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ライムスター宇多丸のお悩み相談室

2022.07.29 公開 ツイート

自分の悪口をSNSで見てしまったとき、どうする? 宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)

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自分への悪口を聞いてしまったり、SNSで見てしまったとき、どうしますか?
(2021年5月8日)

自分への悪口を聞いてしまったときの対処について相談です。よくあるのがSNSで「これ絶対私のこと言ってるだろうな」というものを見てしまったとき、次にその人に会った時、顔が引きつってしまいます。あるいは、たまたま会議室から自分についての話が聞こえてきてしまった場合、そして誰かから「あなたのこと○○だと言ってたよ」と聞く場合。いずれも仕事関係のことで起こることなので、自分が悪いなと思ったことは直せばいいし、言ってる人とは距離を取ればいい、気にしなければいいと基本は思っています。でも……、といっても人間だもの、気にしたり、怒りが湧いてくることもあります。主に怒り、でしょうか。でもその言ってる張本人に向かって「聞いたんだけどさ」というのも変ですし。この怒りの行き場をどこへやら……、で、ここに投稿してしまいました。(イカ太郎・34歳・東京都・会社員)

こばなみ  この相談を読んでいて思い出したのが、だーいぶ前の話ですが、打ち上げかなんかで泥酔して仲間内で雑魚寝していたときにパッと目が覚めてしまって、偶然自分への陰口を聞いてしまったことがありまして。聞きたくないから、寝よう寝ようとするんですけど、そういうときに限って全然寝られない(笑)。こんなタイムリーなことってあるんだって、思いましたよ。

宇多丸   うわ、最悪の体験じゃん……! そのあと、どうしたの?

こばなみ  その内容がちょっと誤解だよ! ってこともあったので、言い返したかったんですけど、そのときはもう反撃する元気もなく寝たフリしました。で、あとになって「あのとき、聞こえてたんだけどさ」って言うのも微妙だなと思ったし、面倒くさくなっちゃって、悔しい気持ちもあったけど、もうそのまま飲み込んじゃいました。

宇多丸   そこにいたのがまぁまぁカジュアルに言い合いができるようなメンツなら、やおらガバッと起きて「聞こえてますよ!(怒)」と先に言っちゃって、気まずさを少し中和しといてから自分も会話に入ってゆく、とかもアリだったろうけど、その気力も湧かなかったと。

要は、考えを改めてもらうために何か頑張るほどの関係性でもないし、ってことだよね。ていうか、そもそもそういうしょーもない陰口叩く人って、その程度の距離感だからこそ、だったりするもんね。

僕はもう、自分もそこまで好きなわけじゃない人に誤解されたり嫌われたりすることに関しては、「まぁお互い様だし、おあいこだね!」と、ちょっと頑張ってでも考えるようにしてますけどね。要は、断片的に見聞きしたことだけでその人をジャッジして、勝手にこういう人だと決めつけているという意味では、自分だって同じようなことを事実上しているわけだし……みたいな。それで完全に気がラクになるわけじゃないけど、少なくとも「考えの止めどころ」はつくれるかなと。

ただ確かに、それでも表面上何事もなかったようにその人と顔を合わさなきゃいけないとしたら、理不尽なことになぜかこっちがものすごく気をつかわなきゃならないことになるわけで、それはもちろんむちゃくちゃ疲れるし、やっぱ腹も立つよね。「この人は私のことを実はよく思っていない、しかもそれをこちらには知られていないと思ってる……って、私はどんなツラしてればいいの?」ってなるよそりゃ。

こばなみ  直で聞いちゃうケースはかなりレアだと思うんですけど、誰かから「あなたのこと○○さんがほにゃららって言ってたよ」と聞くというのは、以前のお悩み相談でもたまにありましたね。「頼んでねぇのに陰口わざわざ告げ口すんなよバカヤロウ」って。

宇多丸   一番信用ならないのはソイツ、以上!

一方、SNSで遠回しに当てこすられるというのは、確かに今の時代、誰もが遭遇する可能性がある話ではありますよね。とはいえ名指しされてるわけでもないから言い返したり申し開きすることもできない、という……その構造込みで、卑劣なふるまいだというのは言うまでもないことですが。

僕が聞いた話だと、友人などへのイヤミをツイートするときだけ、英語で書く、っていう人がいるそうですよ。

こばなみ  え───! そこまでして書く!?

宇多丸   僕も不思議な心理だなぁと思うけど、正直SNSではありがちなスタンスでもありますよね。秘密の日記にでも書けばいいようなことをわざわざ誰でも読める場所に置くというのは、ただただ一方的に、「それでも“誰か”にはわかってほしい」って感じなんだよね、きっと。

なんにせよさ、それはイヤミを書かれる側の、目の届かないところでやってくれよ! って話じゃん。でも意外とみなさん普通に、鍵をかけてないどころか、相互フォローしてるから私が見るのもわかってるはずなんですけど……って状態なのに、それでもやっぱり遠回しの非難とか、する人はしますよね。どうしたいんだよホントに……。

陰口くらいは誰でも叩くもんだとしても、叩き方のマナーがなってないんだよ!

ちなみにああいうの、ぼかして書いてあるぶん、実際には標的じゃないほかの人も、「ひょっとして私のこと?」って思っちゃったりするじゃん? だからやっぱ、静かに静かに、人望を失っているんだと思いますよ、うっすら感じ悪いことばっか書き散らかしてるような人は。今回は違っても、いつ自分も攻撃対象になるかわかったもんじゃないし。

さてどうしたもんか、ということですけど……、ちなみにイカ太郎さんは、「聞いたんだけどさ」は変ですし、とおっしゃってますけど、そうやって正面突破するのも、全然ひとつの手だと僕は思いますよ。こっちに落ち度があると思えるなら、ストレートに謝ればいい……というより、だったら謝る必要がそもそもあるわけだし。納得できないなら、「ちょっと申し開きさせてもらえませんか」とお願いする権利だってあるはずですしね。

で、どっちにしたって言われたほうは、相当狼狽するんじゃないですかね。人前ならなおさら。そしておそらく大抵は、あれはあなたのことを言ったんじゃないとかなんとか、なんらかの弁解が始まるんじゃないかなぁ。

僕も15年以上前、杉作J太郎さんに「杉作さん、僕のことを殺すらしいですね」って直接詰めよったことがあるらしいですよ(笑)。僕はあんまり覚えてないんだけど……。

こばなみ  はっきり悪口までいくと聞けたりすると思うんですけど、モヤモヤした気持ちを書いてる人もいるじゃないですか。その場合は、聞くに聞けないし……。

宇多丸   でも、さっきも言ったように、SNSがそういう感じの人って、周囲の人からはだんだんと敬遠されてくもんだとも思いますけどね。心ある共通の知人友人などとそのへんが共有できさえすれば、だいぶ気がラクになったりしませんかね。「まーたあの人ああいうこと書いてるよ、困ったもんだね(笑)」とかって。陰口返しだよ! そうやって、味方になってくれるまともな人もいっぱいいる、と確信できるようになれば、もうほぼ解決も同然じゃないですか?

たとえばさ、そういう人のSNSって、自分の悪口っぽいところだけ気になっちゃうかもしれないけど、十中八九、ほかの人のことも同じ調子で言ってたりするから。そこで、こと第三者のことだと、よりはっきり自信を持って言いきれたりするじゃん?「あーこれは完全に勘違いしてる」「間違ってるのはコイツのほうだ」とかって。となると、孤立してるのはむしろコイツなんだな、というのが浮き彫りにもなってくるじゃないですか。そこで軽く同情の念でも湧いてくるようなら、もう大丈夫! 精神的に完全に優位に立ったわけだから。

あともうひとつ、これはあまり積極的に認めたくはないことだけど、陰口をまったく叩かれてない人なんていない、というのも絶対的真実としてあるわけでしょ。

こばなみ  まさに!

宇多丸   まして陰口って、はっきり「嫌い」っていうのとも、実はまたちょっと違う話だったりするじゃん? あくまで人間関係の文字どおりガス抜き程度のものであって、本当に正さなきゃいけないような何かがそこにあるとは、言ってる当人もそこまで思ってないってことがほとんどだから、陰口自体はこの世の必要悪というか、あっても仕方のないことの部類なのかなと。

だからこそ、もちろん同時に、その抜いたガスを、よりによってこっちに向かって吹きかけるようなマネは許されないわけだけど。それによって、陰口段階ではふわふわと内包されているだけだった悪意成分が、完全に実体化してしまうわけだから。余計に関係をこじらせるんじゃ本末転倒だよ! しかも発した当人は、それに対する責任意識も対処法もまったく持っていない、という……。

つまり、やはり本人の目や耳に届く可能性がある場でのうかつな悪口、およびそれを本人にわざわざ伝えてまわるような有害なお節介は、「悪意を無責任に実体化させる行為」だからダメなんだ、ってことですね。

これはすなわち「人の振り見て我が振り直せ」ということでもあって。やっぱさ、なんの気なしに言ったようなことが、どこでどう伝わるかもわかんないわけだし。

たとえば、自分がどこかで軽くチクリと言ったようなことが、回り回って本人にははっきり悪口として届いてしまい、しかし直接もめたりするほどの距離感でもないため、先方も黙ってはいるけど、実はすごく怒ってるし嫌悪を感じてる……みたいなのって、つらいけどやっぱ、現に全然あることだと思うんですよね。まさに今回の相談を逆転させたような立場に、誰もがなりうるし、たぶんすでになってもいるわけですよ。

人が陰口叩くのはある種しょうがないことだし、それ自体がまるごと否定されるべきものでもないけども、その取り扱いには、我々みんながもっと慎重であるべき、というのは確かでしょうね。なかなか実践しきれてはいないけれども……。

とまぁこんな感じで、すべてがすっきりクリアになるような出口がある案件ではないため、感情の整理の仕方をいくつか提案させていただくかたちになりましたが、いかがでしょうか。適宜、お役に立ちそうなところをピックアップしていただければ!

こばなみ  私は「まぁお互い様だし、おあいこだね」思考はいいなぁと思いました。これでけっこう吹っ切れそう!

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関連書籍

宇多丸/小林奈巳(女子部JAPAN)『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』

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宇多丸 ラッパー、ラジオパーソナリティ

1969年東京都生まれ。早稲田大学在学中にMummy-Dと出会いヒップホップ・グループ「RHYMESTER(ライムスター)」を結成。ジャパニーズ・ヒップホップシーンを開拓/牽引し、結成30年をこえた現在も、アーティストとして驚異的な活躍を続けている。2007年にはTBSラジオで『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がスタート。09年に「ギャラクシー賞」ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞するなど、ラジオパーソナリティとしても活躍。同番組内の映画批評コーナーなどが人気を博す。18年4月からは、同局で月~金曜日18~21時の生放送ワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティをつとめている。著書に『ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門』『森田芳光全映画』『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』などがある。

小林奈巳(女子部JAPAN)

愛称・こばなみ。株式会社都恋堂・代表取締役。出版物や広告コンテンツの編集業務を経て、2010年に「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ・メディア「女子部JAPAN」として、全国2万3千人の30~40代女性を対象に、ココロとカラダを元気にするためのコンテンツ&イベントを企画・実施中。仕事は好きだが、PCのデスクトップと部屋がどうしても片付けられないのが長年の悩み。

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