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アルテイシアの59番目の結婚生活

2022.07.18 更新 ツイート

『老後は沖縄に住みたいな』 アルテイシア

大学1年生の冬、阪神大震災で被災した。

毒親育ちの私は「このままじゃ親か自分を殺してしまう」と追いつめられて、大学進学を機に家を出た。

バイトしながら安アパートで暮らして、生活は苦しかったけど、かわりに自由を手に入れた。

もう毒親に怯えずにすむ……とホッとした矢先に、あの地震が来たのだ。

あれは地震の3日後だったか、瓦礫だらけの三宮の街でバッタリ父に出くわした時「なんやおまえ、生きとったんか」と言われた。

 

そこから私は酒とセックスに溺れることになる。

「何もかもぶっ壊してやる……!!」と破壊神のような勢いで、酔っ払ってゆきずりの男とやりまくった。

「そんなの危ないよ」「自分を大切にして」と心配してくれる女友達もいたけど、親から死んでもいいと思われている人間が、どうやって自分を大切にできるの? と聞きたかった。

私が死んだらあなたたちは泣いてくれるよね、でもきっと何年かたてば忘れるよね。

また大きな地震が来たら、あなたたちには真っ先に探してくれる家族がいるよね。でも私にはそんな存在がいないんだよ。

あなたたちも真っ先に探すのは私じゃないでしょ?

……と自暴自棄になるのも当然だと思う。だって私はまだ18歳の子どもだったのだ。

震災後、私をさらに苦しめたのがメディアの報道だった。

震災報道では「支え合う家族の絆」が強調されて、それがない私は孤独に追いつめられた。

「負けるな! がんばれ!」というメッセージに「これ以上どうがんばれと?」と聞きたかった。

被災地を自分たちの感動のために利用するな。安全な場所から都合よく消費するな。こんなの震災ポルノじゃないか。

そう抗議したかったけど、生きることに必死でそんな余裕はなかった。

当時はスマホもSNSもなくて、どこにどう助けを求めればいいのかもわからなかった。

当時「被災地のリアルを感じたい」とか言って、ボランティアをするでもなく、ただ神戸の街を見に来る人々がいた。

「見世物じゃねえぞ」と強い怒りを感じたけれど、そんな私も沖縄を都合よく消費していたのだ。

それに気づかせてくれたのが、上間陽子さんの著書『海をあげる』『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』である。

前著に収録されている「きれいな水」というエッセイで、上間さんはこう書いている。

『保育園の先生たちが大事に育てて、娘はほんとうに水が好きな子どもになった。お風呂に入ると娘は蛇口に口をつけて水を飲む。水をはったバケツがあると、娘はバケツに入って水と遊ぶ。海でも川でも、娘はまっすぐ水に入る。

そろそろ娘の遊ぶ浮き輪やバケツを出そうかと思いながら過ごしていた2019年の五月、うちの水道水が汚染されていることがわかった』

宜野湾市の住民の血液検査をしたところ、発がん性などのリスクがあるという有機フッ素化合物の血中濃度が全国の約4倍~53倍の数値を示したそうだ。水源は嘉手納基地近くの北谷浄水場である。

水の問題だけではなく、音の問題もある。

『100デシベルの爆音をたててアメリカ軍の外来機が飛んでいる。(略)飛行機が接近すると家全体がガタガタ震えるから、娘はおびえて、ひどいときには泣き叫ぶ。だから、飛行機が飛んでいる時間、私は娘のそばから離れない』

私は今、神戸の自宅でこの文章を書いている。

なんの心配もなく水を飲んで風呂に入り、爆音で家が震えることもない。私が住む街には基地がないから。

本のタイトルにもなっている「海をあげる」というエッセイで、上間さんはこう書いている。

『東京で暮らしている時に驚いたことのひとつは、軍機の音が聞こえないということだった。

(略)私が沖縄出身だと話すと、沖縄っていいところですね、アムロちゃんって可愛いよね、沖縄大好きですなどと仲良くしてくれるひとは多かったが、ああ、こんなところで暮らしているひとに、軍隊と隣り合わせで暮らす沖縄の日々の苛立ちを伝えるのは難しいと思い、私は黙り込むようになった』

『1995年に沖縄で、女の子が米兵に強姦された事件のときもそうだった。

基地に隣接する街で、買い物にでかけた小学生が四人の米兵に拉致されたこと、あまりにも幼いという理由で一人の米兵は強姦に加わらなかったものの、残りの三人は浜辺でその子を強姦したこと、沖縄では8万5000人のひとびとが集まる抗議集会が開かれたこと。東京でも連日のように、この事件は報道された。

(略)被害にあったのはこの子だけじゃない。手のひらに、草を握りしめたまま強姦されて殺された女の子の母親は、腐敗した娘の服さえ捨てられなかったと聞いている』

『抗議集会が終わったころ、指導教員のひとりだった大学教員に「すごいね、沖縄。抗議集会に行けばよかった」と話しかけられた。

「行けばよかった」という言葉の意味がわからず、「行けばよかった?」と、私は彼に問いかえした。彼は「いやあ、ちょっとすごいよね、8万5000は。怒りのパワーを感じにその会場にいたかった」と答えた。私はびっくりして黙り込んだ。

(略)それから折に触れて、あのとき私は何といえばよかったのかと考えた。私が言うべきだった言葉は、ならば、あなたの暮らす東京で抗議集会をやれ、である。

沖縄に基地を押しつけているのは誰なのか。三人の米兵に強姦された女の子に詫びなくてはならない加害者のひとりは誰なのか』

この文章を読んで、私は頭を垂れたまま呟いた。

「言ってたわ、自分も」

沖縄出身なんだ、いいね~私も沖縄大好き! 去年も旅行に行って、マングローブツアーとかシュノーケリングとか最高だった。私は寒いの苦手だから、老後はのんびり沖縄に住みたいな……とか言ってたわ、自分も。

自分はこの指導教員ほどバカじゃないと思いたい。でも自分だって目くそ鼻くそのバカである。

上間さんのおかげで、おのれは鼻くそだという事実に気づけた。

痛みのない場所から想像力のない言葉を垂れ流し、安全な場所から都合よく沖縄を消費する、そんな吾輩は糞である。

しかし糞は糞でも、考える糞でありたい。

私はもう二度と「沖縄で癒されたいな~」とか言わない。私たちが沖縄に押しつけてきた問題をもっと知って学んで考えたい。

震災ポルノにバチギレていた私も、沖縄を無邪気に消費していたのだ。

「沖縄って人も暖かいよね」「人の絆があっていいよね」とか思っている人は『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』を読んでほしい。

すると沖縄の都合の悪い部分は見たくない、見ようとしなかったことに気づくだろう。

本書には、暴力と貧困の中で生きる少女たちの話が綴られている。

彼女らは10代で子どもを産み、ひとりで子どもを育てるために、風俗やキャバクラなどの夜の業界で働いている。

沖縄の最低賃金は日本一低く、シングルマザー率は日本一高い。

『これは、私の街の女の子たちが、家族や恋人や知らない男たちから暴力を受けながら育ち、そこからひとりで逃げて、自分の居場所をつくりあげていくまでの物語だ』と上間さんは書いている。

そんな女の子の1人、16歳で母になった鈴乃の物語を紹介しよう。

鈴乃の父親は仕事をしておらず、家にもめったに帰ってこなかった。

母親は夫と離婚して、喫茶店のウェイトレスとホステスのダブルワークをしながら4人の子どもを育ててきた。

鈴乃が高校2年生になったころ、妊娠していることがわかった。子どもの父親である恋人からの暴力はやむことはなかった。

鈴乃の娘、理央は妊娠七か月の早産で生まれる。出生時の体重は914グラムで、NICUで治療を受ける必要のある超低体重児だった。

鈴乃は毎日、理央に会いに病院に通った。こうしたなかでも恋人の暴力は続いていた。

鈴乃は「このままでは殺される」と思い、何度も警察に駆け込んでいる。

でも、入籍していないカップルの暴行は保護の対象ではないといわれ、警察署から追い返された。

そんな鈴乃に対して、看護師のひとりは「病院はいつでもあいているから、何かあったら病院に逃げておいで」と話した。

別の看護師は自分の携帯電話の番号を書いた手紙を渡して、いつでも連絡をしてほしいと告げた。

鈴乃はその病院に駆け込むことも、看護師に電話をかけることもなかった。

それでもそのときにもらった手紙のひとつを手帳に挟み、いまでも毎日持ち歩いている。

理央が一歳を過ぎたころ、重い脳性麻痺があるとの診断が出た。

17歳の鈴乃は恋人と別れて、夜はキャバクラで働きながら娘を育てる。

その後、休学していた高校の定時制課程に入りなおす。

夕方になると、カバンに仕事用のドレスをつめこんで学校に行き、夜、学校が終わったらそのまま出勤するようになる。

鈴乃は自分がDVを受けていることに気づき、声をかけてくれた看護師たちにずっと憧れていた。

そして自分も看護師になりたいという思いを抱くようになる。

その後、鈴乃は看護師専門学校を受験するための塾に通いはじめた。

三年後には看護専門学校に合格し、週末はキャバクラで働きながら、平日は朝九時から夕方五時まで学校に通って勉強を続けた。

学校の最後の実習は、生まれたばかりの理央が入院していた病院だった。

実習中、お世話になった看護師たちが「理央のママでしょ」と気づいてくれて「がんばってるさぁ!」と看護師のタマゴになっていることを喜んでくれた。

現在、鈴乃は看護師として働いている。

「いままで知らなかった障がいをもって生きるひとのこと、脳性麻痺をもち生活すること、病院で生活するひとたちのこと、理央のおかげで、自分はいろいろなことを知ることができた」と彼女は話す。

そして「理央がいなかったら、ずーっと私はアホだったかも」と笑う。

私はこの鈴乃の話に涙が止まらなかったけど、それだって消費しているのかもしれない。

けれども、強く思う。暴力や貧困の中で生きる人々は声を奪われる。その声を誰かが伝えなきゃいけないと。

上間さんの著書を読むとわかる。彼女らはわずかな選択肢の中から、ベストだと思える選択をしている。一番マシだと思える道を必死で選んでいる。

だけど、この世界には落とし穴が多すぎる。

福祉が機能していない社会で、少女たちは切り捨てられる。それは私たち大人の責任であり、社会や政治の責任だ。

私もかつては17歳の少女だった。

家が安心できる場所じゃなかったから、そこから逃げるしかなかった。

誰も助けてくれないんだから、自分で何とかしなきゃと思っていた。人に迷惑をかけちゃいけない、すべては自己責任だと思い込まされていた。

私が生き延びられたのは、たまたまラッキーだっただけだ。

親はクソで実家は肥溜めだったけど、教育は受けられたし、大学に進学して教育関係のバイトで金を稼げた。

生まれる環境が違っていれば、私も身体を売っていたかもしれない。落とし穴に落っこちて、そこから逃げられなかったかもしれない。

「くるされる」とは、ひどく殴られることを意味する沖縄の言葉だそうだ。

殴られ続けてきた人は、言葉を奪われる。優香という少女が上間さんに語る。

『くるされて、それが怖くて、また逃げて……いつも逃げる、いつもだよ。怖くて逃げる。逃げて、くるされる。……なんで私はいつも逃げるかね……』

私たちは彼女らの言葉を聞かなくてはならない。

*   *   *

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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