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ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.08.07 更新 ツイート

山梨県は「富士山だけ」じゃないぞ。ちなみに、富士山登山は、普通の山登りとはだいぶ違います 宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介しているニッポン47都道府県 正直観光案内。文庫化記念で試し読み。お次は富士山がある山梨県!

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山梨県

山梨県といえば、まず何を置いても富士山から語りはじめなければなりません。

東京方面から中央高速もしくは中央本線を利用して富士山へ向かうと、大月で河口湖方面へ分岐もしくは富士急行に乗り換えます。その先、道も線路もくねくねと曲がりながら、山の合間合間に富士の姿が見え隠れするようになります。富士山の写真は日本人なら誰でも見たことがあるわけですが、それでも実物を見るとおどろきます。

でかい。思っていた以上にでかい。

山というのはだいたいこのへんにてっぺんがあるもの、といつもの調子で考えていると、それよりはるかに高くそびえたつ姿に威圧感を覚えるほどです。日本一の山と知っているからそう感じてしまうのでしょうか。威圧感といっても、形は美しく裾野は広く、まったく富士山の素性を知らない人間でも感動するはずです。

ちなみに富士急行に乗っているとやがて富士山駅に到着しますが、この富士山駅という名前はなんとかならないのでしょうか。ここからバスに乗って富士山に向かう起点なのだとしても、富士山麓もしくは富士山口とでもすべきで、富士山は盛りすぎです。めっちゃ町のなかです。かつて山陰本線に出雲大社口駅があり、出雲大社ははるかに遠いのにまちがえて降りてしまう人が続出、大問題になったのを思い出します。

ともあれ、日本一の山となれば誰もが一度は登ってみたいと思うもの。私も一度登りにいきました。そうしたら何ということでしょう、想像していた山登りとは全然ちがうではありませんか。

山登りといえば、ふつうは森を歩き、沢のせせらぎを聞き、ときには池塘(ちとう)だの巨木だの可憐な花などに出会い、また動物の姿を見たりもし、不意に視界が開けて素晴らしい眺めを堪能したりと、いろいろ緩急つけながら登っていくものです。しかし富士山にそんな旅情は一切ありません。あるのは砂と石のみ。道はひたすら、坂、坂、坂です。

森林限界を超えている五合目より上に森はなく、形のシンプルな単独峰なので道に変化もありません。眺めだけは一流ですが、最初からずっと下界が見えているので、すぐに感動はなくなり、とにかくただただ崩れやすい砂と石の坂道を、折り返しながら延々と登っていくだけです。

もちろん日本一の山頂に着いたときは達成感がありました。でも、また登りたいかといわれると微妙。山というより坂登り、それが富士登山の現実。一度富士山に登ってもう山はこりごりという人がいたら、こう言ってあげたい。ふつうの山はもっと楽しいと。

富士山以外はどうでしょうか。

山梨県というと浮かぶのは富士五湖忍野八海(おしのはっかい)、そして多くの山や渓谷。とりわけエメラルドブルーの淵が美しい西沢渓谷や、川遊びが楽しめる尾白川(おじらがわ)渓谷など、ちょっとしたハイキングにうってつけのスポットであふれています。

美しい釜の連続する西沢渓谷は初心者でも歩けるハイキングコース。(イラスト:宮田珠己)

しかしそんなお手軽な山と渓谷に気を取られ、みんな大事なことを忘れてはいないでしょうか。そう、富士山に次ぐ日本第二の高峰=北岳も山梨県にあるということを。

というか、日本で二番目に高い山が北岳だということもおおむね忘れています。

北岳は標高三千百九十三メートル。甲斐駒、仙丈ヶ岳(せんじょうがだけ)、間ノ岳(あいのだけ)、農鳥岳(のうとりだけ)などとともに山梨県の西に壁のようにそそりたっています。つまり南アルプスですが、山好きを除くと、ほとんどの人は南アルプスに天然水以外何があるのか知りません。北アルプスについては、穂高だの槍ヶ岳だの白馬大雪渓だの上高地だのいろいろ知っていますが、南アルプスとなると、農鳥岳? なんだその変な名前、ってなもんです。雪解けの頃、解け残った雪の形が鳥に見えたら田植えを始めたことから農鳥岳と呼ばれるそうですが、ネットで検索しても鳥らしい雪形の画像が出てきません。本当にあるのでしょうか。

明るくてかっこいいイメージの北アルプスに比べ、南アルプスは地味で暗い印象です。実際、北にくらべて緑が濃い気がします。そうするとどうなるでしょうか。

知名度低い+緑が濃い=秘境感UP

ということになります。

切り立つ峡谷の奥の別天地 奈良田温泉

下部温泉付近から南アルプス街道と呼ばれる県道三十七号線が北岳のほうへ伸びていまが、この道をバスに乗って奈良田温泉へ向かうと、切り立った峡谷の壁があちこちで崩落して、そこらじゅう工事中だったのを覚えています。どこのヒマラヤかと思いました。奈良田温泉まで来ると景色は広がってあか抜けるのですが、それでいて俗世間とは切り離された

「ここにいれば誰にも見つからない」感が漂っています

県道三十七号線はこの先通行規制がかかっており、ストリートビューも引き返します。その奥には、原生林の紅葉が見事な白鳳(はくほう)渓谷があって、バスなら通れるとのことなのでいつか行ってみたいものです。

ジェットコースター天国 富士急ハイランド

そうそう、肝心な場所を忘れていました。富士吉田にある日本二大遊園地のひとつ富士急ハイランド

日本の二大遊園地はTDなんとかやUSなんとかでは断じてありません。なぜなら遊園地の優劣はジェットコースターの数で決まるからです。誰がそんなこと決めたのかというと私です。富士急ハイランドには大人向けのジェットコースターが四つもあって、ここにその栄誉を称え表彰します。

そのほか地図を見ると山梨県は甲府盆地を中心にだいたい丸くまとまっていますが、最近なぜか左のほうだけ垂れ下がっていることが確認されました。東京方面からだと富士山の陰に隠れて見えないこの部分にいったい何があるのか、今後の調査が待たれます。

 

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この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

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ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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