模が大きかったからだ。しかし、日本がいくら大きくなっても、今後の中国とアメリカの成長を前にしては、もはや何の意味も持たない。

図表2-4が明確に示しているのは、日本は「大きさ」に代わる何かを見出さない限り、世界経済の中で生き延びられないということだ。

1990年頃、日本のGDPは、アメリカや中国と同じような大きさだった。だから、アメリカや中国は日本を無視することができなかった。しかし、2060年においては、中国やアメリカから見れば、大きさの点では、日本はゴミのような存在になってしまうのだ。

しかし、そうであっても、日本の役割がなくなるわけではない。これまでの世界においても、北欧諸国は経済規模は小さかったが、世界経済の中で重要な役割を担ってきた。それと同じようなことを、日本が見出していかなければならない。日本が世界経済に不可欠なものを持てるかどうかが、問われることになる。

関連書籍

野口悠紀雄『2040年の日本』

20年後、いまと同じ社会が続いていると無意識に考えていないか。政府の資料では2040年、国民の年金や医療費などの社会保障負担率は驚くべき数字になる。現在と同じような医療や年金を受けられると思ったら大間違いだ。事態改善の鍵を握る、医療や介護におけるテクノロジーの進歩は、どこまで期待できるのか。60年にわたって日本を観測してきた著者が、日本経済や国力、メタバースやエネルギー問題、EVや核融合・量子コンピュータなど幅広い分野について言及。未来を正しく理解し、変化に備えられるかどうかで、人生の後半は決まる!

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2040年の日本

未来を正しく理解し、変化に備えられるかどうかで、人生の後半は決まる!60年近くにわたり日本の未来を考え続けてきた著者が、日本経済やメタバース、エネルギー問題、EVや核融合・量子コンピュータなど幅広い分野について予測する。

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野口悠紀雄

1940年、東京に生まれる。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専攻は日本経済論。近著に『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社、岡倉天心賞)、『2040年の日本』(幻冬舎新書)、『超「超」勉強法』(プレジデント社)、『日銀の責任』(PHP新書)、『プア・ジャパン』(朝日新書)ほか多数。

・Twitter @yukionoguchi10
野口悠紀雄Online
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