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ライムスター宇多丸のお悩み相談室

2022.09.23 公開 ツイート

デキがいい友達に嫉妬してしまいます。嫉妬心を消すにはどうしたらいいでしょうか? 宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)

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デキがいい友達への嫉妬。消すにはどうしたらいい?(2014年2月22日)

友人は私のひとつ年下ですが、何かにつけてデキがいいです。同じ会社で働いているのですが、社内の評価も高く、仕事の仕上がりもいいです。今まではすごいな、という気持ちと嫉妬が入り混じった複雑な心境だったのですが、最近その友人が結婚してマンションを買うと言い出しました。マンション購入なんて、自分にはかなり先だと思っていたのに、年下の友人が実現することに驚いています。また、彼女の結婚相手のほうが私の彼より年下であることでも複雑な気持ちになるのかもしれません。モヤモヤするので嫉妬の気持ちを消したいのですが、どうしたらいいでしょうか?(もも・千葉県)

宇多丸   嫉妬って、あらゆる感情のなかでも、一番厄介かもしれないよなぁ、とは常々考えていて……。というのも、何かにつけ心にそれが湧いてきてしまうのは人間だからしょうがないんだけど、ついついそれが嫉妬であるという事実から目を背けてしまうというか。「自分は嫉妬している」と意識できていないまま、客観的にはもろにジェラシー発の醜い言動をしちゃってる場合は多いんじゃないかと思うんですよ。現実を直視するにはあまりにも情けなさすぎるというかつらい気持ちだからだとは思うんだけどさ。

たとえば、人はなんで有名人のゴシップが大好きなのかってことですよ。誰それに批判が殺到したとか、泥沼の離婚劇になってますとか、ドラマの視聴率が振るわないとか……、そんなの本来、我々の人生にはいっさい関係ない話なのにさ。一番の大好物じゃん! 

要は、とにかく「自分よりうまい汁を吸っているように見える」誰かの人生に、何かしらネガティブな事態が降りかかってるのを確認することで、ならばやっぱり自分のほうがマシなのかもしれない、と思いたいってことでしょ。それってつまり嫉妬だよね。でも、自分ではまったくそうは思ってなくて、むしろ「正当な批判」をしてるつもりだったりするから、またタチが悪いっていう……。

こばなみ  はっ! 言われてみると確かにゴシップ好きです……。

宇多丸   その点、ももさんは、「私はこの友人に嫉妬している」と、ここまで自分に厳しい言葉を連ねて自覚できてるんだから、僕は相当、立派だなと思いますよ。その時点である程度、自制心が働くじゃないですか。これはなかなかできることじゃないよ!! たとえば、山田洋次の『小さいおうち』って映画で、室井滋さん演じる役がこういうイヤミを言ってます。「このご時世に家を買うだなんてねぇ~! 大地震があって、そういう財産を持っててもどうなるかわかったもんじゃないって、さんざん思い知らされたばかりだっていうのにねぇ~!」と。自分では「正論」のつもりでも、余計なお世話でしかない否定的意見をついつい言ってしまったりするわけですね。

社内での評価が高いっていうのも、「あの子は要領がいいから。私なんか不器用だし……」なんて表現してみたり。一見ホメてるふうだけど、要は「あいつはずるいだけ」って暗に伝えたいっていうね。そうやって、「心配しているからこそ、あえて厳しいことも言ってあげてるのよ」と自分自身思い込みながら、その実、ただ単に悪口を言いふらしてるだけ、みたいなことは、ライムスターの『余計なお世話だバカヤロウ』って曲の一番でまさにそういうことを歌ってるんだけど。僕も含めて誰もがついついやっちゃってることだと思うんですよ。

こばなみ  知らず知らずのうちに言ってるわ……。反省……。

宇多丸   もちろんこれは誰しも覚えがあるはずの、実に人間的な心の動きではあるんだけど、ホメられたもんじゃないのは当然だし、いい年こいても無自覚なままその手の言動を連発していると、周囲の人にはしっかり、「嫉妬深いうえに卑劣な人」という最低の印象を植えつけてしまいかねない。

だからもう、自分の気持ちにいちいち冷静に向き合うクセをつけるしかないんだけど……。そこへいくと、ももさんはやっぱり、すでに一段上のレベルにいるんですよ。嫉妬という気持ちを完全に「消す」ことは、たぶん人間という動物には難しいと思うんです。でも、「これは嫉妬なんだ」と意識する、意識しようとすることはできる。それこそが唯一の解決策じゃないですかね。

こばなみ  嫉妬って消せないですもんね。

宇多丸   感情は、意志に関係なく「湧いてしまう」もんだからね。おそらくその根っこにはさ、生き物としての生存本能みたいなことがあるんだろうとは思うんだけど。「こっちの餌は少ないのに、あっちはいっぱい持っている(ように見える)=生命の危機! ムキーッ!」みたいな。

ただ、動物と違うのは、人間は、それがどういう理由で湧いてきてしまう気持ちなのか、そこに流されてしまうと長期的にどういう不利益が出てくるのか、あとから冷静に分析することができる。だから、これは嫉妬なんだと自覚できてる時点で、きっと問題の大方は解決してるんですよ。だってももさんは、少なくとも、この友達の陰口を叩いてまわるとかはしないわけでしょう。

あとは、嫉妬の原因となった「格差」とももさんが思っているものを、どう解消していくか……。ちなみにですね、仕事に関していうなら、たとえば僕の本業はラップですけど、明らかに自分より優秀だなと思うラッパーなんてヤマほどいるし、若くてイケてるヤツらは次から次へと出てくるしで、羨望や嫉妬は日常茶飯事。そこでどうするかというと、これはもう、正攻法の「努力」の積み重ねしかないんですよねぇ。まずは相手の優れている点を素直に認めて、学べるところは謙虚に学ぶ。そのうえで自分が勝てるところ、相手にはない長所がどこかをできるだけ客観的に分析して、そこを伸ばす。なんか、ものすご~く真面目というか、当たり前の説教みたくなっちゃってますけど……、ホントにそうなんだから仕方ない。つまり、相手を貶めたりするんじゃなくて、自分を高める動機として嫉妬や羨望を使えるのなら、あながち悪いことばかりじゃないかもよ、ってことですよ。

こばなみ  ももさん、友達のこと、できる人って認めているように書かれてますしね。

宇多丸「評価が高く仕事の仕上がりもいい」って、相手の優れている点を正確に認識して分析もできている。こういう人は、自己評価とは裏腹に本人も優秀だったりすることが多いと思いますね。優れたものを正確に評価できる時点で、けっこうな能力なんですよ。逆にいうと、それがない人はもうスタートラインにすら立ててないというか。まぁ、その眼力を持ってることによって、ももさんみたいに苦しむことも当然あるでしょうけどね。

映画『アマデウス』って観たことないですか? 天才モーツァルトと同時代に生まれてしまったサリエリという作曲家が、なまじそこそこ自分も音楽の素養を持っているからこそ、圧倒的に自分よりモーツァルトのほうが優れていることが「わかってしまう」。それゆえに嫉妬に苦しむ話なんだけど、僕は思うんだよね。天才のすごさをより正確に評価できる能力だって、立派に神のギフトやないかーい! って。少なくとも、他の人よりは豊かな世界を見られてるわけだからさ。ま、そういう人は評論家とかになるのが一番いいんだろうけど……。とにかく、それはそれで、何もわかってない人よりはずっと素晴らしい人生じゃないの、と僕は言いたいですね。

一番ダメなのはさ、「なんであんなやつがチヤホヤされんだよー」って文句言うだけで済ませちゃう人ですよ。嫉妬に目がくらむあまり、なぜその人が自分より評価されてるかを冷静に見極めることができない。で、そういう態度にとどまっているうちは自分自身、伸びもしないから、さらに嫉妬心が増すような状況になっていったりして、負のサイクルに陥っていきやすいわけですよ。

でも、ももさんみたいな人は伸びる余地がある。たとえば友達の仕事ぶりを分析して、取り入れられるところは取り入れて、足りてないところを自分なりに補ってみるとか、やれることはいくらでも出てくると思うんですよ。だから、いいライバルと出会えてよかった! くらいに思えばいいじゃん。相手がいるから高められる関係もあるでしょう。悔しいって思えば思うほど自分が高められる相手って考えたらどうでしょうかね。

こばなみ  そう昇華できたらいいですね。

宇多丸   マラソンでもなんでも、リードしてくれる人がいるほうが成績が伸びるっていうじゃないですか。逆に、前方には誰もいなくて、追われる一方の立場っていうのはそれはそれでけっこうキツいよ。だから、背中を見る相手がいることって、実はとてもラッキーなことなんですよ。とにかく、嫉妬だって使いようってこと。あと、嫉妬ベースの陰口だって、もちろん、しないに越したことはないけども……。絶対にホメられたもんじゃないってことをわかったうえで、それでもパートナーとか、本当に気の置けない友達の前とか限定で口にすることで、心がちょっとでも晴れるんだったら、これまた「使いよう」のうちかもしれない。要は、嫉妬に「踊らされない」ことですよ!

こばなみ  私も以前、友達が結婚するとか聞くと、しんぱ~いとか言ってしまったり……。これは嫉妬だったのか!

宇多丸   見境なく人に悪口を言うとか、嫉妬に目がくらんで相手の評価が正確にできないとか、そういうのさえなければいいんじゃない? にしても、ももさんはたいしたもんですよ。自分は嫉妬してるってことを、普通、ここまで言葉にできないって! そんくらい嫉妬って、自分で認めるのが難しい感情なの。だから、そんなにモヤモヤしないで。

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宇多丸 ラッパー、ラジオパーソナリティ

1969年東京都生まれ。早稲田大学在学中にMummy-Dと出会いヒップホップ・グループ「RHYMESTER(ライムスター)」を結成。ジャパニーズ・ヒップホップシーンを開拓/牽引し、結成30年をこえた現在も、アーティストとして驚異的な活躍を続けている。2007年にはTBSラジオで『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がスタート。09年に「ギャラクシー賞」ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞するなど、ラジオパーソナリティとしても活躍。同番組内の映画批評コーナーなどが人気を博す。18年4月からは、同局で月~金曜日18~21時の生放送ワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティをつとめている。著書に『ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門』『森田芳光全映画』『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』などがある。

小林奈巳(女子部JAPAN)

愛称・こばなみ。株式会社都恋堂・代表取締役。出版物や広告コンテンツの編集業務を経て、2010年に「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ・メディア「女子部JAPAN」として、全国2万3千人の30~40代女性を対象に、ココロとカラダを元気にするためのコンテンツ&イベントを企画・実施中。仕事は好きだが、PCのデスクトップと部屋がどうしても片付けられないのが長年の悩み。

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