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フィンランドで暮らしてみた

2022.11.25 更新 ツイート

iittalaに支配されている国、フィンランド 芹澤桂

フィンランドの食器と言えば、あれだ。色も形も豊富で、並べるときれいで、なおかつフィンランドではお手頃なお値段でスーパーやホームセンターでも売られているiittalaやArabiaが一番メジャーだろう。

実際、よそのお宅にお邪魔するとたいがいこれらが出てくる。

我が家にも、夫が一人暮らしをしていた時代から愛用の薄水色のアールトグラスが何個もあり、陶器はティーカップ、コーヒーカップから皿までテーマ(Teema)の食器セットが揃っていた。その前に住んでいた東京のアパートにもカルティオグラスがあったから、そういう意味ではiittalaとの付き合いはなかなか長い。

(我が家の棚もiittara多め)

フィンランドはiittalaまみれ

しかし長いゆえに疲れてしまう付き合いというのもある。

特にアールトグラス。ミシュランマンのように、もしくはダウンジャケットのように数センチ置きに横にラインが入っており、落としにくい設計で重宝されているのかレストランなど出先でも見かけるし、色もたいていうちと同じ薄水色か透明かだし、なんていうかもうお腹いっぱい。あっちにiittala、こっちにiittala。

想像してみてほしい。ちょっといいレストランに食事をしに行き、そこで家で使っているのと同じ食器が出て来た場面を。

どんなにデザインが優れていたとしても、親しみがあったとしても、私は興ざめしてしまうのだ。家で食べているような気分というか。外食の時は味だけでなく盛り付けや器も楽しみたい派なのに、所帯じみて新鮮味がぐっと落ちる。

しかしそれほどにiittala製品が愛されているのには理由がある。

ここにこそっと書いてしまうと、日本で暮らしていたときはアールトグラスやテーマを指してなんでこんな武骨で物理的にも重たい商品が人気なのだろう、と不思議で仕方なかったのだけれど、実際に日常使いしてみるとやがてその良さがわかってきた。

武骨なだけあって、なかなか壊れないのである。

テーマの皿に至ってはオーブンに入れて調理しても大丈夫なほどだし、アールトグラスも夫が何年も使っているにも関わらずもっている。

しかもロングセラー製品であると買い足しもしやすい。万が一壊れたりしても同じものが手に入るというのは便利だ。実際我が家も途中でアールトグラスの深い青色を買い足した。

しかし形あるものはいつか壊れる

そんな利点があるからこそ、みんな同じものを長く使い続けているのだ。これぞフィンランド人の暮らし方に沿っているというか。古いものを大事にする暮らしにはもってこいである。

それから世界に出ていったフィンランド生まれのブランドを誇っている人も多いので、たとえホームセンターでたたき売りみたいな値段でワゴンに積まれていても、たとえ何年も前にメイドインフィンランドでなくなっていても、「やっぱりフィンランド製は安定の使いやすさだね」と言っている側面も、ある。

しかしあるとき、自宅に何個もあったアールトグラスが次々と壊れて行った。壊れにくいと書いたばかりなのに恐縮であるが、原因はおそらく途中で変更した食洗器の質が悪かったのではないかと想像している。わかりやすく割れたのではなく、日々使っていくうちにガラスの内側、触れてもわからない箇所に小さなヒビが入ることが増え、これじゃいつ割れるかわからないし使えないね、と処分していくうちにいつの間にか残り一個になってしまった。

物が壊れるのは悲しいが、これはチャンス、と思ったのも事実だ。グラスはきっと寿命をまっとうしたのだろうし、新しいものに一新するチャンスは今しかない。

とはいってもiittala製品に支配されているといっても過言ではないこの国のことである。いざ店に買いに行っても見覚えのあるものばかりか、スーパーなどのプライベートブランドと呼ぶのもはばかられる安っぽいグラスセットか、である。ちなみにランチを出すような気軽な食堂やホテルの部屋に置かれている食器は最近IKEAに支配されているのでiittalaとIKEA、その二大勢力が猛威を振るっているといってもいい。

私はへそ曲がりなのでみんなが、というか全国民が持っていそうなものはいやだ。iittalaのショップも一応見に行ったけどもうへその曲がり切った私の心を動かすグラスはどこにもなかった。あんなにきれいなのに。あんなにバリエーションが豊富なのに。一応フォローしておくと、義父から譲り受けたアンティーク製品、もっと細かく言うとiittalaになる前のNuutajärvi(ヌータヤルヴィ)時代の製品は今でも美しいと思う。歴史の重みだろうか、はたまた工場や製法の違いだろうか。同じモデルでも復刻版にはまったく食指が動かないから不思議なものである。

新しいお気に入りを探して

どうせ毎日使うなら飽きにくく、長く使えて食洗器対応のものがいい。いっそのことメイドインジャパンの切子でもそろえようかと方向転換しかけたところに、既にいいグラスを持っていることに気が付いた。

小さな工房で作られているメイドインフィンランド。底が厚く丸味のある全体が飲み口に向かってゆるやかに絞られている形は手にしっくりと来て何を入れても合う。もともとはウィスキー用にとふらっと寄ったガラス工房で2個だけ買い特別なときに使用していたけれど、毎日使うにも手に収まりやすいこれがよいと買い足すことにした。

現在そのグラスの到着を待っているところである。なお皿やカップはまだまだiittala製品に囲まれているので一新というわけでもないけれど、新しいお気に入りが増えていくのはやっぱり嬉しい。

(いつかのクリスマステーブルも、Arabia、iittaraが大活躍)

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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