
当選確率1%以下といわれるアメリカ合衆国グリーンカード(永住権)のくじを奇跡的に引き当て、2020年からNYに移住した黒川祥志さん。
しかし英語もできないまま移民となった黒川さんを待ち受けていたのは、キラキラとは無縁の地道なNY生活で……。
グリーンカードが突然当たったら人生はどうなるのか!? その経験をリアルにつづる新連載です。
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憧れのアメリカでがっつり稼ぎたい
はじめまして。NY在住、41歳独身のおっさん、黒川祥志(Shoji Kurokawa)です。アメリカのグリーンカード(永住権)のくじ引きが当たり、2020年からアメリカに移住しました。
このたび、まったくキラキラしていないアメリカ移住生活を、この幻冬舎plusで書くことになりました。大した内容ではありませんので、ひまつぶし程度に楽しんでください。
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まずは「なぜアメリカに移住しようと思ったのか、どういう生活をしているのか」を自己紹介がてら書こうと思う。
2020年11月末、僕はNYでの新生活をスタートさせた。
なぜ、新型コロナのパンデミック真っただなかの時期に渡米したのか、それは2018年にグリーンカードが当たり、そこから手続きを経て2019年に実際に手に入れたからだ。
移住しないと権利が失効するので、大変な時期ではあったけれど、移住することにした。
こまごまとした手続きであったり、NYを選んだ理由であったりは、別の回にゆずるが、そもそもなぜくじに挑戦したのか、その理由は2つある。
1つはアメリカ文化、特にアメリカ映画が大好きで、その世界に憧れていたからだ。これが理由で日本では映像業界で働いていた。
影響を受けた映画も数知れない。好きな映画の話は長くなるのではしょるが、ともかく、アメリカ、そしてハリウッドに憧れて、移住しようと思った。
↓大好きなアメリカ映画「パルプ・フィクション」(クエンティン・タランティーノ監督、1994年公開)
そしてもう1つの理由は、物価の高い国に移住すれば、日本よりも稼げるのでは、と考えたからだった。
20年くらい前、定年退職後にフィリピンやタイなど、当時の日本よりも物価が安い国に移住する人が結構いたものだが、その発想を逆転させて、物価の高い国で稼げるだけ稼いで、定年退職後は日本でのんびりと余生を過ごしたい、そう考えてアメリカに移住した。
で、実際にどういう生活を送っているかと言うと……散々です。。。
移住前の自分をボコボコにしばいて、「世の中そんなに甘くないぞ」と説教したくなるくらい、ダメダメである。冒頭、「大した内容ではない」と記した理由はここにある。
テレビや雑誌、webなんかで「憧れの海外移住生活」の類いを目にしたことがあると思うが、残念ながらこの連載にそんなキラキラしたものは一切ございません。
あるのは40歳を越えたおっさんの、羞恥にまみれたグチだけです。
なぜ、そんなにもうまくいっていないか、理由は単純で、僕がアホだからだ。
どれくらいアホかというと、英語もしゃべれないのにアメリカに住む、というレベルでアホなのである。
そう、英語もしゃべれないのに移住したのだ。うまくいくはずもない。
格闘技の素人が調子こいてボクシングの世界チャンプに喧嘩を売るようなもんだ。別に特定の誰かを思い浮かべたわけではありません。
話を戻そう。
どういう生活をしているかというと、現在は映像編集の仕事にありついて、何とかやっていけている、という感じ。
ギャラは日本円に換算したらそれなりの金額だが、NYは物価が高く、しかもインフレ、余裕はない。
卵は12個入りの1パックが約6ドル(約800円)。バーでビールを頼めば、安くて7ドル+チップ1ドル、計8ドル(約1060円)。
基本的な物価が日本の1.5~2倍、ラッキーストライクは1箱16ドル(約2,130円)なので、物によっては3倍近くする。
派手に遊ぶようなことはできない。生活はかなり地味である。酒と煙草をやめれば、と思われるかもしれないが、それは無理。

仕事は映像編集のパートタイムを2つ掛け持ちしている。
1つはNYの不妊治療院からの依頼でSNS用の動画を制作している。
もう1つは、アメリカ人が日本のお菓子を食べて感想を述べる、というYouTube動画の編集だ。
↓僕が編集を請け負っている動画
どちらもギラギラしたハリウッドとはほど遠い、地味な仕事ではあるが、正直な話、仕事があるだけでありがたい。
アメリカで英語のしゃべれないおっさんが得られる仕事などほとんどないのだから。
アメリカは日本以上の学歴社会
グリーンカードがあると、アメリカ国内のどんな企業・業種でも採用条件さえ満たせば、就労することができる。
ただし、この採用条件が厳しいのだ。
まず、正社員枠の採用条件は「大学卒業以上」というのがほとんどである。
日本人にとってアメリカ社会は「実力主義」のイメージが強いため、学歴重視だということを知らない方も多いかと思うが、アメリカは日本以上に学歴社会なのだ。
それぞれの職種に対して、それに関連する分野を大学で専攻していないと、基本的には採用の対象にならない。
また、日本のような新卒採用文化もなく、即戦力となる人材しか採用されない。だから、採用されるには希望職種に関係した分野で、少なくとも数年間は勤務していた経験が必要になる。
「じゃあ、アメリカ人はどうやって経験を積んでいるの?」という疑問がわいてくるだろう。
じつは、彼らのほとんどが学生時代や卒業後にインターン職に就き、そこで経験を積み重ね、少しずつステップアップをしながら、もっと条件のいい会社の正社員の席を勝ち取っていくわけだ。

この事情をまったく知らなかったわけではない。
ただ、僕は日本で15年ほど映像制作で生計を立てていたので、その経験があれば何とかなるだろう、くらいの腹積もりだった。
その腹積もりが甘すぎた。
履歴書を送って僕の経歴を見てもらい、いくつかの会社の面接までは進むことができたが、これがまったくダメダメで、英語で質問されるが、何を言ってるのかさっぱりわからない。毎回、質問を聞き直して面接官に苦笑される。
アホに話しかけるようにゆっくりと話してくれるのだが、その返答も英語なので困る。単語がまったく出てこないのだ。
とりあえず簡単な単語を並べて答えるけれど、「O.K.」とだけ返されて終わりである。Zoom面接の場合は「Wi-Fiのせいで聞き取りづらい」感を出してみるが、そんなアホな手が通用するわけもない。
しかも、僕は映像業界で十数年働いてきたとはいえ、学生時代に芸術系分野を専攻していたわけではないので、その点も面接で渋い顔をされた。
40歳を越えて、面接で学生時代に勉強したことを聞かれることなんて予想していなかった(おそらく、アメリカでの職歴がないために聞かれたのだろう)。
日本食レストランのバイトは履歴書で落ちた
もちろん映像業界以外の仕事も応募した。ファーストフードのアルバイトに応募したこともあるが、ことごとくダメだった。日系企業もほぼ全滅。日本食レストランですら相手にしてもらえない。
英語がしゃべれないのだから当然だし、40歳を越えたムダに職歴のあるおっさんなど、バイトに欲しがる人はいない。なぜなら、面倒くさそうだから。
バイトとしてコキ使いたいのに、正論で口答えしそうだし、他に仕事が決まればすぐ辞めてしまいそうなおっさんなど、誰も欲しがらない。
という感じで仕事がなかなか決まらない日々を過ごすこと約半年、2021年5月にようやく最初の仕事にありつき、そこでも紆余曲折ありながら、2022年6月末に何とか、今の映像編集の仕事にありつけた次第だ。
今回はここまで。これからもアメリカ移住したおっさんが四苦八苦する様子をこちらで書いていきたい。では。
グリーンカード当選男のNY移民ぐらし

当選確率1%以下といわれるアメリカ合衆国のグリーンカード(永住権)のくじを引き当て、NYに移住した41歳の著者。しかし英語もできないまま移民となった著者を待ち受けていたのは、キラキラとは無縁の泥臭いNY生活だった。グリーンカードにはどうやって応募するのか? 当たったあとはどんな手続きが待っているのか? アメリカに渡ってからの生活はどんな感じか? グリーンカード当選者が不器用に生きるリアルな日常を、赤裸々につづります。