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同姓同名

2022.09.20 更新 ツイート

荒唐無稽? いいえ、現実に起こったことを書いています 下村敦史

単行本発売時から、その大胆不敵さから話題騒然だった下村敦史さんの大傑作『同姓同名』が文庫化いたしました。本編に加えて、書き下ろし短編「もうひとりの同姓同名」も収録。発売直後に重版! と早くも大反響の本作、ぜひ、お楽しみくださいませ。

文庫発売を記念して下村敦史さんからのメッセージをお届けします。

文庫化に際して 下村敦史

“登場人物全員、同姓同名”

このアイデアは元々、「帯のキャッチコピーからアイデアを考えてみるのはどうですか」という編集者の提案で、閃いた発想の一つです。

名前を持って登場するのは、猟奇殺人犯と同姓同名になってしまった人々――10人以上の大山正紀――だけ、というミステリーで、その試みに関しては様々な媒体のインタビューで語ってきました。

せっかくなので、今回は、単行本刊行時には語ったことがない試みについて、明かしたいと思います。

昨今はSNSなどによる誹謗中傷が社会問題化しています。僕が以前より関心を持っていたテーマです。

たとえば、山岳ミステリーの『生還者』(講談社)では、雪崩事故の生還者が語った一方の証言だけで善悪を決めつけ、行方不明の登山家を攻撃する人々の問題――その登山家が生還して正反対の証言をすると、善悪が入れ替わり、世論が手のひらを返す――をサブテーマとして描いています。

本作『同姓同名』では、猟奇殺人犯の“大山正紀”への誹謗中傷が、無関係の大山正紀たちの人生に影響を与えるシーンが繰り返し出てきます。それは分かりやすいSNS問題の描き方ではありますが、もう一つ、密かに仕掛けた試みがありました。

それは、“ツイッター上で他者に対して行われている言動を現実世界で具現化したらどう見えるのか”という試みでした。

作中の大山正紀の周囲には、SNSのアカウントと同じく“名前がない様々な登場人物”が現れます。

たとえば――。

コンビニバイトの同僚女性と事件について話していたら、その会話を隣で耳にした第三者のおじさんが“正論”で割って入ってきて意見を押しつけてくるシーン。

社会復帰した大山正紀を許せず、社会から排除するため、“注意喚起”として街中でビラを撒く赤の他人のおばさん。

教室の片隅で女の子のイラストを描いていたアニメーター志望の少年を取り囲み、“絵への感想”と称して画風を全否定し、人格否定の攻撃的発言を繰り返し、悪びれもしないクラスメイトの男女グループ。

全てはツイッター上で“正しい行い”として、何の接点もない他者に対して頻繁に行われている言動です。

20年近く前から、『ネットの画面の向こうにいるのはバーチャルな存在ではなく、あなたと同じ人間です』と言われてきましたが、SNSが当たり前の時代になった昨今、誰もがもう一度、改めて認識すべきことではないかと思います。

ツイッター上で当たり前に行われていることを現実でも他者に対してしてみたら、果たしてどのように見えるのか――。いじめや加害行為に見えるとすれば(“SNSのアカウントの向こう側にも人間がいる”“本人を前にして言えないことはSNSでも言わないようにしよう”という前提が正しいとすれば)、そのような言動は加害行為として控え、価値観を改めるべきではないでしょうか。

小説のテーマとしては、死刑問題、暴力問題、被害者加害者問題等々、大きな社会問題が注目されがちですが、SNSの問題も決して軽いテーマではありません。

作品のミステリーとしての面白さを楽しみつつ、その辺りのテーマにも関心を持ってほしいと願っています。

渾身の勝負作『同姓同名』をどうぞよろしくお願いします!

関連書籍

下村敦史『同姓同名』

〜ミステリ作家からの挑戦状〜 登場人物全員、同姓同名! 大胆不敵、大混乱ミステリ待望の文庫化。 大山正紀はプロサッカー選手を目指す高校生。いつかスタジアムに自分の名が轟くのを夢見て 練習に励んでいた。そんな中、日本中が悲しみと怒りに駆られた女児惨殺事件の犯人が捕まった。 週刊誌が暴露した実名は「大山正紀」ーー。報道後、不幸にも殺人犯と同姓同名となってしまった “名もなき"大山正紀たちの人生が狂い始める。 これは、一度でも自分の名前を検索したことのある、 名もなき私たちの物語です。 書き下ろし短編「もうひとりの同姓同名」収録

下村敦史『もうひとりの同姓同名』

「私が殺されたーー?」 殺人事件の被害者と同姓同名の私は……。 須藤夏生は、ニュースで自分と同姓同名の女性が男のアパートで殺されたことを知る。全くの別人なのに親すら心配して連絡をしてくる。やがて自分も男に殺される夢を見るようになり。悩んだ末「同姓同名被害者の会」を開設するが。

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同姓同名

大山正紀が殺された。犯人はーー大山正紀。
登場人物全員、同姓同名!
前代未聞、大胆不敵ミステリ『同姓同名』(著:下村敦史)の刊行記念特集です。

『同姓同名』特設サイト

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下村敦史 作家

1981年京都府生まれ。2014年『闇に香る嘘』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。数々のミステリランキングで評価を受ける。15年「死は朝、羽ばたく」が日本推理作家協会賞(短編部門)の、16年『生還者』が日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)の候補に、『黙過』が第21回大藪春彦賞の候補となる。ほか『絶声』『法の雨』など幅広いジャンルで著書多数

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