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アルテイシアの59番目の結婚生活

2022.08.18 公開 ツイート

これだけは無視できないクソリプの話 アルテイシア

フェミニストとして発信していると、アンチフェミからクソリプをよくもらう。

最近のお気に入りは「穴需要のないババアの嫉妬ww」である。

クソリプだけじゃなく、以前はチン凸もよくされた。チン凸とは、ペニスの画像を送りつける嫌がらせ行為である。

チン凸されるたび、わざわざパンツを脱いで写真を撮って場合によっては画像をトリミングして見知らぬ女に送りつける、きみの人生はそれでいいのか? と思った。

クソリプや汚棒を見ても、記憶喪失が得意のJJ(熟女)は3分後には忘れている。加齢って便利。

 

基本クソリパーは反応すればするほど粘着してくるので、私はスルー&ブロックしている。

彼らは返事をすると取り憑く妖怪みたいなものだ。

前に「生霊の飛ばし方」をネットで調べたら「除霊のやり方」も出てきた。その記事によると、根菜を食べるのがおすすめなんだとか。

なのでクソリパーにからまれた時はゴボウを食べよう。ゴボウは物理的にも武器になって便利。

アンチフェミとネトウヨのシンクロ率の高さは有名だ。

クソリパーのアカウントを見にいくと、女性差別と外国人差別を発信していて、ミソジニー垢とネトウヨ垢を兼務している人が多い。

まれに女性もいるけど、その大半は男性である。

彼らは自分より下だと思っている存在を叩いて、ストレス発散しているのだろう。差別やヘイトが娯楽になっている人も多いと思う。

他に楽しいことないのかしら……と同情しつつスルーしているが、これは無視できないなと思うのは、相手が中高生だった場合だ。

10代の子どもたちには言いたい。「今ならまだ間に合う、そっちに行っちゃダメだよ」と。

進撃のハンジさんが「虐殺はダメだ! これを肯定する理由があってたまるか!!」と言っていたように、差別を肯定する理由などない。

でも「差別はダメだ」と言っても、彼らには響かないだろう。

だから、あえて言いたい。「そっちに行くと、自分の首を絞めて不幸になるよ」と。

差別主義者だとわかると、まともな人は離れていく。

特に若い世代ほど人権意識やジェンダー意識が高いため、「こいつやヤベー奴だ」とドン引きされて避けられる。

それで孤独になるなんて、人生つらすぎるじゃないか。

また「ジェンダー知らなきゃヤバい時代がやってきた」で書いたように、「差別的な人間がいることは大きなリスクだ」と危機感を抱く企業や組織が増えている。

いまや匿名の発信でもジャンジャン横漏れする時代。それに本人は隠しているつもりでも、偏見や差別意識はダダ漏れになるものだ。

差別主義者だとバレて仕事や居場所を失うなんて、イヤだよね? だったら自分のためにも差別をやめよう、今なら間に合うから。

子どもが差別やヘイトにハマるのは、本人の責任じゃないと思う。

日本の学校は人権教育やジェンダー教育が遅れているし、ネット上の差別やヘイトも野放しにされている。

むしろ政治家が差別やヘイトを煽って、謝罪も辞任もしないような国である。

これは社会や政治やメディアの責任であり、私たち大人の責任だろう。

オギャーと生まれた瞬間から差別的な人間などいない。

みんなまっさらな赤ちゃんとして生まれて、成長する過程のどこかで刷り込まれてしまうのだ。

私の親せきのネトウヨおじさん(40代)は、父親から右翼思想と男尊女卑を刷り込まれた。

彼は真面目な優等生だったため、親の言うことを素直に聞いたのだろう。

一方の私は「大人の言うことなんか聞いたら負けや」という尾崎豊好きの反骨ガールだった。4親等でもえらい違いである。

私は子どもの頃から彼を知っているので、可哀想に思うのだ。毒親育ちフレンズとして、シンパシーを感じる部分もある。

自分で働いて稼げない子どもは、社会の中でもっとも弱い存在だ。

だから大人は子どもを守らなきゃいけないのに、毒親は逃げ場のない子どもをいじめて育てる。

彼の父親は亭主関白のモラハラ暴君で、妻と子どもをサンドバッグにしていた。

「男のくせに泣くな」「男は強くあるべき」「勉強していい学校に入ってエリートになれ」とスパルタ方式で育てられた彼は、有害な男らしさを煮詰めたような大人に成長した。

サンドバッグにされてきた人間が、みずからもサンドバッグを求める。弱いものがさらに弱いものを叩く。

彼がその道に進んでしまったことが悲しい。

あの子も尾崎を聞けばよかったのに。クソ親父をぶん殴れればよかったのに。

弱いものをいじめて「自分は強い」と優越感に浸る、そんなのはクソダサすぎる。あの親父のコピーになってどうするよ、と今さら彼に言っても遅いだろう。

次世代の男の子たちをミソジニー沼から守るため」で書いたように、スケキヨポーズでずっぽり沼にハマった中高年が差別意識を学び落とすのは難しい。

けれども、中高生ならまだ間に合う。

というわけで、全国の学校の図書館に『あなたのルーツを教えて下さい』を置いてほしい。

本書はフォトジャーナリストの安田菜津紀さんが、さまざまなルーツをもつ15人の人生に迫ったノンフィクションだ。

全編すばらしいので読んでほしいが、私が特に印象に残ったのは「ちゃんへん.」さんの話だ。

ちゃんへん. さんは1985年、京都のウトロ地区(朝鮮半島にルーツをもつ人々が多く暮らす地域)に生まれた。

彼は幼い頃から壮絶ないじめを受けてきた。

小学校に登校すると、校門で上級生たちにつかまり「入国審査だ」と殴られる。同級生たちには無視される。

ある時は、校舎の窓から石がぎっしりとつまったバケツを落とされた。

間一髪直撃は免れたが、バケツを落とした上級生たちは彼を見てせせら笑っていた。

その件が校長に伝わり、校長は上級生たちを呼び出して「朝鮮人をいじめるな」と諭そうとした。

「あの一言で、自分は周りの人とは全く同じ立場ではないということを突き付けられたようでした」「“人間じゃないんだ”ってその時、思わされたんです」と彼は振り返る。

ちゃんへん. さんは中学2年の時にジャグリングに出会い、その後、プロのジャグラーとして活躍するようになる。

国内外で活動する中で「韓国人だったんですか」「日本人だと思ってました」「結局、何人なの?」……そんな問いの積み重ねに、段々としんどさを覚えるようになる。

そして「もっと広い世界を見よう」と思い立ち、自身のルーツを巡る旅に出る。

8年ほど前、彼はヘイトスピーチの現場を実際に見てみようと、京都・宇治市大久保へと向かった。

「まずはひたすら話を聞いてみたかったんです。朝鮮人を本当に恨んでいるなんて、この時代にあり得ないじゃないですか。10代20代の若者が“朝鮮人め! ”と本気になるなんて考えられない。だから原因は“朝鮮人”ではないと思っていたんです」

たまたまヘイトデモが始まる前の時間に、リュックに旭日旗を入れた青年二人をフードコートで見つけた。

「俺、朝鮮人なんやけど、おまえらの目的ってなんなん?」

ちゃんへん. さんが話しかけると、二人は驚いた様子でこう語った。

「朝鮮人とかそういうのは実はあまりよく分かってなくて、終わった後に皆で飲みに行くのが楽しくて参加してるんですよね」

私はこの言葉を読んで「サークル活動か」と思いつつ「やっぱりそうなんやな」と納得した。

若い彼らは本気で朝鮮人を差別しているわけじゃなく、仲間がほしかったのだ。

それだけ孤独で寂しかったのかもしれないし、居場所がないと感じていたのかもしれない。

ほんでまあ、ここからがびっくりである。

ちゃんへん. さんは二人と連絡先を交換し、その日の夜に彼らを誘って飲みに行った。韓国料理を堪能し、マッコリを飲みながら店を何軒もハシゴした。

やがて彼らからは「今日はこの韓国料理屋に行きました」「TWICEが可愛い!」と楽しげな連絡が来るようになり、実際に韓国にも観光で訪れるようになっていった。

それだけに留まらず、北朝鮮まで旅行に行って平壌マラソンに参加したりと、驚くほど変化を遂げた。

そして一人は2019年、韓国で知り合ったカナダ人の彼女と一緒に暮らすために、韓国へと発っていった。

“人生が180度変わる”の例文のようである。

ちゃんへん. さんに出会えた彼らは、マンモスラッキーだったと思う。

生身の人間と出会って友達になることで、人ってここまで変われるのだ。

もしその出会いがなければ、彼らは今もヘイトデモに参加していたかもしれない。そのままヘイト沼にずぶずぶ沈んでいったかもしれない。

去年8月、宇治市ウトロ地区で放火事件が起こった。

犯行を認めた22歳無職の男性は、韓国民団をねらった同様の事件を2度起こしていた。

憎悪感情をもとにしたヘイトクライムを起こした動機には「ヤフコメ民」を意識したものがあった。

放火の罪で起訴された男性は取材に対して、在日コリアンらに恐怖を感じさせたかったと述べており、さらに事件の動機のひとつとして、「ヤフコメ民をヒートアップさせたかった」とも明かした。(参照記事

『あなたのルーツを教えて下さい』には、ウトロ出身の女性のこんな言葉が出てくる。

「私の体が燃やされているようでした」
「私たちは生きていてはいけないのでしょうか」
「一番怖いのは、社会の無反応です」

あなたはウトロの放火をどう思いますか?

そう聞かれたら、ほとんどの人は「ひどい」「許せない」と答えるだろう。

あなたはこの社会から差別を少しでも減らしたいですか?

そう聞かれたら、ほとんどの人はイエスと答えるだろう。

だったら、私たちは無反応でいてはいけないのだ。

差別について知って考えて、「差別をやめろ」「ヘイトをするな」と声を上げなきゃいけないのだ。

そうした小さな声が集まれば、大きな声になるから。

ドイツでは義務教育でナチスとホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の歴史を詳しく学ぶそうだ。それは二度と同じ間違いを犯さないためにである。

一方、日本の学校では植民地支配について詳しく教えないし、複数の教科書から「従軍慰安婦」「強制連行」といった記述が削除・変更された。

歴史は人が作るものであり、人は間違いを犯す。それを教えることが次世代に対する責任だろう。

進撃の巨人』にこんなセリフが出てくる。

「君たちに責任は無い。同じ民族という理由で過去の罪を着せられることは間違っている。お前たちも世界の憎しみを一身に背負ういわれは無い。だがこの血にまみれた愚かな歴史を忘れることなく後世に伝える責任はある」

今年二月に、安田菜津紀さんのRadio Dialogue「今、改めてフェミニズムを考える」回に出演させてもらった。

(アーカイブはこちら

フェミニズムの話をしながら、私はなぜか最後にうんこの話をしている。

油断するとうんこと口走る、そんな見た目は中年、中身は子どもの逆コナンくんな私だが、大人の責任を果たしたい。

だから叩かれても、フェミニストとして発信し続ける。

フェミニストは「男の敵」「男嫌い」とレッテル貼りされてきたけど、フェミニストの敵はセクシスト(性差別主義者)だ。

フェミニズムが目指すのは、弱いものが弱いままで尊重される、誰も排除されない、みんなが共生できる社会だ。

この社会を少しでもマシにするために、子どもが守られる社会にするために、私もがんばるから。

だから子どもの皆さん、差別する大人にならないでね。夏休みに『あなたのルーツを教えて下さい』を読んでもらえると嬉しいです。

*   *   *

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アルテイシアの59番目の結婚生活

大人気コラムニスト・アルテイシアの結婚と人生にまつわる大爆笑エッセイ。

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アルテイシア

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、恋愛、家族問題などについて執筆、講演や授業も多数行う。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。
著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他多数。

X(旧Twitter) https://twitter.com/artesia59
インスタグラム https://www.instagram.com/artesiajj/
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