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ライムスター宇多丸のお悩み相談室

2022.09.30 公開 ツイート

会話が絶望的にヘタです。どうしたら相手の話や経験に興味を持ち、話を膨らませることができるでしょうか? 宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)

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会話が絶望的にヘタです。どうしたら相手の話や経験に興味を持ち、話をリードして膨らませることができるのでしょうか?(2019年1月12日)

私は会話が絶望的にヘタです。聞き役にも話し役にもなれず、職場でちょっとした世間話を振られても話を膨らませることができません。そのため、大抵、私の一発目の返事か相槌で、会話が途絶えます。

なぜ簡単な会話すら成立させられないのか。自分なりに考えた結果、他人がしていることに興味がないから、という結論が出ました。友達もいるし、恋人がいたこともあります。だから人そのものは好きになれるんです。しかし、彼らと楽しい経験を共有していても、いまいち盛り上がらないということが多々ありました。

たとえば、彼と一緒に観ていた映画の感想が一致しても、映画が面白かったことはうれしいけど、彼もその映画を面白いと思ったことはどうでもいいと感じてしまいます。または、知り合いに飼い犬の写真を見せてかわいいとホメられたとき、頑張ってうれしそうにお礼を言ってみますが、内心はそこまでうれしくないです。

みんな楽しい話をするつもりで話しかけてくれたのに、いつも私の微妙な反応のせいで、「映画、面白かったね!」「かわいいわんちゃんですね!」とテンションが上がりきったところから、一瞬で会話のトーンが盛り下がっていくという展開になり、親しくしていた人ともだんだん疎遠になってしまいます。せっかく相手が私と一緒にいて盛り上がってくれているのだから、その良い雰囲気を壊しては申し訳ないという変な気遣いをしてしまい、それが裏目に出てしまっていることもあります。

今回お二人にお聞きしたいのは、どうしたら相手の話や経験に興味を持てるのか、そして話をリードして膨らませることができるのか、です。とくに宇多丸さんは、ラジオで毎回やってくる異なるゲストの異なる話題に、知識ゼロの立場からその方のお話に興味を持ち、積極的に質問しつつ会話をリードされているので、本当にすごいと思います。努力や経験値の賜物なのかとも思いましたが、宇多丸さんはすごすぎて才能のなせる業なのかとも思います。ぜひお二人のお力添えをお願い致します。(犬のやわ肌・28歳・東京都)

 

宇多丸   まず、僕のことから言っておくと、ホメていただいてすごくうれしいんだけど、あれはやっぱり番組だからさ。ぶっちゃけスタッフのサポートもちゃんとある状態だったりしますからね。事前のブリーフィングもできる限りしっかりやってるし、リアルタイムでこっそり「次、こういうこと聞けば」的なサジェッションを受けることもあるし……。カーレースが、レーサーだけじゃなくてチーム全体で戦ってるのにも似た感じで。だから、自分ひとりで何の足がかりもなくやってるわけではないというのはひとつある。

そのうえで僕自身はどういう心持ちでいろんなゲストのお話を聞いているのか、改めて自問してみると……。やっぱり取っかかりは、もともと自分が興味あるものや経験してきたことなんじゃないかな、と思いますけどね。自分の知見と照らしあわせて、まずはその話題と相似形を描く部分があるかどうかを探ってみる。

僕だったらやはりラップ、ヒップホップ、あるいは映画でいえばこういうことですよね、みたいなところ。そんなふうに自分の得意なジャンルやよく知っていることにいったん置き換えてみる。「それは僕がやってきたコレと似ている気がします」とか「こっちの世界でいうとコレが近いんじゃないか」とか。そうやって、あくまで自分を起点に、相手のやってることに投影できるところがあるかどうかを探してみる……。

まぁ同じ人間のやることだし、そこまでま~ったく理解不能なんてことも、そうそうないもんだろうし。もし仮に、それでも全然、共通点を見つけられなかったとしても、そこまでいけば逆に好奇心が湧く、ってことでもあるしさ。「えっ、じゃあなんなの!?」って。で、そんなこんなをいくつか重ねていくうちに、最初はまるっきり知らねぇし興味ねぇと思ってたことも、意外と面白かったりするもんだな、というのがわかってくるから。そうなると今度は、他の一見、とっつきづらそうなものでも、「あそこにもきっと、こっちのツボにハマる何かがあるに違いない!」と思えてくるという。

そんなわけでね、フラットに「人が好き」だから人の話を聞くのも大好き! みたいなタイプとかではないんですよ、僕だって。むしろ、興味があるものとないものの境い目は、かなりハッキリしているほうだと思う。

犬のやわ肌さんは現在28歳とのことですが、その年頃なんかもう、はっきり自分にしか興味なかったよ(笑)。たぶん、僕はまだ余裕がなかったんだよな、てめぇのことで精いっぱいで。そこからさらに、もうちょっと自分に自信がついてくると、他人にも目を向ける余地が生まれてくる、ってことかもしれませんよ。

こばなみ  なるほど~!

宇多丸   あとさ、番組をやってる立場として、何かしら質問をしなきゃいけないわけですよ。そんなふうに、「何か質問する」というタスクをひとつ課しておくと、自動的に会話になるんじゃないですか? その前にまず、相手に対する理解をちょっとは深めなきゃならなくなるし。

こばなみ  彼とかに、その映画のなかで「どこが面白いと思った?」とか聞きたくないのかな?

宇多丸   そこで他の人と感覚を共有したり、すり合わせることに意義や喜びを感じないってことだよね、今のところは。ま、無理してまで、したくもない会話なんかしなくていいじゃん、とは普通に思いますけど……。

犬のやわ肌さんが僕とけっこう違うなと思うのは、「自分の意見を人に伝えたい欲」「わかってほしい欲」みたいなのがわりと希薄っぽいところですね。僕の場合はやっぱり、まずは「自分の考えや感じたことを言語化して、人に伝えて、受け入れさせたい!」という欲求が根本に強くありますから。当然そこには、他者の考えとか感覚との齟齬や軋轢、ぶつかり合いが生まれるわけだけど……。

だからこそ、それらといったんはしっかり向き合う必要が出てくる。「お前の言ってることは間違ってて、こっちが正しいんだ!」と主張するためには、まずその「お前の言ってること」に耳を傾け、じゅうぶんに理解しなきゃならないっていう……。最悪な動機ですね(笑)。

とはいえね、そうやって、やいのやいのやってるうちに、どちらかの一方的な正しさとかよりも、「これって要するに、お互い同じことを違う側面から話してるだけだよね」とか、「こっから先はただの好みの問題だよね」とか、そんな感じのことが大抵浮かび上がってくる。とにかくそうやって、「議題の因数分解」が進んでいくと、今までになかった新たな視点がインストールされて、自分もまたひとつアップデートされてゆくわけですよ。

つまり、自分とは違う他の人の意見をいったん受け入れてみるってことは、決して自己を否定するとか譲り渡すとかってことではない。むしろ、こっちのレベル上げのためにも必要不可欠なプロセスなんですよね。一方で、ハタ目には相手の話をちゃんと聞いてるように見えてても、結局のところは自分の話がしたいだけ、みたいな人も意外と多い。というか、実はほとんどの人がそんなもんなんじゃないのって気すらしますけど。飲み屋で隣の会話を盗み聞きしてりゃわかりますよ(笑)。どいつもこいつも、本質的には自分の話ばっかりしてるよ! もちろん僕も例外ではなくね。

こばなみ  そう考えてみると、私も結局、話の流れから自分の話に持ってっていたりしますね(笑)。

宇多丸   その意味で、犬のやわ肌さんの他人の思考に対する興味の薄さは、裏を返せば、自己顕示欲の薄さというか、自分に対する執着もまた薄め、というのがベースにあるんじゃないか……的な仮説を立てることはできそうですよね。

たださ、犬のやわ肌さんは、そもそも人と話しててもあんまり楽しくないんだよね? 人の話も聞きたくないし、自分の話も別にしたくない。じゃあ、したくないことはしなくていいじゃん、って考え方じゃダメなんですかね? 別に会話が弾まなくたって死なないですよ。犬のやわ肌さんが、それで孤立しちゃってるわけでも今のところないみたいだし。少なくとも、そこを人としての欠落みたいには思わなくていいですよ。多少の孤独感はあるんだと思いますけど……、知っておいてほしいのは、誰だって人の話とかにはそんなに興味はないということ。基本、みんなそんなもんだから!

「人が好き、だから人と話すのも大好き! ついでに旅も好きで、世界のどこでも誰とでもすぐ仲良くなっちゃう!」みたいな人なんてね、現実にはそうそういるわけないんだから! もし、いたとすれば、その人は間違いなく、相当「我」も強い方なはずですよ。だからこそ、平然とフラットに他者と接することができる(ように見える)。

まぁそんなこんなで……コミュニケーションへの欲求が比較的低いなんてのは、要は「性欲がそんなに強くない」とかそんな程度のもんで。

そのたとえでいえば、じゃあいろんな相手と「平然とフラットに」ヤりまくってる人のほうが偉いのかとか、そういう問題じゃないわけじゃない?

あとはさ、可能性としていうなら、犬のやわ肌さんのまわりに現状いる人たちの話ってのがさ、ホントにマジで心底つまんないだけ! ってことも考えられるでしょ。てか、そもそもみんな、普段からそんな「面白い」会話なんてしてないし、しなきゃいけないもんでもないし。「宇多丸さんは……」って言ってくれてますけど、あれは仕事だから!(笑) 僕はプライベートではほとんどしゃべらないし、情報インプットするのも疲れちゃって、基本、心を閉ざして生きていますよ(笑)。

こばなみ  確かに、みんながみんな、面白い会話をしているわけじゃないっていうのは、そうですね。

宇多丸   それに、その場にいるみんながゲラゲラ笑ってるのに、僕だけ笑ってない、みたいなこともよくありますよ。そんなことでよくそこまで笑えんなー、とか内心思ってたりします(笑)。なので、無理して「盛り上がった会話のフリ」なんかしなくていいんじゃない? とは思う。「人そのものは好きになれる」って言うんだし……。

ただ、ちょっと思ったんだけど、誰かを好きになるって、突きつめると「その人の見ている世界を共有したい」ってことだったりしない?「こういうふうに世界を見てる人って本当に素敵だな」みたいな……。だから、その人が好きなものを自分も好きになろうとしたり。これ、恋人に限らないですけどね。仕事仲間とかでも、何を考えてるか、何が好きなのか、少なくとも僕は知りたくなる。気に入った人のことは。だから、ひょっとすると犬のやわ肌さんは、そこまでの気持ちになったことが今まであんまりない、そういう人たちにまだ会えてない、ってことなのかもしれない。

こばなみ  その感覚、私もわかります。パートナーもそうだけど、素敵だなと思う人の考えてることを知りたいから、いろいろ聞きたいし、話したい。

宇多丸   たとえば犬のやわ肌さんも、好きなアーティストのインタビューとか、読んだり聞いたりしない? 映画監督のインタビューとかさ。この場面はどう撮ったのかとか聞きたくならない? あと、こんないい映画を撮る人は、他にはどんな映画が好きなんだろう、とか。でも、よく考えてみりゃ、僕の番組を聴いてくれたりはしてるんだもんね! だったらやっぱり、人の話を聞くこと自体に興味がないわけじゃないんじゃない? 単に興味が湧く人とそうじゃない人がいるっていう、わりと当たり前のことでしかないのかもしれませんよ。

なんにせよ、会話が盛り上がらないっていうことに仮に責任があるとしても、だとしたらそれは両者にいえることなわけだし、そもそも無理してまでやらなきゃいけないようなことでもない。自分が悪いんだー! とか、あんまり思いつめないほうがいいですよ。

あえてテクニック的なレベルでアドバイスをするなら、最初のほうでも言ったとおり、「何かしら質問する」というタスクを自分に課してみる、というのはどうですかね。みなさん、本質的には自分の話がしたくてしょうがないわけだから、大喜びで話しだしてくれるはずですよ!

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宇多丸 ラッパー、ラジオパーソナリティ

1969年東京都生まれ。早稲田大学在学中にMummy-Dと出会いヒップホップ・グループ「RHYMESTER(ライムスター)」を結成。ジャパニーズ・ヒップホップシーンを開拓/牽引し、結成30年をこえた現在も、アーティストとして驚異的な活躍を続けている。2007年にはTBSラジオで『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がスタート。09年に「ギャラクシー賞」ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞するなど、ラジオパーソナリティとしても活躍。同番組内の映画批評コーナーなどが人気を博す。18年4月からは、同局で月~金曜日18~21時の生放送ワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティをつとめている。著書に『ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門』『森田芳光全映画』『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』などがある。

小林奈巳(女子部JAPAN)

愛称・こばなみ。株式会社都恋堂・代表取締役。出版物や広告コンテンツの編集業務を経て、2010年に「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ・メディア「女子部JAPAN」として、全国2万3千人の30~40代女性を対象に、ココロとカラダを元気にするためのコンテンツ&イベントを企画・実施中。仕事は好きだが、PCのデスクトップと部屋がどうしても片付けられないのが長年の悩み。

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