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「人生でマジ役立つ」「できれば若い頃に読んでおきたかった」……資産運用や人生設計の本質が凝縮されたロングセラー名著『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(橘玲著、幻冬舎文庫)。世界的な経済の不安も増す中、お金本のバイブルともいえる本書は、きたる荒波を進む際の支えにもきっとなるはず。一部を抜粋してお届けします。

*  *  *

ハワイ生まれの日系アメリカ人ロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』がベストセラーになって以来、書店には数多くの“お金持ち本”が並ぶようになりました。そのすべてを読破することは不可能でしょうが、だからといってなんの問題もありません。目次を見れば、書いてあることはたいてい想像できるからです。

人類の歴史に貨幣が登場して以来、お金持ちになる方法はたった3つしかありません。さらには、その方法はわずか1行の数式で表わすことができます。

もったいぶらずにお教えしましょう。これが、お金持ちの方程式です。

 

資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り)

 

足算と引算と掛算だけでできた、小学生にでもわかりそうな方程式です。しかし驚くべきことに、世界じゅうのひとびとを虜にしてきた「金持ちになりたい」という夢が、このたった1行に凝縮されているのです。

この方程式から、お金持ちになるには、次の3つの方法しかないことがわかります。

(1) 収入を増やす

(2) 支出を減らす

(3) 運用利回りを上げる

これをファイナンスの用語で説明するならば、資産形成の方程式の第一項(収入-支出)はその年の総収入から総支出を引いたものですから、「損益計算書」上の純利益に相当します。一方、第二項(資産×運用利回り)は保有資産(金融資産・不動産資産など)を何パーセントの利回りで運用できたか、ということですから、こちらは「バランスシート(貸借対照表)」の領域です(図2)。

お金持ちの方程式は、個人でも企業でも同じです。純利益を増やし、本業の収益力を向上させることと、保有している資産を有効活用することです。これ以外の方法は存在しません。

その証拠に、巷にあふれる“お金持ち本”は、すべて次のどれかに分類できます。

(1)「サラリーマン出世術」「商売に成功する方法」など、収入を増やすノウハウ

(2)「節約生活」「マル得情報」など、生活水準を下げずに支出を減らすノウハウ

(3)「1億円儲ける」「株で生活する」などの株本に代表される資産運用指南本

 

ベストセラー『金持ち父さん貧乏父さん』も例外ではありません。まだ読んでいないという方のために、その内容を要約してみましょう。

──金持ち父さんになりたければ、

(1) まずは収入を増やしなさい(著者はゼロックスの営業マンとして仕事をしながら、株式投資や不動産売買で資産を増やした)

(2) 次に支出を減らしなさい(金持ち父さん=著者の親友の父親は、大きなビジネスを手がけながらも、質素な生活をしていた)

(3) さらにリスクを取りなさい(著者は不動産不況の際に、銀行から借金をしてまで割安の不動産に投資した)

(4) サラリーマンを辞めて起業しなさい(著者は、サラリーマンのままでは金持ちになれないと説く)

(5) 税金を払うのをやめなさい(この本では、会社をつくって合法的に節税する方法が紹介されている)

(6) 家計のバランスシートをつくって自分の資産と負債を管理しなさい

 

すべての“お金持ち本”は、原理的に、こうした一般原則に還元されてしまうのです。

 

最初にお断りしておくなら、確実に金持ちになる方法など、この世にありません。もしそんなものがあれば、世界じゅうのひとが金持ちになっているはずです。百歩譲って、仮に確実に金持ちになる方法があるとしても、それが本に書いてあるわけはありません。他人に教える前に、著者自身がその方法で金持ちになるはずだからです。

(写真:iStock.com/WaffOzzy)

では、金持ちが書いた“お金持ち本”なら信頼できるのでしょうか? 残念ながら、そうともいえません。なぜなら、そこに書かれているのは著者個人の体験でしかないからです。金持ちになるヒントを得ることは可能でしょうが、一般化はできません。

“お金持ち本”には、読者を錯覚させるあるトリックが隠されています。それは、「成功したひとしか本を書かない」ということです。

 

たとえばロバート・キヨサキは、市況の回復を確信して、多額の借金をしてハワイの不動産を買い漁りました。しかし不動産の値下がりで苦境に陥り、85年には夫婦でホームレス生活を余儀なくされ、一時は古ぼけたトヨタを「家」にしていたといいます。見かねた友人が自分の家の地下室を貸してくれるまで3週間、ホームレス生活は続きました。その後、キヨサキの予想どおり不動産は大きく値上がりし、資産形成に成功するわけですが、不動産価格の下落がさらに続けば、借金を返済できずに破産していたかもしれません。その場合は、『金持ち父さん貧乏父さん』が書かれることは永久になかったはずです。

ロバート・キヨサキがハワイの不動産を買っていた80年代半ばに日本の不動産に多額の投資をしたひとがいるとすれば、90年代のバブル崩壊で間違いなく破産しています。さらにいえば、ハワイの不動産市況が回復し、キヨサキが投資に成功したのは、バブルの最盛期に大量のマネーが日本からハワイに流れ込んだためです。こうして金持ちになったキヨサキが、バブル崩壊で苦しむ日本人に成功譚を語るというのも、考えてみれば皮肉な話です。

 

2億5000万人のアメリカ人全員が参加する賭け金1ドルのコイン投げを1日1回行ない、勝った方が相手の持っているコインをすべて受け取るとすると、20日後には勝ち残った238人の手に105万ドル以上が貯まっている計算になります。

そこで、“世界最高の投資家”ウォーレン・バフェットはいいます。

「こうなると、『毎朝30秒、20日間で1ドルを100万ドルに増やす方法』などという本を書く奴が出てこないとも限らない」

敗者が消えていき、残った勝者だけで統計をとると平均値が上がってしまうトリックを“生き残りバイアス”といいますが、これなどはその典型です。

誤解のないように付け加えるならば、『金持ち父さん貧乏父さん』は、“お金持ち本”のなかでも良質な部類に属します。そこで提案されているさまざまな投資の原則も、納得できるものが大半です。この本の唯一の難点は、日本では使えないノウハウが多すぎるということでしょう。「税金を払っていては金持ちになれない」という著者の指摘は正確ですが、アメリカの税制に基づいた節税法は日本ではなんの意味もありません。

 

確実にダイエットに成功する方法は、1日の消費カロリー以下に食事の量を抑えることです。こうすれば、生理学的に動物は必ず痩せます。それができないのは、人間にとって、食べることが快楽だからです。

芸能人やモデルが痩せているのは、太ると仕事が来なくなるからです。べつに意志が強いからではありません。有名になりたいというモチベーションがはっきりしていれば、ひとは快楽に打ち克つこともできます。ただし、禁欲の先により大きな快楽が待っていなければなりません。

同様に、お金持ちになる合理的な方法も存在します。日本のような人件費の高い国に生まれた幸運を最大限に活かし、三畳一間のボロアパートに住み、贅沢はいっさいせず、1日16時間休みなしで働けば、誰でも5年もあればまとまった資産をつくることができます。ベンチャー企業の創業者にときどきこういうタイプがいますが、そこまでして金持ちになりたいという強烈な意志を持つひとは、そう多くはないでしょう。

 

私たち凡人は、それなりに生活を楽しみながら、できるだけつらい思いをせずに、経済的に豊かになりたいと考えています。幸福を犠牲にしてお金を貯めてもなんの意味もありませんから、この考えは間違ってはいません。しかし、なんの努力もせずに金持ちになれるほど世の中が甘くないのも事実です。

世の中には、収入以上の贅沢をし、消費者金融で借金をしながら、宝くじが当たるのを待っている人がいっぱいいます。しかしこれでは、いつまで待っても幸運の女神がやってくるはずはありません。

もういちど、お金持ちの方程式を思い出してください。

 

資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り)

 

答はすべて、このなかにあります。

関連書籍

橘玲『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』

自由な人生を誰もが願う。国、会社、家族に依存せず生きるには経済的独立すなわち十分な資産が必要だ。1億円の資産保有を経済的独立とすれば欧米や日本では特別な才は要らず勤勉と倹約それに共稼ぎで目標に到達する。黄金の羽根とは制度の歪みがもたらす幸運のこと。手に入れると大きな利益を得る。誰でもできる「人生の利益の最大化」とその方法。

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新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ

必要なのは、ちょっとした知識と倹約だけ。誰でもできる「資産1億円の作り方」と「人生の利益の最大化」とは。読まれ続けるお金の名著。

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橘玲 作家

1959年生まれ。作家。2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、『お金持ちになる黄金の羽根の拾い方』が30万部超のベストセラーに。06年、小説『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞の候補作となる。また、『言ってはいけない』が新書大賞2017に輝く。他の著書に『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』『(日本人)』『亜玖夢博士の経済入門』『タックスヘイヴン』『ダブルマリッジ』『朝日ぎらい』『上級国民/下級国民』『女と男 なぜわかりあえないのか』『バカと無知』等がある。

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