1. Home
  2. 社会・教養
  3. ウクライナ戦争と米中対立
  4. 5人のエキスパートとの激論から、「ポスト...

ウクライナ戦争と米中対立

2022.09.17 更新 ツイート

5人のエキスパートとの激論から、「ポスト・ウクライナ侵攻」の国際秩序が見えてきた 峯村健司

米中対立が激化するなかで起きた、ロシアによるウクライナ侵攻。戦争は長期戦の様相を呈し、台湾有事も緊迫度を増しています。世界はどこへ向かっているのか。日本は何をなすべきなのか。米中関係に精通するジャーナリスト・峯村健司さんが国際政治のエキスパート5人と激論を戦わせた『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』の「はじめに」を公開します。

*   *   *

2020年8月 中国軍が2発の弾道ミサイルを台湾東岸沖に試射
2020年9月 中国軍が2発の弾道ミサイルを日本の「排他的経済水域(EEZ)」に試射

2020年3月、私は東京都内の幻冬舎の一室で、カメラに向かって物騒な軍事作戦をつぶやいていた。この年の1月から始めた幻冬舎主催の連続講座「米中激突! どうなる『新冷戦』」の一コマで、中国軍が台湾併合に向けて軍事行動に出た際のシナリオについてオンラインで解説をした。私が十数年かけて中国軍の内部資料を集め、米軍関係者らと議論を重ねた末、完成させた「台湾有事シナリオ」の一端だった。講座のシナリオでは便宜上「2020年」としていたが、私自身は当時、正直なところ、リアルに戦争が起こるとは思っていなかった。

ところがその約2年後の2022年8月、シナリオが現実のものとなった。

ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪れたことに反発した中国は、大規模な軍事演習に踏み切った。台湾を包囲するように弾道ミサイル11発を撃ち込み、そのうち5発は日本のEEZに、4発が台湾の上空を越えて東岸沖に着弾した。いずれも、シミュレーションの中では相当、緊張が高まっている段階での作戦だ。つまり、台湾情勢は戦争一歩手前の緊迫した状況にまで至っていると言える。

連続講座は計6回開かれ、延べ320人が参加した。米中対立が深まって、新たな冷戦に突入するという仮説に基づき、台湾問題のほか、経済安全保障やインテリジェンス、日本を含む東アジアへの影響などについて解説をした。毎回、ゲストをお招きして、議論をした後に「スナック峯村」なる飲み会も開いて、受講者も交えて議論を深めた。

このときに議論した米中関係を中心とした分析・予測が、ほぼ現実世界で起きている。しかも、展開が想定よりもはるかに早まっている。

その一因は新型コロナウイルス感染症のパンデミックだ。最初に感染が拡大しながらも、強権的な対策でいち早く感染を抑えた中国の習近平政権は、共産党体制の優位性を強調するプロパガンダを展開した。と同時に、感染拡大にあえぐアメリカをはじめとする民主主義国家を批判し、「体制間競争」を打ち出した。対するトランプ政権は中国批判を強め、米中対立は決定的となった。

トランプ政権からバイデン政権に代わると、対立は和らぐどころかさらに強まった。イギリス、オーストラリアと共に安全保障枠組AUKUS(オーカス)や、14カ国が参加するインド太平洋経済枠組み(IPEF)を新設し、日本、アメリカ、オーストラリア、インドによる戦略対話QUAD(クアッド)と合わせて、重層的な対中包囲網を構築している。

だが、冷戦後の安定を支えてきたアメリカの覇権は揺らいでいる。アフガニスタンからの米軍撤退をめぐる失敗はその動きを加速させた。

アメリカの足元を見るように、ロシアのプーチン大統領は2022年2月、ウクライナ侵攻に踏み切った。第一次世界大戦を想起させる大規模な戦車部隊をウクライナ領土に進軍させた。ロシア兵による虐殺やレイプなどの犯罪行為が報じられ、私たちは、数世紀前の時代に逆戻りしたような光景を目の当たりにしている。

これまでの国際秩序が音を立てて崩れようとしているのではないか。そんな不安と焦燥感にかられた私は、幻冬舎の講座で議論させていただいた専門家のみなさんの胸を再び借りて、「ポスト・ウクライナ戦争」の秩序を読み解こうと思った。

最初にお声がけした鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授には、私が上級研究員を務める北海道大学におられたときから指導を仰いでいる。宇宙政策から経済安全保障まで幅広く精通している、まさに「知の巨人」。ウクライナ侵攻をめぐり注目されている経済制裁を中心に議論をした。

アメリカ発の分析については、アメリカの安全保障政策を中心にワシントン人脈に深く食い込んでおられる村野将・ハドソン研究所研究員にお願いをした。台湾有事が起きた場合の米中戦争の行方や、日本の安全保障が抱える課題について解説をしてもらった。

軍の観点からは、小野田治・元空将に参加していただいた。航空自衛隊航空教育集団司令官を最後に退官された後、私と同時期にハーバード大学で研究をされていた。共に研究をしている台湾有事シナリオを中心に議論をさせていただいた。

この御三方に加え、小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師にも新たにご参画いただいた。ロシアの安全保障が専門の小泉氏とは予定していた3時間の討論では終わらず、居酒屋に場所を移し、ロシア・ウクライナ戦争の分析から中露関係まで激論させていただいた。

メインテーマとなるロシア・ウクライナ戦争後の国際秩序の分析と総括については、国際政治史が専門の細谷雄一・慶應義塾大学教授にお願いした。それまでの4人の専門家との議論から私が得た仮説をぶつけ、細谷氏の知見をいただいた。

5人のバックグラウンドや専門分野は異なる。だが、議論を重ねていくうちに、共通した事実や見立てが浮かび上がり、点と点が結びつき、あたかもモーセの「海割り」のように、底流にあるトレンドが見えてきた。そのひとつが副題にもある「帝国主義の逆襲」だ。

本文では難解な専門用語をできるだけ使わず、分かりやすさにこだわった。ジャーナリストとして培ってきた「質問術」もご紹介したく、対談を忠実に再現した。読者のみなさんにも「海割り」のプロセスをライブ感覚で読み取っていただけるだろう。

今、私たちは国際秩序の大きな分岐点に立っている。今後数十年の流れを左右する事象が次々と起きている。本書がその荒波の中を航海する羅針盤としてのヒントを提示できれば、幸いだ。

*   *   *

◆この続きは『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』でお読みください。

◆10月3日(月)19時より、峯村健司さんと小泉悠さんの刊行記念トークイベントを開催します。会場参加とオンライン参加の同時開催です。詳細・お申込みは幻冬舎大学のページからどうぞ。

関連書籍

峯村健司/小泉悠/鈴木一人/村野将/小野田治/細谷雄一『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』

2010年代後半以降、米中対立が激化するなか、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻。世界情勢はますます混迷を極めている。プーチン大統領はロシア帝国の復活を掲げて侵攻を正当化し、習近平国家主席も「中国の夢」を掲げ、かつての帝国を取り戻すように軍事・経済両面で拡大を図っている。世界は、国家が力を剥き出しにして争う19世紀的帝国主義に回帰するのか? 台湾有事は起こるのか? 米中関係に精通するジャーナリストが、国際政治のエキスパート5人と激論を戦わせ、これからの世界の勢力図を描き出す。

{ この記事をシェアする }

ウクライナ戦争と米中対立

2010年代後半以降、米中対立が激化するなか、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻。世界情勢はますます混迷を極めている。プーチン大統領はロシア帝国の復活を掲げて侵攻を正当化し、習近平国家主席も「中国の夢」を掲げ、かつての帝国を取り戻すように軍事・経済両面で拡大を図っている。世界は、国家が力を剥き出しにして争う19世紀的帝国主義に回帰するのか? 台湾有事は起こるのか? 米中関係に精通するジャーナリストが、国際政治のエキスパート5人と激論を戦わせ、これからの世界の勢力図を描き出す。

バックナンバー

峯村健司 青山学院ん大学客員教授・ジャーナリスト

​1974年生まれ。青山学院大学客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。ジャーナリスト。青山学院大学国際政治経済学部卒業。朝日新聞で北京・ワシントン特派員、ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員などを歴任。「LINEの個人情報管理問題のスクープと関連報道」で2021年度新聞協会賞受賞。2010年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『宿命 習近平闘争秘史』(『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』を改題、文春文庫)、『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新書)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP