1. Home
  2. 生き方
  3. カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~
  4. マ・ドンソク氏の結婚から考えるガチ恋勢じ...

カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2022.11.12 更新 ツイート

マ・ドンソク氏の結婚から考えるガチ恋勢じゃないのに推しの慶事に落胆する所以について カレー沢薫

ここ最近、有名声優の他に類を見ないダイナミック不倫、アイドル事務所の退社脱退騒動、人気漫画のまるでソードマスターヤマト展開など、次元を問わずネガティブなニュースが多いような気がする。

しかし、そんなすっかりお通夜ムードな界隈をタッキーがTwitterでつぶやきどころか「プロフィール」だけで一瞬で笑顔にしてしまったのを見て、改めてアイドルの「人を元気にする力」のすごさを思い知った次第である。

だが、ファンは蚊ではない。
自分たちに元気を与えるために推しが、皮膚をかきむしりながらウナを探して部屋を徘徊したり、患部に爪で十字跡をつけている様を見て「でも俺は満腹だから良かった」とは思えないのである。

つまり基本的に「推しには健やかでいてほしい」のだ。

二次元に関してはここは若干複雑であり、原作ではハッピーエンドを迎えたキャラをなぜか生死不明にしてしまう二次創作小説を書いたり、肉体的にキャラを痛めつけるリョナ絵を描いたりする者もいる。
決してそのキャラが嫌いだからそうしているわけではなく、間違いなく「好き」なのである。

対して三次元では推しがコロナにかかったことを「エモい」と言っている人はあまりいないし、思っていても口には出せない。
二次元でも歓迎される嗜好とは言えないが「推しには常にうっすら不幸であってほしい」とつぶやくと、大半ドン引きだが、「わかる」と小さく挙手する者が必ず2,3人は現れるものだ。

またファンには、推し単体だけではなく「関係性」にも雅を感じる者が多い。

二次元の場合は、単純に仲がいいというだけでなく「ライバル関係」や「犬猿の仲」果ては「敵(かたき)」という関係さえ「うめえ」と感じられてしまう場合がある。

それに対して、3次元では「光一の母を殺したのは実は剛である」という設定が公開されて「捗る」となる KinKiファンはかなり少数派なのではないかと思われる。

私も昔、とんねるずやダウンタウンなどのお笑いコンビが好きだったが、両者の不仲説を聞いて「これは薄い本が厚くなりますぞ!」などとは思わなかったし、むしろ「残念」と感じだものだ。

つまり、推しが所属するグループには仲良くあってほしい、と思っている人の方が多いのではないかと思う。
よって、脱退や急な解散で本当は仲が悪かったのかと思うのもつらいし、自分たちファンのために仲が良いふりをしていたかと思うとまた辛い。

前にも書いたが、推しというのは日々他人の不幸を喜び幸福を妬む逆のび太にも、心から他人の幸福を喜び不幸を悲しむ健全な心があったと気づかせてくれる存在である。

しかし、ファンの心情というのはそこまで単純でもなかったりする。

推しの不幸が悲しく、幸せがうれしいとしたら、推しの結婚などはこれ以上ないほどの吉事なはずだ。
しかし、その一報を聞いた時まず「結婚したのか俺以外の奴と」の画像を探しに行っている自分がいるのだ。

相手にガチ恋をしていたなら落ち込むのは当然である。
しかし、そうではないし、むしろ自分とくっつくような推しは解釈違いの地雷であり即ブロ解ですらある。
自分ではそう思っていただけで、本当は推しのことを恋愛対象で見ていたのかもしれないが、ならば推しが離婚してガッツポーズかというと、結婚した時と同じ「残念」を感じているのである。

ちなみに最近の俺以外の奴案件はマ・ドンソクの結婚だ。

この心理は一体なんなのか、推しに対してクソデカ感情をもっている自覚はあるが「で、そのクソデカは何でできているの?」と成分表の開示を求められると「わからん……怖い……」と答えるしかないのである。

もしかしたらこれは「寂しさ」なのかもしれない、それも「推しが誰かのものになった」という寂しさではない。

二次元オタはキャラにはまると何はなくてもそのキャラのプロフィールを知りたがるものであり、推しに関する新情報が1行あるだけで3000円ぐらいする設定資料集を買ってしまったりする。
もともとオタクというのは「何かに異常に詳しい人」であり、推しについて詳しくなっていくのはオタクの喜びでもある。

しかし、どれだけ推しの私服がダサく、UFO柄のセーターを持っていることを知っていても、推しは「誰とつきあっていていつ結婚する」なんてことは教えてくれないのである。

結婚だけではなく、離婚、引退、解散など重要なことをファンに開示することは基本的にないので、どれだけ前から決まっていたことでもファンはそのニュースを突然聞くことになる。

つまり「所詮自分は推しにとって全くの他人」ということを思い知らされてしまうため、例えめでたいニュースでも一抹の寂しさを感じてしまうのかもしれない。

もちろん、それは当然なのだが簡単に割り切れることでもない。
「頭でわかっていることをどうやって心にも飲み込ませるのか」が推し活最大の難関なのかもしれない。

ちなみに私が無知だっただけで、マ氏は、以前から結婚相手との交際を公表していたらしい。
ドンソクほどの「アイドル」となれば、交際相手がいると公表することで人気が大幅にダウンしてしまう恐れがある。
だがそんなリスクをおかしても、急な結婚報道を聞いたファンたちが、源次画像を探しに夜の街に飛び出さぬようにするための配慮だったとしたら、余計好きになってしまう。

ちなみに源次というのは、俺以外の奴と結婚したのかと詰めてくるあいつの名前だ。
どうせすぐ忘れると思うが、一応お知らせしておく。

 

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

{ この記事をシェアする }

カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

バックナンバー

カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP