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アルテイシアの熟女入門

2022.09.01 更新 ツイート

「差別はむしろ良い人がうっかりやらかす」 アルテイシア

私が中高生だった頃は、とんねるずが大人気だった。

私も学校で保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)のモノマネをして、同級生たちと笑っていた。

時をかける熟女としてタイムリープできたら、私は過去の私に「あなたはみんなを笑わせようと思ってやってるけど、それは差別なんだよ」と言うだろう。

すると過去の私は「ハッ? 差別なんかしてないし、つかおばさん誰?!」とキレるだろう。十代の私の方が強いので、返り討ちに遭うかもしれない。

当時の私は「差別する人=悪い人」だと思っていた。

 

自分はボランティア活動も募金もしてるし、差別なんかする悪い人間じゃない。

当時はそう考えていたけど、それは間違いである。

差別はたいてい悪意のない人がするものだ。誰かを傷つけてやるぞ! と意気込んで差別する人は少なくて、むしろ喜ばせようとか、盛り上げようと思ってうっかりやらかす人が多い。

うっかりやらかした人が「悪意はなかった」「差別する意図はなかった」という言葉は嘘じゃない。でもそっちに踏むつもりがなくても、踏まれた側は痛いのだ。

その痛みに気づかずにいられることが特権なのだ。

「自分は差別なんかしない、と思っている人ほど差別的な言動をしやすい」という調査もある。無意識に差別してしまうのは、差別について知識がないからだろう。

そして、それは本人だけの責任じゃないと思う。

日本の学校ではまともな人権教育やジェンダー教育をしないため、差別について学ぶ機会がなかった。それは社会や政治の責任だろう。

十代の私は「この教室の中にも性的マイノリティがいるかもしれない、私のモノマネに傷つく人がいるかもしれない」と想像できるだけの知識がなかった。

大人になって、ジェンダーやフェミニズムの本を読んだことで「あれは間違いだったな」と気づいて反省することができた。

誰だって間違うことはあるし、間違った後にどうするかが大切だ。これまで学ぶ機会がなかったのなら、これから学べばいい。人はみんなアップデートの途中なのだから。

ということを伝えたくて「ジェンダー知らなきゃヤバい時代がやってきた」を書いた。

このモブおじさんとの対話の中で、BTSの話を紹介した。

アル:BTSは全ての新曲の歌詞をジェンダー研究者にチェックしてもらってるそうです。

それは、彼らが過去の失敗から学んだから。BTSのメンバーも過去に女性差別的な歌詞や発言を批判されて、謝罪して改善すると約束したそうですよ。

大切なのは、批判を真摯に受け止めること、アップデートのために努力することですよね。

そういう姿勢はむしろ称賛されるし、だからこそBTSは世界的に愛される存在になったんでしょう。

あと、真摯に批判しづつけたファンも偉いと思います。

モブ:たとえ推しでもダメなことはダメと批判することで、結果的に推しを守ることになるんだよね。

差別はたいてい悪意のない人がする』という名著があるが、「差別はむしろ良い人がうっかりやらかす」ぐらいに思っていた方がいいんじゃないか。

と先日のサマソニの件を見て思った。

サマーソニック2022において、日本人アーティスト二組が海外アーティストを茶化すような言動をしたことが批判された。

私もネットでこの件を知って「これはあかんやろ」と思った。

アメリカでアジア系差別と戦う曲を歌うバンド、リンダ・リンダズの11歳~17歳のティーンたちが一生懸命覚えたであろう日本語のMCを真似してイジる。

性的搾取やルッキズムに抗議のメッセージを発信するバンド、マネスキンの女性メンバーのニップレス姿を真似してイジる。

そんな「俺たち面白いだろ?」的なホモソノリ、昭和のおじさんムーブを端的にダサいと感じた。

でも、彼らも根は良い人なんだろうなと思った(よく知らんけど)。

よく知らなくて恐縮だが、彼らも観客を笑わせたい、盛り上げたいというサービス精神からやったのだろうし、“差別する意図”は1ミリもなかったのだろう。

「この世界から差別をなくしたいですか?」と聞いたら、彼らは「YES!」と答えるんじゃないか。

実際に彼らと会ってみたら、優しい人たちなんじゃないか。会ったことないから知らんけど。

よく言われることだが、差別は「優しさ」や「思いやり」ではなくならない。まずは何が差別なのかを知ること、差別について学ぶことが必要なのだ。

彼らはもう大人であり、学ぼうと思ったらいくらでも学べる。差別について書かれた良質な本や記事はいくらでもある。

それでも学ぼうとしなかったのは、差別に関心がないからだろう。無関心でいられるのはマジョリティの特権であり、差別される側の痛みや傷つきを軽視しているのだ。

それって音楽をしている人間としてどうなのよ? と思う。

ネットでファンの反応も見てみたが「彼らのファンだけどあれは良くないと思う」「全然笑えないしショックだった」というコメントが多かった。

それに対して「あれは茶化してない、むしろ相手をリスペクトしているからやったんだ」と擁護するファンもいたが、ネタにする時点で無意識に軽視しているのだ。

たとえば、児童虐待をネタにしたら「虐待を軽視している」と気づくだろう。それがアウトだと気づけないことが問題なのだ。

また、相手がキッスのような大御所アーティストだったら同じことをしただろうか?

相手が女性や子どもだから茶化してもいい、無意識にそう思ったのはリスペクトに欠けているからであり、そこにはセクシズムやアダルティズムが潜んでいる。

アンコンシャスバイアス(無意識の偏見や差別意識)は、無意識だから自覚しづらい。それに気づくには差別について学び、かつ自分の内面と向き合わなければならない。

自分の内面と向き合うのはキツい作業だけど、やってほしいなと思う。彼らの音楽を愛するファンのためにも。

私が主催する「アルテイシアの大人の女子校」のメンバーからもこんなコメントが寄せられた。

「生きづらかった10代の頃は特にめっちゃ聴いててライブ行ってたしDVD買ってたし髪の毛赤く染めてたのに、悲しすぎます(泣)。弱者側から歌ってるみたいな曲もあったのに、こんな姿を見せるなら生きづらさなんて歌わないでほしかった」

「私もいわゆる隠キャとして存在を軽んじられる日々の中で、めっちゃ救われてたので……ホモソな悪ノリではしゃぐカッコ悪い中年になっちゃって、ホントつらくて絶望しました(涙)」

「ただこの件をツイッターで検索したら、きちんと批判する意見ばかりだったのが救いでした」

こうしたファンの声に耳をふさぐのか、それとも真摯に向き合うのか?

繰り返すが、誰だってうっかり間違うことはある。偏見や差別意識がまったくない人間は一人もいない。

誰も完璧になんかなれないからこそ、私たちは失敗から学ぶ努力、差別しないための努力をしなきゃいけない。

間違いを指摘された時、耳をふさいで逃げてほとぼりが冷めるのを待つとか、テンプレのご不快構文を出してお茶を濁すとか、ダサすぎるじゃないか。

そんなダサい姿をファンに見せてほしくない。これ以上、彼女らをがっかりさせてほしくない。

「間違いを認めるのは大変なことなんです、すごく勇気がいることなんですよ」

「批判に真摯に耳を傾けるのも、すごく大変なことなんです。でもそれをしないと同じような失敗を繰り返すし、永遠に変われないんですよ」

モブおじさんとの対話でこのように語った。

自分はなぜあんなことをしたのか、自分には何が足りなかったのか……それをとことん考え抜いて、自分の言葉で説明できる人はかっこいいと思う。

今回の件で絶望したファンもきっと見直すだろう。私はファンじゃないけど見直しますよ。

ちなみに中年の私は十代の頃、キッスの音楽を聴いていた。

去年キッスのメンバーは「悪魔もコロナ感染」と報じられ、ジーン・シモンズさん(72歳)は「ワクチンのおかげで俺は元気だ」とツイートして、みんなワクチン接種しようぜ! と呼びかけていた。

アーティストの言葉は社会に対して影響力がある。

その責任を自覚しているアーティスト、リナ・サワヤマさんやSIRUPさんのサマソニのMCにはぐっときた。

SIRUPさんは「夫婦別姓も同性婚もやったほうがええやん。マイノリティが声を出していかなきゃいけないんじゃなくて、そうじゃない人が団結して声を上げていこう」と呼びかけていた。

私はSIRUPさんをひっそり応援していて、社会問題やジェンダーについて熱心に学んでること、「アーティストは音楽だけやってればいい」と叩かれても発信し続ける姿勢に勇気づけられていた。

彼が言うように、差別に苦しむ当事者は声を上げづらいからこそ、マジョリティが声を上げるべきなのだ。

たとえば、日本においてLGBTQ当事者の自殺率は異性愛者と比べて約6倍も高い。

一方、デンマークとスウェーデンでは、同性婚が認められた後に同性カップルの自殺率が46%も減少したというデータがある。また、異性カップルの自殺率も28%減少したそうだ。(参考文献『せやろがい! ではおさまらない』)

マイノリティが差別されない社会は、全ての人の人権が尊重される社会であり、みんなが生きやすい社会である。

私は日本もそういう国になってほしい。だからアンチフェミに叩かれても「オッス、おらフェミニスト!」と法螺貝を奏でている。

昨今、日本もようやく燃えるべきものが燃える時代になった。

「窮屈な時代になった、昔はおおらかでよかったな~」とボヤく人は「昔は人を踏んづけても怒られなくてよかったな~」と言っているのだ。

また「ポリコレを気にしてると面白いことができない」とか言う人に限って、つまらない。

漫画家のよしながふみさんがインタビューで「ポリティカルコレクトネスは物語の面白さに資するものとして大事だと思います」と話していた。

「現代は、配慮を過度に求められるとして『表現が難しい』とも言われています」という質問には「私は、逆に描ける内容の幅もすごく広くなったようにも思っています」と答えていた。

最高に面白い作品を描くよしながさんの言葉に、私は大いに励まされた。

私は今も売れない野良作家だが、昔はもっと売れてなかった。10年前に「フェミニズムについて書きたい」と出版社に提案しても「そんなの売れるわけがない」と見向きもされなかった。

でも今はフェミニズムやジェンダーについて書いてほしい、と依頼が来る。書きたいものを書けるようになって、時代が進んだことを実感している。

時代が進んだぶん、時代遅れな人が目立つようになった。そんな人は淘汰されるがよい、と思うかというとそうでもない(まあ思うこともあるけど)

だって、自分も過去にうっかりやらかしてきたから。保毛尾田保毛男のモノマネをして笑っていたから。

人はみんなアップデートの途中だから、「変わらなきゃ」と前に進もうとする人は応援したい。

そして「差別をなくそう」と声を上げる人が一人でも増えてほしい。こんなんなんぼあってもいいですからね。

というわけで、お二組はがんばってください。あとキッスの皆さんは元気に長生きしてください。

*   *   *

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アルテイシアの熟女入門

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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