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ライムスター宇多丸のお悩み相談室

2022.10.21 更新 ツイート

私は在日韓国人です。ヘイトが怖く日本から出ていきたいと思うようになりました。こんな風に感じるのはおかしいでしょうか。 宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)

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私は在日韓国人。日本でのヘイトが怖いと感じ、日本から出ていく選択をしようと考えるのはおかしい?(2019年11月23日)

私は在日韓国人で、数年前から韓国人/朝鮮人に対するヘイトを少しずつ怖いなと感じるようになりました。高校まで私立に通っていたこともあり、ダブルの同級生などもいて差別を感じたことはなく恵まれた環境だったのですが、その後はちょこちょこ差別的な発言などに遭遇するようになりました。

外国人だからということで就職を断られたこともあります。就職してからは、同僚が飲み会で「チョン」と発言したり、私と私の親は税金を払っているのかを確認されたこともありました。

最近は、嫌韓本がひっそりとではなく堂々と売られていたり、ヘイトスピーチを行っている団体が警察に囲まれながらデモをしていたり……。政治家やコメンテーターが韓国人/朝鮮人を見下した差別的な発言をしても、誰も咎めない様子が堂々とテレビで放送されているのもとても怖いです。

社会全体で韓国人/朝鮮人に対する言葉の暴力が認められてきていると、正直、怯えています。生まれ育った日本で、家族も友人も私の今までが日本に根付いていますが、いつ日本に住めなくなる状況になるかもわからないと感じ、少しできる英語を使って海外で仕事をして移住先を見つけようと思っています。

いろいろとつらい思いをして今の権利や生活を築いてくれた在日韓国人/朝鮮人コミュニティ全体や祖父母を裏切ってるような気持ちになったり、つらい気持ちからひとり逃げているような気もして悩みます。私自身が親戚以外の在日の友人がいないので、日本人の友達に相談してもピンとこないようで重くなるだけで話しにくいことだったりします。

精神的に余裕がなくて、被害妄想で自分を追いつめていて、メンタルがヤバイのかな~とか思ったりもします。こんなふうに今の日本を感じて日本から出ていくことを選択する自分っておかしいでしょうか?(アリサ・31歳・神奈川県)

宇多丸   まず、言うまでもなく……。おかしいのはアリサさんじゃなくて、あなたにこうまで言わせてしまった日本社会であり、日本人たる我々のほうですよ。ただただ申し訳ないし、情けない。直接的にヘイトなムードが高まるのに関与していなくても、傍観者気分でそれを見過ごしてしまっている、世に蔓延するのを結果として許してしまっているというのは、ほとんど同罪なんだと、今回の相談を読んで改めて思いました。

こばなみ  放置しているだけで同罪って本当にそう。申し訳ないです……。

宇多丸   だから今回は、アリサさんにどうこうしろっていうんじゃなくて、むしろ読者のみなさんに向けて……。もちろん自分も含めてなんですけど、日本人として、こういう恥ずかしい状態を放置しておいてはいけないよね、と改めて問い直す意味で、取り上げさせていただきました。

もちろんね、積極的に差別的な言動を撒きちらしてるような連中なんて、ネットや報道で目立って見えるだけで、全体から見ればごくごく少数で、大半の日本人はそこに嫌悪感を抱く程度にはまともなはずだろうとも思うんです。思いたい。

でも同時に、アリサさんが恐怖を感じる程度にまでそういう声が堂々と鳴り響くような世の中になってしまいつつある、というのは残念ながら事実だし、マスコミ、とくに地上波テレビは、それを厳しく戒めるどころか、隣国の政府や国民に対する悪感情をさらに煽るような物言いを嬉々として発信し続けてもいる。

で、実際、両国の関係はどんどん悪くなる一方……。少なくとも国家レベルではね。そんななか、アリサさんがこの国で生きてゆくことに不安や絶望を感じて、それ以外の道を模索しようか、というところまで追いつめられた気分になってしまうのも無理からぬ話で……。

なぜかというと、たとえば我々には、最悪の「前科」があるからですよ。前にもご紹介した『九月、東京の路上で』という、僕がことあるごとに推薦している、本当に全国民必読だと考えている凄まじい名著があるんですが……。ここからわかるのは、さっき言ったような、普段であれば差別的言動にもしっかり嫌悪感を抱くであろう良識ある人たち、要は我々のようなフツーの人々でさえ、知らず知らずのうちに世の中の空気に飲み込まれ、「義憤に駆られて」集団的暴力に加わりかねないのだということ。

もし仮に、再び日本で大きな災害が起きたとき、同じようなことが繰り返されたら……、間違いなくこの国は、二度と世界から相手にされなくなるでしょうけど。真におそろしいのは、それが決して起こりえないとも言いきれない現実ですよ。過去の失敗から何も学べない集団にはろくな未来もないでしょうよ。そんな世の中、そんな日本は嫌だ! と思うならば、せめて自分のできる範囲のことをしてゆかないと。

たとえば、もし同僚が飲み会で「チョン」と発言するような局面に居合わせたなら、勇気はいるだろうけど、まともな人たちはその場でしっかり怒ってたしなめるべきだし。アリサさんのような当事者が同席しているなら、なおさら人として許しちゃダメな話でしょう。

こばなみ  今の世の中で同僚がこんなこと言うなんて驚きですよね。

宇多丸   就職差別の件だって、いまどき信じられない! って感じだけど、まだまだ現実にはあるんだろうねぇ……。とはいえ近年はさ、SNSの影響力もあって、そういう発言がオモテに出れば、それなりに問題になるようにはなってきていると思うんですよ。まだまだ少しずつかもしれないけど。

#MeTooムーブメント以降、これまでは泣き寝入りしたり、一方的に我慢するしかなかったような、いわば社会的に容認されてしまっていた不正や非道をこれ以上見過ごすのはやめましょうよ、という方向で、いろんなところから声が上がるようになったわけじゃない? いやもちろん、その点でも日本はまだまだなんだろうけど……。

それでも前よりはずっと、いろんな問題が少しずつでも顕在化しつつはあって、それは間違いなく、世の中の進歩だと思うんですよ。逆に言うと、心ある人たちが実は相当数いても、黙ったままだったらやっぱり、どれだけ間違ったことを言ってようと、デカいほうの声だけが世に鳴り響くことになる。せめてアリサさんが「あんなのはごくごく限られた連中に過ぎないんだから、大丈夫」と思える程度には、大半のまともな日本人もしっかり意見を表明し続けてゆかないと。少なくともこの国のなかでは僕らは多数派であり、強者なんだから。そのぶんの責任がありますよ。

こばなみ  そういえば、私の後輩が在日一世のおばあさんたちの写真を撮ってるんですけど、彼女たちがヘイトスピーチに対して「やめて、こわい」というような文を一生懸命書いていました。最近になって勉強して書けるようになった日本語の文章がそれだというのにも、胸が痛みました。

宇多丸   まず、在日韓国人/朝鮮人の歴史的背景などについて、僕ら一般的日本人が知らなすぎ、学んでこなさすぎ、って問題もあるよね。なにも、堅い本を読まなきゃならないような話じゃなくて、そういうのをわかりやすく語ってくれてるエンターテインメント作品とかだって、いろいろあったりするんだからさ。

たとえば『焼肉ドラゴン』とか、映画版には大泉洋さん、真木よう子さん、井上真央さんなどそうそうたるメンツも出演してるし、基本コメディタッチのホームドラマで敷居も低いので手始めにいいんじゃないですかね。もちろん『パッチギ!』という大傑作もありますし。

こばなみ『焼肉ドラゴン』は観ました。知らないことがたくさんあって、そんな自分が恥ずかしくなる部分もありました。

宇多丸   もっとも、その『焼肉ドラゴン』でも描かれているとおり、在日韓国人/朝鮮人に対する差別自体はそれこそ戦前からずーっとあったものだし、なんなら今よりずっと深く、日本の社会に浸透してたかもしれないくらいですよね。今はむしろ、そこが一応は現代的良識に照らしあわせて問題視されるようになったからこそ悪例が目立つ、というのもあるだろうし。

ぶっちゃけ、日本という国がかつての勢いを失うにつれ、それをシンプルに誰かのせいにしたくて仕方ない層が増えた、というのが大きいと思うんですよね。どこの国もだいたいそうだけど、差別する側こそが被害者意識にとらわれていたりもするんで。

一方で、とくに若い世代は、K-POPの影響もあって、韓国の人や文化を普通にイケてるものとして受けとって、ファッションから何からガンガン影響を受けまくってたりするわけじゃない? 僕も、韓国映画の水準の高さには毎度毎度、感服させられているわけだし。

そんな感じで、民間レベル、草の根レベルでは、差別意識どころか悪感情も別にない。なんなら日本より全然カッコいいと思ってる、というような人たちがどんどん増えているのも事実でしょう。

ま、自分の現状に不満を溜め込んだおじさんとかは、まさにそここそがイラつきのタネだったりもするんでしょうが……。端的に、だせえ! 

言うまでもなく、先の戦争が残した禍根は明らかにまだまだ完全清算にはほど遠い状態だし、しょせん国家は国家ですから、お互いダメなところなんてのはいくらでも出てくるわけですけど。国民同士は別にそこと律儀にシンクロする必要なんかなくて。文化交流やビジネスを通じて理解を深め合って、関係を築いてゆければいいのにな、と思います。まさに今みたいに、国同士のしょーもないチキンレースに巻き込むのとか、マジ勘弁してほしいの一言でしょ。

こばなみ  今回の相談を読んだ方はまわりにも伝えてほしいですね。

宇多丸   アリサさんの訴えに対して、恥ずかしいし情けないし申し訳ない、できる範囲で何かしてゆかなきゃ、と思ってくれる方が大半であることを祈りますよ。

このまま我々がいろんな差別や不正義を放置し続けたら、そのしっぺ返しは間違いなく僕ら自身に返ってくるはずだろうとも思います。それも意外と遠からず。同僚が「チョン」と発言したという件にしてもさ、世の中の意識もどんどん進んでるんだから、ひょっとしたらいずれは、放言した当人はもちろんだけど、レイシズムを文字どおり黙認した同席者たちまでを含めて社会的に糾弾されて当然、という時代だって普通に来るかもしれない。セクハラとかが、少なくともかつてのようには野放しではいられなくなってきたようにね。

国レベルでいっても……、たとえばこのあいだ、難民映画祭改めWILL2LIVE映画祭で、『ミッドナイト・トラベラー』という、アフガニスタンからの難民として国から国へと移動していく映画監督の家族のドキュメンタリーを観たんだけど、途中、ブルガリアで、そこそこ大規模なヘイトデモの圧力を受けるくだりがあるんですよ。

もちろん、どこの国も政策上、難民を無条件で歓迎してるわけじゃないんだけど……、ブルガリアの排他主義者たちが見せる露骨な攻撃性は、本作のなかでもすごく強烈なインパクトを残していて。正直、ブルガリアという国に対していい印象は持てなくなっちゃいますよね。たぶん本人たちとしては「愛国的」行動のつもりだったりするんだろうけど……。やってることといえば、女性や子どもに寄ってたかって罵声や脅迫を浴びせかけたり、なわけですから。

こばなみ  ブルガリアに対する特別な感情はなかったけど、それ聞くと、最悪って思っちゃいますね。でもそんなふうに日本も……!?

宇多丸   そうそう。そういうの、日本でも全然見たことある光景だったりするわけじゃないですか。とても恥ずかしいことだけども。難民や移民に優しい国とも言い難いですしね。まったく人のこと言えませんよ。そして、おそらくだけど、ブルガリアのほとんどの人たちも、問題の場面を観たら、「そんなのはごく一部の連中なんですよ!」って言いたくなるんじゃないかと思うんですよね。そこもきっと僕らと同じ。

だからやっぱり、そういう良からぬ声のほうが堂々と鳴り響くような状況を、我々も許してちゃいけないんですよ。沈黙は同意とみなされる、というやつですよ。

ということで、いつかまたアリサさんたちが生まれ育ってよかったと心から思えるような国になれるよう、できることからやってゆきましょうよ。目の前の差別的言動を許さない、流さない、というのはもちろんだし、その手の発言を公の場で垂れ流した政治家なんかが改めて当選などしないようにしっかり参政権も駆使していかなきゃいけない。性差別などと同様に、ね。

そして最後に改めて、アリサさん、本当にごめんなさいね。

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この続きはライムスター・宇多丸さんの人生相談本『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』をご覧ください。

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宇多丸 ラッパー、ラジオパーソナリティ

1969年東京都生まれ。早稲田大学在学中にMummy-Dと出会いヒップホップ・グループ「RHYMESTER(ライムスター)」を結成。ジャパニーズ・ヒップホップシーンを開拓/牽引し、結成30年をこえた現在も、アーティストとして驚異的な活躍を続けている。2007年にはTBSラジオで『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がスタート。09年に「ギャラクシー賞」ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞するなど、ラジオパーソナリティとしても活躍。同番組内の映画批評コーナーなどが人気を博す。18年4月からは、同局で月~金曜日18~21時の生放送ワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティをつとめている。著書に『ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門』『森田芳光全映画』『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』などがある。

小林奈巳(女子部JAPAN)

愛称・こばなみ。株式会社都恋堂・代表取締役。出版物や広告コンテンツの編集業務を経て、2010年に「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ・メディア「女子部JAPAN」として、全国2万3千人の30~40代女性を対象に、ココロとカラダを元気にするためのコンテンツ&イベントを企画・実施中。仕事は好きだが、PCのデスクトップと部屋がどうしても片付けられないのが長年の悩み。

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