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月はすごい 資源・開発・移住

2022.12.02 公開 ツイート

月面での水1リットルは1億円 月で氷が採掘されると何が変わるのか 佐伯和人

アメリカ主導による有人月面着陸計画「アルテミス計画」、民間ベンチャーによる月面探査機打ち上げなど、宇宙開発の中でも特に注目度の高い「月開拓」。なぜ国や企業は「月」に注目しているのでしょうか。

最前線の月探査プロジェクトに携わる佐伯和人さんの著書『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)から、月開発で重要となる宇宙資源について、抜粋してお届けします。

月-地球 間の輸送コストは1キロ1億円

富士山の山頂では水1リットルはおおよそ1000円で売られているそうだ。これは運び賃が入っているからである。では、月で水1リットルを買ったらいくらになるだろうか。答えは1億円である。地球から月に物資を送るのに1キログラムあたり1億円かかるのだ。

(写真:iStock.com/Davidagall)

宇宙で資源を採掘するという話をすると、「月に金塊でもころがっているのでしょうか」と質問される。月に金塊はないが、もしあっても持って帰る意味はあまりない。なぜなら、月に1キログラムの物資を運ぶのに、1億円もかかるからだ。持ち帰るコストも同程度と考えてよいであろう。

現在の金1グラムの価格は約5000円である(編集部注:執筆当時の相場で、現在は1グラム当たり8000円を超えています)。つまり1キログラムの金塊も500万円でしかない。月に金塊があっても、500万円分を地球に持ち帰るのに1億円もコストがかかるとしたら、誰も持って帰りたいとは思わないだろう。

一方で地球から月に持っていかなくてはならない物質、例えば水が月で見つかったらどうだろう。その水の価値は1キログラム、= 1リットル、で1億円ということになる。月の資源は、地球に持って帰って使うというよりも、現地で必要なものを現地で調達するという意味が大きい。

 

ここで、その土地にある資源の量について使う言葉「埋蔵量」の定義を確認しておきたい。言葉のニュアンスは使われる業界によって多少異なることがあるが、「資源量」とか「原始埋蔵量」という場合は、そこに存在している資源物質の量そのものをさす。一方で単に「埋蔵量」とか「可採埋蔵量」という場合は、商業的に採掘できる量を言う。

宇宙の資源について、その活用を考えるときは、もちろん、商業的に採掘できる量が重要である。そして月の場合は、1キログラムあたり1億円よりも少ないコストで採掘できれば、それは商業的に採掘できるということになるわけだ。

 

この後の章で、岩石から酸素を取り出す話をするが、地球の場合、大気中に酸素が存在しているので、岩石から酸素を取り出そうとする人はいない。しかし、酸素を地球から1キログラム運ぶよりも安いコスト、すなわち1億円より少ないコストで岩石から1キログラムの酸素を取り出せるとしたら、それは立派な活用可能な資源となることがおわかりだろう。宇宙時代には、地球とは異なる感覚であらゆる資源を見直す必要がある。

水はロケットの燃料として利用できる 月から火星に直接出発も可能に

水が月に大量にあったとしたら、何に使えるだろうか。最も期待されている使い方は、ロケットの燃料である。

水は酸素原子と水素原子でできており、電気分解すると、水素ガス酸素ガスができる。これらを低温で液化したものは、日本が誇る大型ロケットH - II Aの燃料と酸化剤そのものである。月に大量の氷があった場合は、それを採掘し、太陽電池パネルでつくり出した電気を使って電気分解することで、月面でロケットの燃料と酸化剤を手に入れることができるわけだ。

(写真:iStock.com/3DSculptor)

ロケットの重量のほとんどを占めるのは燃料である。地球から月にロケットを打ち上げるときに、現在は帰りの燃料を運ぶために往路の燃料もさらに大量に必要となっている。月面で燃料を調達できれば、帰りの燃料を打ち上げる必要はなくなるし、月から火星や小惑星に直接出発する道も開ける。地球の強い重力や大気の抵抗を振り切って打ち上げるよりも、重力が小さく大気のない月から打ち上げる方が、燃料の節約になる。

JAXAの試算によると、月に十分な量の氷があった場合、月に氷採掘プラントや燃料製造プラントをつくるコストを費やしたとしても、5回程度月―地球間を往復すれば元が取れるということである。

 

もちろん、水は、飲み水としても使えるし、呼吸する酸素の原料としても利用可能である。また。月で農業をするためには必須である。これらは、基本的には人間の排出物や呼気からリサイクル可能な資源なので、最初に人口に見合う量を確保しておけば、その後に大量に補給する必要はなくなる。氷の量によって利用の可否が大きく変わるのは、やはりロケットの燃料としての利用だ。

*   *   *

この続きは中公新書『月はすごい 資源・開発・移住』をご覧ください。

佐伯和人『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)

一番身近な天体、月。約38万km上空を回る地球唯一の衛星だ。アポロ計画から約半世紀を経て、中国やインド、民間ベンチャーも参入し、開発競争が過熱している。本書では、大きさや成り立ちといった基礎、探査で新たに確認された地下空間などの新発見を解説。人類は月に住めるか、水や鉱物資源は採掘できるか、エネルギーや食糧をどう確保するかなども詳述する。最前線の月探査プロジェクトに携わる著者が月面へと誘う。

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月はすごい 資源・開発・移住

アメリカ主導による有人月面着陸計画「アルテミス計画」、民間ベンチャーによる月面探査機打ち上げなど、宇宙開発の中でも特に注目度の高い「月開拓」。なぜ国や企業は「月」に注目しているのでしょうか。

最前線の月探査プロジェクトに携わる佐伯和人さんの著書『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)は月の基礎知識から月がもたらすであろう資源やエネルギー、そして宇宙開発の未来まで解説した一冊。

月の大きな可能性が垣間見えるこの本から、一部を抜粋してお届けします。

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佐伯和人 博士(理学)

1967年(昭和42)愛媛県生まれ。東京大学大学院理学系研究科鉱物学教室で博士取得。専門は惑星地質学、鉱物学、火山学。ブレイズ・パスカル大学(フランス)、秋田大学を経て、現在、大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻准教授。JAXA月探査「かぐや」プロジェクトの地形地質カメラグループ共同研究員。月探査SELENE-2計画着陸地点検討会の主査を務め、月着陸計画SLIMにかかわるなど、複数の将来月探査プロジェクトの立案に参加している。

著書『世界はなぜ月をめざすのか』(講談社ブルーバクス、2014年)『月はぼくらの宇宙港』(新日本出版社、2016年)ほか

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