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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2022.09.15 更新 ツイート

第185回 ひねくれ者 いとうあさこ

私の名前の“あさこ”を漢字で書くと“麻子”。麻の繊維のようにまっすぐな子になるように、と親が付けてくれた名前です。ただ私、曲がっています。全然まっすぐじゃない。“あまのじゃく”なんてカワイイ表現もありますが、私の場合は完全に“歪み”。いわゆる“ひねくれ者”です。

 

例えば10年くらい前。番組収録で打合せの時にスタッフさんから「今日はイケメンの方をご用意いたしましたので、キャーキャーしていただければ」と言われまして。別に普通に「ありがとうございます」でいいじゃない、そんなの。キャーキャー言うかは別にして。だけど“ひねくれあさこ”は「どうせオマエなんてイケメンあてがっとけば嬉しいんだろ」とでも言われたような気持ちになってしまいまして。ちょっとムッとしちゃうんです。言ってないのよ、そんな事。今じゃあれですけど、あの頃はむしろサービスくらいの気持ちだったと思うのよ。でも、そんな一口に“イケメン”って言っても人それぞれ好みがあるし、正直顔でどうこうじゃなくて内側からくる色気みたいなのがいいし、そんな十把一絡げに“イケメン”って言われても、ってなんか腹が立っちゃったのよね。で結果どうなったかと申しますと、ええ。キャーキャーでした。今じゃ顔も何のお仕事の方だったかも思い出せないけれど、興奮し過ぎて血流がよくなったのか内モモがかゆくなるという。っていうかそんな興奮の仕方ある? みっともないったらありゃしない。ムッとした自分をお詫びの品と共に返還したい。

あとよくあるのが“泣く”。多分私は割と泣きがちではあるとは思っているんです。特に「イッテQ!」とかで仲間が頑張っているのを見るとすぐ、です。温泉同好会の“だいたい100回記念”みたいな時なんて、みんなでゆずの「栄光の架橋」を歌う事になりまして。歌い出しもバラバラでめちゃくちゃだったんですけど、なんかイントロからこみ上げちゃって。今までの歴史がスローモーションで次々に思い浮かんできたんです。それと曲がガッツリ合っちゃって、サビの頃にはもう大号泣で歌えず。「なんでそこで泣く!?」と言われる事も多々ありますが、泣けてきちゃうんだから仕方ない。ただ「感動のVTR流しますんで」みたいな、“泣いてください”的なものには全然泣けない。“ひねくれ”発動します。だって“泣く”って人に言われて泣けるもんじゃなくて、琴線に触れなきゃ涙なんか出てこない。そもそも人によって、そしてその時の自分の状況や感情によって胸にくるポイントって違いますもんね。で結局、本番、泣く。めっちゃ泣く。こないだも映画館で泣いちゃった映画のシーンをご紹介する機会があって。「全部観てこそそこで泣けるわけで、そのシーンだけ切り取っても私、泣けないですからね」くらいの感じで収録に挑んだのですが、共演者の皆々様に映画の説明しながらVTR観てたらなんか涙が。もうここまでくるとひねくれてんだか不安定なんだかよくわからない。

ただここまでは笑い話というかどうでもいい話。最近、自分の歪みに自分でショックを受けることがありまして。先日入院していた時の事。私、正直ちょっと舐めてた部分があったんです。患部が膝だから「そりゃあ手術した後、痛さはあるだろうけど、言っても膝だしね。書き物して、本読んで、映画観て……あとどうやって時間つぶそう」くらいの。それが日々痛さで唸ることになったわけで。夜中に座薬入れてもらっても痛くて眠れない。結局持っていったものなんて一つも触らず終わったほど。そんな入院中、いろんな方からメールをいただきまして。その中のいくつかに「神様が『休め』って言ってるんだよ。ゆっくりしなね」「チャンス! ゆっくりするんだよー」の文字が。まさかの私、この“ゆっくり”にイラッっとしてしまった。意味わからないですよね? メールをくださった皆様も入院前の私同様、“膝以外元気”だと思っているんですからそういう文章になりますよ。こんなの感謝以外の何ものでもないです。それが、イラッと。だって“ゆっくり”できないんですもん。痛すぎてのたうちまわっているんですもん。「普段の方がよっぽど“ゆっくり”してるわ!」みたいな気持ちになっちゃいまして。ああ、ひどい。人としてひどい。

そう言えばこれと同じように、人様の優しさを受け入れられなかった事が一度ありました。あれはわたくし31歳。「電波少年」の企画で半年の無人島生活終わって帰国した時、当時コンビだった私にみんなが日本に残っていた相方の事を報告してくるんです。「相方頑張ってたよ。」「相方一人でネタやってて偉かったね。」「相方根性あるわ。」……はぁ? です。私の気持ち、はぁ? です。いやいや、と。だって相方には私がいない半年の間、家もあって、好きなご飯食べて、お酒も飲んで。清潔な飲み水だってあって、洋服だって好きなもの着て、お風呂だって毎日入って。私にはその全部がなかったよ? 頑張ったの、私じゃない? って。今ならわかる。突然相方がいなくなって一人でネタやる勇気。別に私が帰ってくるのを待っていてもいいのに、ちゃんとネタをするというのがどれだけパワーがいることか。卑屈の極みですよ、ホントに。HI-KU-TSU。あ、工藤静香「FU-JI-TSU」みたいに書いてみたけどダメか。やんなっちゃう。

そんなこんな書いていたらさっき突然腰に電光が走った。ぎっくり腰、です。ここ数年は顔を出さなかったのに、予兆ゼロで突然。ピキッって音が聞こえた気がする。まあそりゃそうか。靭帯切れてから歩いたり立ち上がったり、いろんな場面で腰がかばってくれてたよなぁ。こんなにいっぱい負担かけているのに毎日「膝、膝」言うもんだから、そりゃあ腰だってひねくれるわよね。さすが私の腰。この親にしてこの子あり、だ。ちょうど膝のアイシングに使っていた氷を腰に当ててみる。ああ。このぎっくり腰で思いました。やっぱりひねくれない方がいいね。

 

【本日の乾杯】クリームチーズの醤油づけ。こういうのが無限というのかもしれない。ビールでもいいが、あえて日本酒ロックでゆっくりと。“秋の夜長”とやらに最適。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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