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うかうか手帖

2022.11.09 更新 ツイート

深夜のディズニー・シー 益田ミリ

ホテルミラコスタに宿泊し、来場者がいなくなった深夜のディズニー・シーを眺めてみたい。

 

と前々から思っていたことを思い出し、夕方、カフェのテラス席でアイスコーヒーを飲みつつ、コロナ感染者数も落ち着いていることだし、よし、今、予約してみようとディズニー公式サイトにひとっ飛びしたのは6月初旬。

ホテルミラコスタというのはディズニー・シー内にあるホテルで、調べたところ客室の位置が3つに分けられていた。

ポルト・パラディーゾ・サイド

ベネチアサイド

トスカーナサイド

説明図を観るかぎり園内の山(プロメテウス火山)や港(メディテレーニアンハーバー)ががっつり見られるのはポルト・パラディーゾ・サイドのハーバービューの部屋のようだ。わたしはここの景色を部屋から見たかったので早速空き室検索。一ヶ月後の空室を発見。指示に従い予約に進んでいくとあれこれアトラクションが選べる項目に出た。ディズニーの仕組みがまったくわからないわたしは、むろん迷うことなく選択していった。

後で知ったが、わたしは「東京ディズニーリゾート・バケーションパッケージ」というプランに申し込んだようで、お会計ボタンに進んだとき金額を見てギョッとしたが、このページにくるまでにすでに20分くらいかかっていたのでエイヤっと決済。よくよくHPを見ればディズニーランドの公式ホテルを予約すれば入園券は確実に買えるので、わたしの場合、単に「ホテルの部屋のみ」のところをクリックすればよかったのだった。

出発4~5日前にチケットや資料一式が宅配便で自宅に届いた。

バケーションパッケージについてくわしく説明すると、並ばないで乗れるアトラクションチケットが3つついてくる。それからふたつのショーの鑑賞チケットとフリードリンク券、オリジナルグッズ引換券。あとポップコーンももらえる。

「え? アトラクションチケット3つ?」

この原稿を書いている今、自分で3つ選んだアトラクションの中の「マジックランプシアター」のチケットを使い忘れていたことに気づいた。無念である……。

予約時にわたしが選んだアトラクションは、この「マジックランプシアター」の他に「インディ・ジョーンズ」と「ソアリン・ファンタスティック・フライト」。

あまり激しくなさそうなのをチョイスしたのだが「ソアリン・ファンタスティック・フライト」についての知識はまったくなく、

「ファンタスティックって名前からして怖くはなさそうやな」

と選んだだけ。しかし、ふたを開けてみればこれが今一番人気のアトラクションで土日ともなれば2時間、3時間並ぶこともあるらしかった。

 

さて7月初旬、ディズニー・シー当日。

入園したのが午後2時過ぎ(この時点でチケットを持っていた12時のショーを見逃している)。

まずはフリードリンクの手続きである。今回のプランでは園内のドリンクが無料で飲めるのだとか。首から下げるチケットホルダーを受け取り、そこにフリードリンクチケットを入れてもらった。これを指定された飲食店で提示するとドリンク飲み放題なのだそう。試しに目についた近くのカフェに入りコーヒータピオカラテを注文したらタダだった。

今年20周年を迎えたディズニー・シー。記念グッズのお土産が並んでいた。そういえばディズニー・シーが開業する前にたまたまプレチケットのようなものをもらい、

「ディズニー・シーってなんだろな~」

軽い気持ちで行ったのだ。園内は招待客だけだからがらがらで、すべてのアトラクションの待ち時間はほぼゼロ。それがどんなに恵まれた状況なのかを当時のわたしは理解しておらず、2つ3つ何かに乗ったような気がするが、カフェでお茶したり、ぶらぶら散歩したりして過ごした。とはいえ、とんでもなく楽しいところだ! と思い、特に海底2万マイルがあるエリアは子供の頃に憧れていた「未来」の景色そのもの。よくこれだけのものをデザインし、形にしたものだと大いに感心し、その後、何度か遊びに行ったものの、最後に訪れてから今回15年ぶりくらいになるだろうか。

以前あったアトラクション「ストームライダー」が「ニモ&フレンズ・シーライダー」に変わっていた。「ストームライダー」は飛行機が嵐に巻き込まれるという設定の映像ショーで、空飛ぶ気分が味わえるので結構好きだったやつである。

しかし、今回はそれの上をいく新しいアトラクションが用意されていた。わたしが予備知識なく適当に予約した「ソアリン・ファンタスティック・フライト」である。こちらも映像を観ながら空飛ぶ気分を味わえるフライトシュミレーション型アトラクションなのだが、いや、もう、臨場感がすごい。ハングライダーに乗って世界に旅に出るという設定で、アルプスの山、砂漠、万里の長城の上空を本物のハングライダーに乗って(乗ったことないけど)自由自在に舞っている感じ。3Dメガネはつけないのに映像には奥行きがあり、嘘だとわかっているのに観客たちは南極のシロクマに手を振ったり、前方から飛んでくる鳥をよけたり。でもって終わった後は大きな拍手。長いコロナ禍、こんなふうにみなで喜びあうのは久しぶりだった。

フリードリンク券で無料の飲み物をゲットしつつ、園内を散策。マップがほしくて探していたが、紙のマップはもう存在しないらしい。

船にも乗ってみた。メディテレーニアンハーバーから乗船し、橋をくぐってアメリカンウォーターフロントを通り「インディ・ジョーンズ」があるロストリバーデルタまで。

船はのんびり進んでいった。途中、岸からこちらに手を振る人々がいて、もちろん振り返えす。

本物ではない海、本物ではない岸辺。

外の世界で起こっているさまざまな問題はこの場所とは無縁で、あまりの平和さに泣けてきた。

平日のせいか「インディ・ジョーンズ」の待ち時間は5分と表示されていた。

バケーションパッケージのチケット、使わなくてもよくないか?

と思いつつ入り口のキャストに、

「使う必要ないとは思うんですけど……」

遠慮気味に予約チケットを提示すると、

「ほんの少し早く乗れると思いますんで、ぜひ使ってください!」

明るく励まされ、特別な入り口に案内された。確かに2分くらいは早く乗れた気がする。

夜9時。閉園時間。いよいよ念願のホテルミラコスタへ。

部屋に入る。窓の外にはメディテレーニアンハーバーとプロメテウス火山が見渡せた。遠くには本物の海も見え、わたしが観てみたい景色が揃った部屋だったのでホッとする。

地上を見下ろすと、遊び終えた人々がぞくぞくと出口にむかっていた。スマホのライトを空に向けてまわしている人たちがいた。それに呼応してミラコスタの宿泊者たちがスマホのライトで手を振り返す、というのもお楽しみのひとつのようで、わたしも部屋の電気を消してやってみた。光を振り合って喜び合うひととき。平和な光景にここでもまた目頭が熱くなる。

夕飯はルームサービスでパスタとビール。

そして、訪れた静かな深夜。

客が引いた園内。時折、白いバンがゆっくりと通り過ぎ、自転車に乗る警備員らしき人の姿があった。港も橋も建物も火山も全部が作り物なのに、人がいないというだけで不思議と本物のように見え、まるで遠い国に旅をしてきたよう。

しばらくするとマッピングのテストがはじまり、建物にいろんな映像が映し出された。色合い的にハロウィン用ぽかった。ずいぶん長い時間やっていた。夜通しだったのかもしれない。

一夜明け、朝は8時過ぎ頃から入園がはじまっており、窓外に静かな夜の世界はもうなかった。帰宅の準備をしつつ、入園直後の希望に満ちた人々を窓から見るのはよいものだった。ほどなくして日本にコロナ第七波がやってくるのであるが、むろん、ここにいる誰もがそのことを知らずにいた。

ディズニー・シー。

いつかまた真夜中のプロメテウス火山を見に行きたい。

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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。

イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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