一進一退の状況が続くロシア・ウクライナ戦争、緊張感を増している米中関係、そしていつ起きてもおかしくない「台湾有事」……。これからの世界の勢力図について、白熱の議論をたたかわせた書籍『ウクライナ戦争と米中対立』。本書でホスト役をつとめたジャーナリストの峯村健司さんと、対談者の一人である元航空自衛隊空将の小野田治さんに、ロシア・ウクライナ戦争の現在の戦況と、今後予想される展開をうかがいました。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】峯村健司、小野田治と語る「『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』から学ぶこれからの世界情勢」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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ロシア・ウクライナ戦争が長引く理由
── ロシア・ウクライナ戦争が始まってから、まもなく1年を迎えようとしています。当初、首都キーウはすぐに陥落するのではないかと見られていました。しかし、ゼレンスキー大統領のもとウクライナ軍は徹底抗戦して持ちこたえ、一進一退の状況が続いています。小野田さんは戦況をどう見ていますか?
小野田 ロシア軍がきちんと訓練されていないのが、ここまで長引いている最大の要因だと思います。もしアメリカ軍のようにきちんと訓練された軍隊だったら、多くの人が予想していたように、1カ月もたたないうちにウクライナはロシアに併合されていたでしょう。
ロシアには今、兵士がいません。装備はあるんです。多くが破壊されたとはいえ、今も相当な数の戦車を持っています。冬の大地が凍結して固まっているときに、電撃戦のような形で一気に物量を投入すれば、ウクライナは守りきれない可能性があります。しかし、その戦車を操縦する人がいないわけです。
一方、ウクライナには攻撃力が足りていません。必死でアメリカに戦車をくれ、戦闘機をくれ、防空システムをくれと叫んでいますが、これらが供給されないかぎり、領土を取り返すことは難しいでしょう。今のまま、こう着状態がしばらく続くと私は見ています。
── 停戦、あるいは勝敗を左右するポイントとして、ロシア軍の核使用、アメリカの支援、中国の出方などいろいろあると思うのですが、小野田さんは何が重要だと思いますか?
小野田 ウクライナには今、停戦に応じる理由がまったく見当たりません。領土の20パーセントをロシアに取られていますから。この戦争を止められるのは、プーチン大統領しかいません。しかし、プーチン大統領を翻意させるような外部要因、環境条件はまったく整っていません。
まず、国連がまったく機能していないですよね。5大国が今回の戦争を仕掛けている当事者なので、間に立つ大国がないんですよ。
一時、トルコが調停の場を提供しようとしました。しかし、トルコのような政治大国ではない国、しかもNATOの一部である国が、プーチン大統領を説得することは不可能です。
では、誰がプーチン大統領を説得できるのか? 中国だと思っている人がいるかもしれませんが、彼らは絶対手を上げないと思います。
日本には関係ないと思っていたら大間違い
峯村 私もそう思います。過去の中国の外交を調べてみると、仲裁に乗り出したケースって少ないんですね。唯一と言えるのは、北朝鮮をめぐる六者協議です。そのときは、中国が議長国をつとめました。
しかし中国には、本当に仲裁をする気なんてなかったんです。彼らの思惑は、六者協議という形にしてアメリカを巻き込み、責任を分散することがひとつ。
もうひとつは、解決するのではなく現状維持です。中国としては、現状の北朝鮮のままのほうが国益になります。要するに、六者協議を利用していただけで、今回のロシア・ウクライナ戦争でもリスクを取ってまで進んで仲裁するというのは、私も可能性が低いと考えています。
小野田 となると、ロシアとウクライナの間に立とうとする国はないわけです。
── 峯村さんは中間選挙後にワシントンに行かれて、政府周辺の要人と議論を戦わせてきたそうですね。アメリカの出方はどう見ていますか?
峯村 共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務が、選挙前に「ウクライナに白紙の小切手を渡すことはない」と言って、ウクライナ支援に消極的な態度を示しました。中間選挙で共和党が下院で過半数を取ったことで、ウクライナ支援に変化があるのか、私も気になっていました。しかし、「あまり変わらない」というのが私の感触です。
今回、ワシントンを訪れて、人権というものが見直されていると感じました。人道的な違反を犯しているロシア軍に対する怒りは、党派を超えて広がっています。
しかし、さらに戦争が長期化した場合、どうなるかはわかりません。アメリカはウクライナに対し、これまで多大な武器支援を行なっています。そのため今のアメリカの武器貯蔵レベルは、ここ数年で最悪のレベルにまで落ちています。これをリカバリーするには、さらに数年かかると言われています。
となると、ロシア・ウクライナ戦争の長期化によって、台湾有事に影響が出てくる可能性があると、私は大変懸念しています。
小野田 アメリカ国内では、砲弾のストックが底をついてきていて、韓国に備蓄している砲弾をウクライナ向けに転用しています。日本には関係ないと思っていたら大間違いです。精神的な支援疲れというより、物理的な支援疲れが起き始めているので、状況をよく見ておかなければいけないと思います。
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