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51歳緊急入院の乱

2022.09.23 更新 ツイート

第25回

オナニーアドバイスに殺される 花房観音

ストレスは身体によくない。
入院してから、わかりやすく身体に現れる。胸の鼓動が激しくなり、脈が早まる。
そのたびに、「怖い」と思う。

今度こそ心臓が止まるんじゃないか、と。

親切したがる人からもらうストレス

 

入院中、同室のおばさんの愚痴やらで多少のストレスはあったけれど、一番きつかったのは、「親切のつもりのアドバイス」メールだった。
私がSNSで病名を書かなかったのは、お見舞いと称した親切のつもりの素人アドバイス、いや、素人じゃなくても「こうしたほうがいい」「これをやってはいけない」「私の知り合いが同じ病名だから云々」みたいにあれしろこれやるな言われるのが嫌だったからだ。
毎日、主治医に診察してもらい、その指示にしたがって、薬も飲んでいる。
病院のベッドの上で、それ以上、何をすることがあるのかと、少し考えたらわかるものだけれど、世の中には、なぜか私の主治医以上に私の症状をわかった気になり「親切」したがる人たちがいる。会ったこともない、誰かわからん人なのに。

 

SNSでは病名を書かなかったけれど、連載しているメールマガジンは休むことになるし、有料でクローズな場所だし、憶測呼ぶからと「心不全」で入院ということはひとつ連載している媒体では伝えてもらった。
そしたらお見舞いメールが来た。「お大事に」のお見舞いメールはいいけれど、二通ほど、懸念していた内容のものがあった。
ひとつは私が「やっと自力でトイレいけるようになった」「早く風呂入りたい」とtwitterでつぶやいているのを見て「動きたくてたまらないようですが、その状態で動いて死んだ人を何人も知っています!」と、いう内容だ。
自力でトイレに行ったのは、もちろん主治医の許可がでたからだ。そして風呂に入りたいとは言っているけれど、願望を書いてるだけで我慢してる。それだけで、なんで「死んだ人を何人も知っています」、つまりは「お前、死ぬぞ」という脅しをされなきゃいけないのだ。

「死」という言葉を使われて、頭に血が登った。しかも面識もない、知らない人に、何がわかるというんだろう。お前は超能力者か、神様なのか。
ネット上では、ときどきこういう距離感のおかしな人が何やら言ってくる。こちらを知った気になって、一線を踏みこえてくる人が。

それ、オナニーアドバイスです

「死」という言葉を使われたことは、のちのちも自分でも嫌になるくらい打撃を受けた。死ぬぞ、と脅されている気がして、悔しさと不安と怒りとで、「数値上がって病状悪化したら、これのせいだ」と思っていた。
そしてもう一通は、「花房さんは太ってるから、食べ物気をつけましょう。〇〇とか〇〇食べるといいですよ」というメールだ。
太ってるのは承知しているけれど、面識ない、よく知らない人に対して、いきなり体形のことを忠告する無神経さが理解できない。それに私は現在進行形で病院で、栄養士さん監修のバランスのいい食事をとり、退院後の食事指導も受けていた。

親しい友人たちは、こんな「素人アドバイス」は、絶対にしない。どういうことを言われたら嫌だとか、病人に言っていいことと悪いことの区別がついてるからだ。
結局のところ、こういった「無責任な素人アドバイス」を平気で送りつけてくれる人は、私のことを心配している気になって、そんな親切な自分に酔っている、自分だけ気持ちがよくなっているだけだ。

きっと本人たちは、「親切のつもりなのに、何をいうんだ。この女はひどい」と言うだろう。でも、あなたたちのやってることは、オナニーです。オナニーアドバイスです。
自分が気持ちよくなってるだけです。
オナニーそのものは私は推進派だし、どんどんすればいいけれど、他人を巻き込まないでください。私はあなたたちの「親切な自分」に酔う道具にされたくない。

「死」という言葉の暴力

たぶん、普段なら、こういうメールも読み流していたし、ここまで頭に血は登らなかっただろう。
けれど、いつ退院できるかもはっきりせず、髪の毛を洗っていなくて不快な状態で、不安でたまらないけれど、とりあえず知人などには「元気だ」と言い続けてきた私の神経に、「死」という言葉を使った「アドバイス」は、凶器だった。
「私の知り合いも心不全で~」とも言われたが、お前の知り合いは私じゃない。同じ病名だって、症状は人それぞれだ。私は私を直接診察してくれてる主治医の言うこと以外は聞きたくない。
「親切なつもりのオナニーアドバイス」は、入院中、暴力でしかなかった。
やっぱり病名を親しい知人以外に早々に伝えるべきじゃなかったと後悔した。
とりあえず、SNSには書かなくて正解だった。
SNSに書いたら、もっと親切オナニーが好きな連中の餌食になっていただろう。
世界を憎悪しかけたぐらい、怒りで湧きたった。
そのせいか、なかなか血圧が下がらず、さらに憂鬱になった。

先輩風びゅんびゅん

退院してから、子どもを産んだ経験がある女性編集者にこの話をすると、「妊娠したとき、アドバイス、すごくされました」と、言われた。
帝王切開は駄目だ、やっぱりお腹を痛めた子だから我が子だという実感があるんだの、無痛分娩なんて不自然だの、ミルクは子どもが可哀そうだの母乳じゃないとあかんだの、ああしろこうしろと、「経験者」たちから、怒涛のようにいろんな「アドバイス」を受けるのだと。
確かに、妊婦さんは、私の比じゃないぐらい、いろんなことを言われるだろうと思うと、心底気の毒になった。
でも、「素人アドバイス」、きっと自分も今までやっていたとも思う。
言いたいことがあっても、それは本当に相手のためなのか、考えてから口に出すべきだと自分を戒めた。

(退院してすぐに買った体重計)

関連書籍

花房観音『ヘイケイ日記 女たちのカウントダウン』

いつの時代も女の人生、いとめんどくさ。 諸行無常の更年期。花房観音、盛者必衰の理を知る。 とはいえ花の命はしぶといもので生理が終われど女が終わるわけじゃなし。 五十路直前、滅びるか滅びないかは己次第。 いくつになろうが女たるもの、問題色々、煩悩色々。

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51歳緊急入院の乱

更年期真っ只中。体調不良も更年期のせいだと思っていたら……まさかの緊急入院。「まだ死ねない」と確信した入院日記。

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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