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歌ときどき旅、今は育休中

2022.11.23 更新 ツイート

おっぱいの専門病院で、「魔法の手」に出会った! 歌う旅人・香川裕光

毎朝ぴーちゃんを連れて散歩に出かける。

もちろんまだ歩けないので、抱っこ紐に包んでただ僕が歩くだけ。ゆらゆらされて気持ち良いのか、すぐ寝てしまう。なんなら娘は自分が散歩していることに気づいてないかもしれない。

それでも、毎朝二人で歩く。

 

近所の神社に行って、手を洗って、口を濯いで、鈴を鳴らして、

 

二礼二拍手。

 

そのまま手を合わせ、心の中で住所と名前を唱えたら神様に願い事をする。

大成しなくていい。ただ健やかに育ちますように。

 

一礼。

散歩するときは財布を持ってないので、お賽銭がない。ちょいと無賃乗車してるような気分にもなる。PayPayでスマホ決済できないもんか。探せばそんな神社もあるみたいだ。

神様にL I N Eで願い事する時代も、そのうちくるのかもしれない。

 

ぴーちゃんは何も気付かず、父の考えてることなど、知らぬまま眠っている。

生後2ヶ月の頃の記憶なんて将来何も残らないだろう。それでも日々少しずつ、地層を作るように彼女に光が降り積もってゆく。できるだけ温かく優しい光を彼女に与えてあげたい。

乳も出ない父にできることなんて、ぶっちゃけそのくらいである。

*   *   *

おっぱい2

さて、前回のあらすじである。

どうにもこうにも、妻の詰まったおっぱいが治らない! TT兄弟作戦も失敗! ドラえも~ん!

妻がもうおっぱいの痛みに耐えられそうもないので、大事になる前に「おっぱいの病院」へ連れて行くことにした。

 

あんまりないのかもしれないけど、旦那同伴。「赤ちゃんも連れて来てください。」とのことだったし、施術中の子守りもいるだろう。正直ちょっと興味あるし、僕も同行することにしたのだった。

 

そこは実はうちの地元では有名な助産院(母乳外来)で、子育てママならば大体知っているらしい。助産師さんが一人で個人経営している、母乳専門の助産院である。

 

僕たちにとっては自宅から割と近場で助かったのだが、遠方からわざわざ通う患者さんも多いんだとか。専用のL I N Eで予約をして、家族3人で病院へ向かった。

たどり着いてみると、助産院と言っても病棟があるわけではなく、普通の住宅用のマンションの一室だった。玄関ドアには助産院の名前が書いてある小さな表札がかかっていた。

早速チャイムを鳴らすと、

 

「はーい、いらっしゃい。奥へどうぞ。」

 

看護師さんのようないでたちの女性が笑顔で迎え入れてくれた。

マッシュルームヘアなショートで、まさに“ベテラン先生”という感じだった。

優しい口調の中にも凛とした風格があり、経験の豊富さが感じられる。僕が病院に勤めていた頃に、看護師長さんと話す時はやや緊張していたなぁ~なんて頃を思い出す。

(写真:iStock.com/Pornpak Khunatorn)

まだ前の方の施術中のようで、『待合室』と書かれた一室に案内された。ここは毎日予約でいっぱいなのだが、今回は隙間に無理矢理詰め込んでもらったのだった。

 

待合室はとても清潔感があり、赤ちゃんを寝かせるためのスペースや、育児に関する本や漫画がたくさん置いてあった。妻はあいかわらず痛みで顔を歪め続けている。

 

「先生ありがとうございました! また来月きますっ!」

 

姿は見えないが、前の方の元気な声が聴こえた。若いお母さんだろうか。

 

妻の順番が来て通された診察室は、リビングに施術台を置いてあるシンプルな部屋だった。

テキパキと支度をされ、

 

「はい、じゃあ上着は脱いで。タオル持ってきた? これじゃ小さいわね。今日はうちのを使います。こちらに、横になって。」

 

テキパキと指示され、準備をする。

余計なやり取りは一切なし。1秒でも早く楽にさせてあげるためか、部屋に入って、数十秒後には、妻は裸でベッドに寝かされていた。

先生は母乳が詰まると、どんなに痛く苦しいかを良く知っているのだ。

 

ぴーちゃんがぐずり始めたので、僕は抱っこしながら様子を見る。

ぴーちゃんもなんだか心配そうに顔をしかめ、母の様子を見つめている。

 

施術中はすごく静かで、先生はあまり喋らなかった。タオルをお湯に浸しながら、おっぱいを温めマッサージをしている。時折タオルを絞る水の音だけが、部屋に響いていた。

妻は痛そうに目を瞑っている。優しくマッサージされているに見えるけど、割と痛いんだろうか。

 

『お母さん痛かったね。よく頑張りました。もう大丈夫よ。』

 

あんまり凝視してもよくないと思ってチラ見していたのだけど、先生は詰まった母乳を搾乳しはじめたみたいだ。“桶谷式マッサージ”という必殺技みたいな手技を使い、詰まったおっぱいから魔法のように母乳を絞り出していく。嘘のような話だけど、時折キラキラと噴水のように、母乳がおっぱいの上を舞っていた。

 

ものの20分ほどで施術は終了。

実を言うと、母乳外来に行って気休めになればいいな、くらいに思っていたのだけど、それは違った。

先生は完全におっぱいの詰まりを解消し、治してくれたのである。

妻はあまりの技術に感動。痛みから解放され、安堵で涙を流しながら笑っていた。

(写真:iStock.com/MariaDubova)

帰り間際に気付いたのだが、天井にやや汚れというかシミがある……。ベッドから天井までは2m近くあると思うのだけど、え、あそこまで届くことあるの……?!

父にはわからない苦しみ。世の中の母ちゃんは偉い!! おっぱいは尊いのである!

 

この時代に、なんの道具も使わず素手だけで治療してくれる先生は、おっぱいの魔術師、いや、おっぱいの神様である。

 

神様はテキパキとL I N E@の登録の仕方と、毎朝通勤時間に合わせてやっているというインスタの生配信について説明してくれた。支払いはPayPay対応。ちなみに来院するごとにQ Rコードを読み取るとポイントが貯まるらしい。こ、これは……。

 

ほんまにおったわ! LINEで願い事できる神様!!

 

何が大変かってこの原稿を前編後編に分けて書いている1週間の間に、また妻のおっぱいは詰まった。そして神様のお世話になったのである。日々の食事とメンテナンスが大切なんだとか。

 

育児は大変だ!! 妻と娘のため、おっぱいのため。

僕は今日もおっぱいの神様にお参りするのである。

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歌ときどき旅、今は育休中

旅するシンガーソングライター香川裕光、このたび父になりました。ので、育休をとって、初めての子育てに七転八倒。愛あふれる家族エッセイの連載です。

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歌う旅人・香川裕光

1986年広島県生まれ。20代前半の頃は重度障害者のための介護施設に勤め、介護の仕事の傍らで、ギターを持って歌っていた。この施設で、歌が人の心の奥に強く鋭く届くことに感動し、もっと多くの人に歌を聴いてほしいと一念発起。日本中を旅しながら、ライブを続けるように。そんなとき、TBS系列で深夜の時間帯に放映されていたオーディションバラエティ番組「Sing!Sing!Sing!」に、「他薦」されて出演したところ、審査員の高評価を得る。結果的に、最終決戦の場である「歌王」出演に至り、そこでグランプリに選ばれた。 

全国各地にて年間150本以上のライブ活動を行いつつ、広島のラジオ番組でDJもこなす。YouTube配信にて、オリジナルやカバー曲の動画を200本以上アップ。チャンネル登録者は1万人を超えている。映画『ケアニン~あなたでよかった~』の主題歌『星降る夜に』書き下ろし、世界遺産・嚴島神社高舞台での単独の奉納コンサートなども。

最新情報はこちら:公式HP
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