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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2023.01.15 更新 ツイート

第193回 楽 いとうあさこ

明けました。2023年。大久保佳代子嬢とやっているラジオで新年最初のゲストにお越しいただいた島田秀平氏によると、うさぎ年は漢字で書くと“卯年”。“卯”の字って“卵”に似ていますよね。まさに“何かが生まれる”年との事。今年、“卵”を産む、つまり何かを始めておくと、この後が辰年→巳(み)年で、卵が“立つ(辰)”→立ち上がって“実(巳)”になる、まさにホップステップジャンプのホップの年なんだそう。ダジャレだけど、なんかいい。ただ正直何を始めたらいいのかわからない。今まで「やってみたい!」と言ったもののやっていないもの、を思い出してみる。“富士登山”“和太鼓”“ゴスペル”“フラダンス”“そろばん”。ん-、どれもパワーと時間がかなりいりそうですが、まあなんでも初動の“よっこいしょ”がめんどくさいだけで始めちゃえばね。動き出すのはわかっていますから。どれか始めてみようかな。なんて書きながら、考えているうちに気づいたら年末、なんて事ないよう。はてさて。

 

そんな新年。自宅で一人飲みながら、なんとなしにTwitterを見ていると同じ事務所の三代目桂枝太郎さんのツイートがふと目に留まりまして。「三遊亭円楽師匠の墓参り。お別れの会に参列できなかったので、やっとお別れが言えました。」の文章と共に1枚の写真が。それは青い空バックで、卒塔婆に書かれた“故 三遊亭円楽”の文字。ああ、私もだ。私もお別れの会の時、ちょうど地方の泊りロケ中で伺えず、ちゃんとご挨拶出来ていない。そのせいもあってか実感がなかなか沸かなくて。と言うかどこか逃げていたとこもあるのかも。亡くなった時にやっていた追悼番組ももちろん全部録画していたのですが、何だかどれも観れなくてずっとそのまんまに。そうこうしているうちに年を越してしまったわけです。枝太郎さんにDMを送る。「もしよろしければお墓の場所をお伺いしたいのですが。」すぐ返信をくださりまして。場所は群馬県前橋で「かなり遠いです(笑)」だそう。スケジュール帳を見ると「明日の朝、行けるかも。」お天気も、良さそう。そんな事をぼんやり考えながら、録画しておいた連続テレビ小説「ひらり」の再放送をつけた。私は「おしん」の頃からこの連続テレビ小説は大好きでずっと観てきて。最近ずっと夕方にやっている再放送シリーズ。ほぼ何にも覚えてない私は毎回まるで初見のように新鮮な気持ちで観るのですが、この「ひらり」もそう。主人公が石田ひかりさんとか、主題歌がDREAMS COME TRUE「晴れたらいいね」とかはもちろん覚えてますし、舞台が両国でお相撲に絡めた物語だったとか、石倉三郎さんがなんかいつも横になってキャベツつまんでいたとか、そういう事も覚えていたんですが、なにせ30年前のドラマですから。詳細はすっかり忘れておりまして。それが枝太郎さんと連絡をとった日にオンエアだった第18話。主人公ひらりが立ち寄ったビッグサイズの洋服屋さんの店主を観て、あらびっくり。店主役、まさかまさかの円楽師匠だったのです。何これ。何このタイミング。もう師匠が「早く来い」っておっしゃっているとしか思えない。だって“ちょうど”枝太郎さんのツイート見つけて連絡とって。そして“ちょうど”明日空いていて、更には“ちょうど”明日行こうかなって思っていて。そんな時、“ちょうど”テレビの中に円楽師匠。あ、あれ? もしかして亡くなったのが9月30日だから、明日が“ちょうど”100日、とか? だとしたらもう“ちょうど”祭りよ。早速数えてみる。結果は、98日。半端。99日なら「100日になる前に」とか、もちろん100日なら「ジャスト!」とか、だったけど、98日って。なんか、それもまた、うん。おもしろいね。よし、これはもう「明日行く」決定。ちびちび飲んでいたのをパッとやめてお風呂へ。頭のてっぺんから足の爪先までちゃんとキレイにして早めに寝る支度を。翌日昼には東京に戻っていたいので、朝7時過ぎに出発する事にした。

翌朝、4時過ぎ起床。慣れない早寝をしたからかうっかり早く目が覚めてしまった。目覚ましをかけた6時半まで、ぬくぬく布団の中でラジオを聞いたり、“村の畑を整える”ゲームをしたりして過ごす。少し外も明るくなってきて準備開始。長旅に備えペットボトルのお茶とハンカチ、ティッシュ、お財布をカバンに詰め込んでいざ、レッツラゴー。

朝早いのもあってスイスイ。朝の空気は澄んでいる感じがして気持ちがいい。そして2時間かからずお寺に到着。枝太郎さんがお墓の位置のだいたいの方向は教えてくださっていたので勘で行ってみるも見つからず。その後も「じゃあ、こっちかな?」を数回くり返し、気づきました。そうだ、私“方向ダメ子”だった。本堂横の寺務所と思われる棟へ行ってみる。扉が閉まっていたので外の呼び鈴を鳴らしてみると、しばらくしてご住職が出ていらした。「円楽師匠のお墓参りに来た者ですが、お墓の場所を伺う事は出来ますでしょうか?」マスクもしているし、出来るだけ“不審者”に思われないよう、格別丁寧に伺った。するとわかりやすい墓地の地図を持って来てくださり、「ここです」と赤く印のついた師匠のお墓の場所を指さして教えてくださった。

ご住職の言われた通りに行った先に見えました。墓碑に書かれた“楽”の文字。それが見えた途端、なんなんでしょう。急に泣けてきて。悲しいとかそういうのではなくて、なんだろ。「やっと会えた」みたいな。そんな感じかな。真っ青な空をバックに、そして澄んだ空気の中見る、優しい“楽”の文字。ちょうど誰も人がいなかったので、ゆっくり、いっぱいお喋りした。「お酒の方がいいですよねぇ」なんて言いながら、お水かけたりして。近くに幼稚園があって子供たちのお喋りや歌なんかも聞こえてきた。「お墓、いい所にありますね。また参ります。」ご挨拶して帰途についた。そしてその日の夜、録りためていた追悼番組を一気見した。

今年はあの“楽”の文字を胸に、“楽しく”、時に“楽に”、とにかく一生懸命“生きる”だな。イエス、がんばるんば。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

【本日の乾杯】ここ数年、大久保さんと恒例のお正月旅行に行けない代わりに、ちょっと豪華なお食事で新年会を。今年はホテルの中華へ。写真は前菜。紹興酒もロックで。もう何杯あっても足りないぜ。あけおめ。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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