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51歳緊急入院の乱

2022.12.20 公開 ツイート

第50回

死んでも「しゃあない」世の中で命がけで自分を守る 花房観音

現在、これを書いているのは12月中旬、退院しておよそ6か月半が過ぎた。

不調をすべて更年期と加齢のせいにした結果、救急車で運ばれ、心臓の一部がほとんど動かなくなって、「あ、死ぬな」と思ったけれど、しぶとく生き返ってから約半年ちょい。
とりあえず、今の私の状況はというと、すべての数値はほぼ正常値になり、通院も1ヶ月から2ヶ月に一度になって、普通に暮らしてはいる。

 

数値が改善されたのは、私の努力のたまものだ。体重は入院中に7キロ(これは心臓の動きが悪くなっていて溜まった水分)+退院してから8キロ落ちて、体脂肪は5%減った。食事内容の改善と地道なウォーキングと筋トレの成果だ。しかしまだまだ頑張らないといけない、落とすべき肉は豊富にある。先は長い。ちなみに基本的に1日3回食事はとっている。そのほうが薬を飲み忘れないのと、美味しいものを食べる楽しみは失いたくないからだ。

今度こそ死ぬかもと思う

仕事もしているし、旅行にもたまにする。ただ、やっぱりときどき、何かのきっかけで不安がおしよせてきたり、疲れすぎたら胸の鼓動が早まり、「今度こそ死ぬかも」と考えてしまうのが、しんどい。きっと以前ならば、「ちょっと我慢したらおさまる」で済んでいた不調も、今は死ぬ恐怖が伴う。
特に冬は血圧が上がりやすいので気をつけてと言われているし、実際に寒くなってからその傾向もあり憂鬱だ。

それにくわえ、今現在、新型コロナウイルス肺炎の感染者が、また爆発的に増えている。風邪でも重症化するといわれているので絶対に感染したくないと、不特定多数の集まる場所や、人混みには近づかない、人づきあいが悪い生活は相変わらずだ。コロナは収まる気配ないし、ずっとこれから先もこんなんかなとは思うが、まあそれはしゃあない。

「しゃあない」を生きる

そう、「しゃあない」のだ。
再発して、今度こそ死んでも。
コロナやインフルにかかって重症化しても。
人はどんなに「死にたくない、生きたい」と思っても、死が容赦ないのは、もう「しゃあない」。

でもだからといって、達観してるわけでも、覚悟ができているわけでもない。入院中から、自分の死後について考えたり書き残したりしなければいけないとか思っていたはずだけど、日々に追われて、何もできていない。

けれど、やはり世界は変わってしまったのだとは、退院して半年経った今でも痛感している。不安は消えないし、ときどき生きるのがめんどくさい。そして「死」はやっぱり怖い。

自分がそうだから、他人の「死」や「病」にも敏感になった。周りの人の不調の話を聞くと心配になるし、若くで亡くなる人の訃報を聞くたびに、胸が苦しくなる。

生きているだけでもうけもん

残念なことに、人は若返ったりしない。ずっとこれから年をとるだけなので、死や病のリスクは、どれだけ気をつけて生きていても、年々大きくなる。それは間違いない。
そして病を抱えてから、社会は基本的に健康な人たち仕様にできているのだと痛感している。そうじゃない者は、自分自身も他人も「配慮」が必要で、そこらへんが厄介だ。
現時点で、こんなに不安で憂鬱なので、早死にするのは嫌だけど、年を取って生きていくのもめんどくさいなと、ずっと考えている。本当に、めんどくさい。

けれど倒れる前の、今思えば能天気すぎる状態には戻りたくもない。「死」を突き付けられて、私はだいぶ気をつけて生きるようになった。身体もだが、心もだ。どちらも病まないように必死だ。「普通に生きる」ことが、こんなに大変だと、今まで知らなかった。
生きてるだけで、もうけもんだ。死なないためには、自分を大事にしないといけない。ただそれだけのことすら、病気になるまで、わからなかった。

命がけで自分を守る

すべて自業自得ゆえに病気になった顛末を、こうして連載させてもらったのは、「入院費を稼ぎたい」との一心だったけれど、思いがけず、メールや直接会ったときなどに、何人かの知り合いに「私も身体の不調を更年期のせいにしていたけれど、花房さんの連載を読んで病院に行きました」と言ってもらえて、少しは人助けになったのかなとも思っている。
つまりは、それだけみんな不調を抱え、病を見逃して生きているのだ。そして私もそうだったけれど、忙しいとどうしても病院に行くのは後回しになってしまう。特に仕事と家事に追われている女性にその傾向は強いようにも思える。
死んだら、取返しがつかない。どうか皆さん、死ぬ前に病院に行きましょう。自分自身もだけど、残される人たちのために。

最終回なので、「治りました! 元気!」と、うまくオチをつけたいところだけど、更年期&心臓の病は現在進行形だ。いつまた調子が悪くなるか、突然死するかは、わからない。だって5年後の生存率50%だもの!
とりあえず、文字通り「命がけ」で、自分を守るしかないのです。

まだまだ書き足りないことはあるし、書いていないこともあるけれど、それはまた、別の機会に。

とりあえず、読んでいただいて、ありがとうございます。

(冬の京都。久々の宮川町。)

関連書籍

花房観音『ヘイケイ日記』

40代。溢れ出る汗、乱れる呼吸、得体のしれない苛立ち……。心身の異変を飼い慣らしながら、それでも女を生きていく。いくつになろうが女たるもの、問題色々煩悩色々。綺麗な50代をなぜ目指さないといけないのか、死ぬまでにあと何回「する」のか、グレイヘアを受け入れられるか。更年期真っ盛りの著者が怒りと笑いに満ちた日々を綴る「女の本音」エッセイ。

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51歳緊急入院の乱

更年期真っ只中。体調不良も更年期のせいだと思っていたら……まさかの緊急入院。「まだ死ねない」と確信した入院日記。

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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