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アルテイシアの熟女入門

2022.12.01 更新 ツイート

女の子がいる場所はつながっている アルテイシア

10歳の時の自分の写真を見ると、ドラゴンボールのヤジロベーに似ている。

兵庫県在住のぽっちゃり小学生は、フランス近衛隊隊長、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ様に憧れていた。

アントワネットに対しては「恋愛と買い物ばっかりせず仕事せえよ」と思っていた。

自由であるべきは心のみにあらず!! 人間はその指先1本髪の毛1本にいたるまで、すべて神の下に平等であり自由であるべきなのだ

 

子どもの頃、オスカル様のこの言葉にどれだけ勇気づけられただろう。

周りの大人は誰も教えてくれなかった“私の体は私のもの”という身体の自己決定権を、漫画が教えてくれたのだ。

池田理代子先生がインタビューで次のように話していた。

「1972年、24歳の時に『ベルサイユのばら』の連載をスタートさせました。あれからもう50年なんてね。

その頃の日本は完全なる男社会。編集部も男性ばかりでした。

『ベルばら』にしても、当初は「おんな子どもに歴史ものなどウケない。理解できるはずがない」とひどい言い方で全否定されて。

女性漫画家への風当たりも強く、原稿料は男性の半分。同じ媒体で、同じくらい人気があってもです。

理由を尋ねると、「女は将来結婚して男に食わせてもらうんでしょう? 男はあなたたちを食わせなきゃいけないの。ギャラが倍なのは当たり前」と言われました。すごい時代ですよね」

このインタビューを読んだ同世代の編集さんが話していた。

「若い女性の漫画家さんが『漫画の世界は性別関係なく、実力と人気で勝負できるからいい』と言ってたんですよ。彼女らが今そう言えるのは、先人たちが闘ってくれたからなんだなあ……とグッときました」

逆風の中、道を切り開いてくれた先輩たちのおかげで今がある。

私も先輩たちのバトンを次世代につなぎたいと思って、フェミニストとして発信している。

少女の私はフェミニズムのフェの字も知らなかった。

でもフェミニズムという言葉を使わなくても、フェミニズム的なテーマを描いた作品はいっぱいあった。

ベルばらはその代表だったし、萩尾望都さん、山岸凉子さん、大島弓子さんの作品も根底にフェミニズムが流れていた。

近年でいうと、よしながふみさんの『大奥』『愛すべき娘たち』、楠本まきさんの『赤白つるばみ』は正面からジェンダーやフェミニズムを描いているし、瀧波ユカリさんの『わたしたちは無痛恋愛がしたい』、ゆざきさかおみさんの『作りたい女と食べたい女』なども人気である。

すばらしいフェミ漫画がどんどん増えていて嬉しい。私は『進撃の巨人』もフェミ漫画だと思っている。

進撃と絵柄はまるで違うけど、やまじえびねさんの『女の子がいる場所は』も自由を奪われた少女たちを描いた作品だ。

本の帯にはこんな文章が載っている。

『わたしたちは結婚しないと生きていけないの?』

一夫多妻が認めらているサウジアラビアに暮らすサルマ。
同級生の姉は顔も見たことのない8つ年上の人と結婚する。
外ではヴェールが必要で、大好きだったサッカーはもうできない。

モロッコ、インド、アフガニスタン、そして日本。
変わりゆく世界に息づく10才の少女たちの物語。

2つめの話の主人公は、モロッコに暮らす本が大好きな少女ハビーバ。

ある時、ハビーバの家に祖母の古い友人であるシャマおばさんがやってくる。

このシャマおばさんがなかなかのクソババアで「娘の人生は容姿に左右されるんだ。勉強ができる? そんなの男の反感を買うだけさ!」「本は男の持ち物だ。嫁いだ女に本を読む時間なんてない」などクソ説教をしてくる。

それらの発言にドン引きしていたハビーバだが、偶然、シャマおばさんの背中に大きな傷があるのを見てしまう。

戸惑うハビーバに、祖母が傷の秘密を教えてくれる。

「シャマおばさんは字が読めないんだよ」
「学校に行かせてもらえなかったからね、父親に」

シャマおばさんは親の決めた相手と15歳で結婚し、夫からは読み書きができないことを見下されて、悔しい思いをしてきた。

まだ若かった頃、シャマおばさんはひとりで外出した時、腐った橋から落ちて背中に大けがを負う。

それは橋にかけられた「立ち入り禁止」の看板が読めなかったからだ。

文字が読めないことは命に関わるのだとハビーバは気づく。

そして大好きな本を読みながら、心の底から苦しい悲しい気持ちになる。

「シャマおばさんは奪われたのだ。なにものにもかえがたい、この読書の楽しみを奪われたのだ」と。

3つめの話の主人公は、インドで母と弟と貧しい生活をしていた少女カンティ。

カンティは学校にもあまり通えなかったけど、ママがお金持ちのおじさんと再婚したことで生活は一変し、私立のミッションスクールに通えるようになる。

そのうえ、おじさんは小学校の先生をしている17歳のアーシャを家庭教師につけてくれる。カンティはアーシャを姉のように慕うようになる。

ある時、アーシャが「弟や妹をミッションスクールに通わせてあげたい。そのためにもっとお金を稼ぎたくて、他にも家庭教師先を探してるんです」とおじさんに相談すると、おじさんは「友人たちにあたってみよう」と助けてくれる……

かと思いきや、このクソジジイはアーシャに売春を強要する。

それを知ったカンティが「おじさんは悪い人だ!」と抗議すると、クソジジイはカンティを殴って「後ろだても学歴もない女になにができる? どうやって金を稼ぐ?」「おまえも! おまえのママも弟も! わたしに助けられていることを忘れるな!」と怒鳴りつける。

その夜、カンティはあるひとつの決意をする。

ここで話は終わるのだが、それで何か解決するわけではない。クソジジイを成敗してアーシャは救われてハッピーエンド、にはならない。

だってそれが彼女たちの生きる「現実」だから。

遠い国の彼女たちがいる場所と、私たちのいる場所はつながっている。

結婚しないと生きていけない、私の母もそうだった。

母は23歳で専業主婦になり、40歳目前で夫から離婚されて、酒に溺れて自傷行為をするようになった。

そして最後は拒食症になり、1人暮らしの部屋で遺体となって発見された。

母と暮らしていた頃、中学生の私は「お母さん、自分の足で立ってよ」と思っていた。

でも大人になってフェミニズムに出会って「母は足を奪われたんだ」と気づいた。

母の世代の女たちは経済力を奪われて、イエという檻から逃げられなかった。

「誰が食わしてやってるんだ!」と夫に殴られても耐えるしかなかった。

夫に生殺与奪を握られた女たちは、ストックホルム症候群のように「主人」を愛して尽くすように洗脳される。

進撃の巨人の始祖ユミルもそうだ。

「あんた巨人の力があるんやろ? フリッツ王なんか踏み潰したったらええがな」と思うけど、彼女も「奴隷の自分は主人に愛されないと生きていけない」と洗脳されていたのだろう。

「褒美だ。我の子種をくれてやる」と王家の血をつなぐために利用されても、それを愛だと信じるしかなかったのだろう。

自分は檻から出られない無力な存在だと思い込まされ、学習性無力感に陥っていたのだろう。

その呪いが解けるのに2000年もかかったのだ。

始祖ユミルめっちゃ可哀想!! フリッツ王なんかぱくぱく食うたったらええがな!!

みたいな話を女友達とすると「わかる!」と膝パーカッションして盛り上がる。

一方「進撃ってめっちゃフェミ漫画だよね」と男性に言うと「えっどこが?」とキョトンとされることが多い。

『大奥』の話を男友達にした時もそうだった。

「大奥の世界では男は種付けの道具だから、婿入り先で子どもができないと、いじめられて離縁されたりするんだよ」と男友達に話すと「へえ~すごい話だね」と彼は笑っていて「ほんとうに見えている世界が違うんだな」と思った。

私は絶対に笑えない。だってそれは女が生きてきた「現実」だから。

やまじえびねさんが描く女の子たちは、こう訴える。

『ノートと鉛筆を、わたしたちから取り上げないで。行きたいところへ自由に行かせて。家の中にわたしたちを閉じ込めないで』

ノーベル平和賞を受賞したマララさんは「女も学校に行きたい」と訴えたという理由で銃撃された。

私の20代の女友達は「女は大学なんかいかなくていい、どうせ嫁に行くのにもったいない」と父親に反対されて、大学に進学できなかった。そのことが今でも悔しい、と彼女は泣いていた。

60代の女友達は、父親に本棚の本を全部捨てられたそうだ。「こんな小難しい本、読まんでいい」と言われて。

空っぽになった本棚を見た時のショックを今でも忘れられない、と彼女は話していた。

この60代の女友達とは「東灘区ジェンダーしゃべり場」を一緒にやっている、神戸市議の松本のり子さんである。

松本さんは本が大好きな少女で、マザーテレサの伝記を読んで「自分も世の中の役に立ちたい」と夢を抱いていた。

新卒でとある企業に就職すると、女性の仕事はお茶くみやコピーといった男性の補佐だった。

それでも「絶対に定年まで勤めあげるんだ、女性が働きやすい職場にするぞ!」とがんばっていたけど、25歳で結婚した時「女が結婚後も働き続けるなんて前例がない」と上司に何度も退職を迫られた。

上司は松本さんの父親の職場まで行って「娘を辞めさせろ」と圧をかけたそうだ。

それでも「負けるもんか」と働き続けて、第一子を出産後に復帰すると、彼女の机は廊下に置かれていた。

廊下で一人ぼっちで大量の仕事を押しつけられ、残業して土日出勤もしながら「なにくそ」とふんばっていたけど、第二子を妊娠した時に心が折れてしまった。

また同じような思いをするのか……と打ち勝つ自信がなく、悩みに悩んだ末、退職を申し出たそうだ。

あの時、私は逃げたから、もう決して逃げない。そう心に誓いました

という松本さんの言葉を聞いて、涙が出た。

彼女は逃げたんじゃない、居場所を奪われたのだ。

このマタハラ体験を語った動画を見た女性から、こんなコメントをいただいた。

『46年前というと私が生まれた頃。女性は結婚退職が当たり前で、結婚したらやめる誓約書を書かされるとか、マタハラで追い出し部屋とか、そんな野蛮な社会だったのかと驚きます。
私が今安心して働けるのは、闘ってきた先駆者の女性達のお陰なのだと感謝の気持ちでいっぱいです』

今も私たちはヘルジャパンに生きているけど、それでも少しずつ変わってきている。それは先輩たち一人ひとりが、それぞれの場所で闘ってくれたから。

若い女の子たちからは「学生時代は女性差別にピンとこなかったけど、社会に出て男尊女卑に殴られて、この世界は地獄だ……とアルミン顔になりました」という声が寄せられる。

私はそんな後輩たちを守る盾になりたい。女の子も男の子も翼を折られない世界にしたい。

そしてみんなで『自由の翼』を合唱したい。ドイツ語のところは「フンガフンガフーン」としか歌えないけど。

中高生にジェンダーの授業をする時に「ジェンダーギャップ指数を分野別に見ると、日本は教育は1位だけど、政治は139位で最下位レベルなんだよ。イスラムの国々、たとえばサウジアラビアよりも低いんだよ」と説明すると、みんな「知らなかった」とびっくりする。

先日、朝日新聞が男子校で行った授業を記事にしてくれた。

中学生の男の子が『アルテイシアさんの話を聞き、女性の性被害や性差別の経験を知り、衝撃を受けた。また「男はこうあるべきだ」との自分の思い込みにも気づき、世界の見え方が変わった』と話してくれて「冥土の土産にしよう……」と合掌した。

こんな嬉しい言葉をもらえたんだよ、と中学生の私に教えてあげたい。

あなたは今すごくしんどい場所にいるし、これからもしんどい思いをするけど、ふんばってね。30年後の未来は、予想もしないような場所に行けるから。

池田理代子先生はインタビューでこう話している。

『中学卒業時に恩師から贈られた、「弱者の言葉は常に正しい。かかる社会的真理を追究されたし」というメッセージも忘れられません。この言葉がなかったら、貴族であるオスカルが民衆の側につくこともなかったでしょう』

私もベルばらを読んでなかったら、人生は違っていたかもしれない。ひょっとすると、フェミニズムに興味を持たなかったかもしれない。

私の母は本を読まない人で、実家には本棚もなかった。私はいつも友達に借りた漫画や図書館で借りた本を読んでいた。

そのうち自分でも文章を書くようになり、女探偵や女怪盗が活躍する物語を書いていた。

「将来はミステリー作家になってバリバリ稼いでやる」と夢を抱いていた少女は、ミステリーは書いてないし稼いでもいないけど、一応作家にはなった。

私を育ててくれた漫画や本に感謝している。

*   *   *

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アルテイシアの熟女入門

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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