1. Home
  2. 読書
  3. アルパカ通信 幻冬舎部
  4. 越谷オサム『たんぽぽ球場の決戦』/井川意...

アルパカ通信 幻冬舎部

2022.06.25 公開 ツイート

第9回

越谷オサム『たんぽぽ球場の決戦』/井川意高『熔ける再び ~そして会社も失った~』―青春の煌めきに熱くなりたいか?社会の闇を覗きたいか? アルパカ内田/コグマ部長

一日一冊読んでいるという”本読み”​​​​​​のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。

そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。

*   *   *

元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第9回 越谷オサム『たんぽぽ球場の決戦

かつて「超高校級ピッチャー」ともてはやされた大瀧鉄舟の人生は、見事なまでに停滞していた。だが、ひょんなことから草野球チームを立ち上げたことで、彼の日常に変化が訪れる。集まったのは結構クセ強な男女八人。野球のレベルは高くない。でも、みんなどこまでもひたむき。そんな彼らが迎えた初の対外試合。ドタドタ走って、ポロポロ落として、勝利を摑むことはできるのか?

こんにちは。薄給より白球が好きなアルパカ内田です。

『陽だまりの彼女』で日本中を剛球ならぬ号泣させた越谷オサムの最新刊はど真ん中ストレート勝負の渾身作だ。タイトルを並べればすぐにリーグ戦が可能なくらいこの世に野球小説は数多あれど、この清々しいまでの痛快さは優勝争いに加われること間違いなし。「野球は人生そのものだ」と言ったのは長嶋茂雄だが、これを読めば「野球文学は人生それ以上である」ことを思い知るはずだ。

夢破れた元高校球児がひょんなきっかけで始めた草野球チーム。ぎこちなく集まる仲間たち。練習方針の基本は「怒鳴らないこと」。気持ちよくプレーをすることだ。思いやりの精神から互いに弱点を補い合う空気が自然と芽生えていく。単なる野球小説というより陰影のある人間ドラマであり、いつしか自分もチームの一員のような気持ちとなっていることに気づかされるだろう。

ナイン全員が挫折を味わっていることが最大の共感ポイント。ままならぬ運命、一筋縄ではいかない毎日。誰もが曲がりくねった道を辿って生きている。老若男女の個性的なメンバーたちが背負っているのは背番号だけじゃない。それぞれの生き様を刻みつけた重たくも誇らしき十字架なのだ。

終盤の試合の高揚感は著者の代表作『階段途中のビッグ・ノイズ』に勝るとも劣らない素晴らしさ。むき出しの感情の発露に全身が心地よく揺らめいた。この感動がたんぽぽの綿毛のように広く拡散することを願ってやまない。

アルパカ内田さんの手描きPOP!

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
井川意高『熔ける再び ~そして会社も失った~

創業家三代目であり大王製紙元会長・井川意高によるノンフィクション。カジノで106億8000万円を失い、会長を辞任、そして投獄された井川。その裏で画策されていた、現会長一派による“創業家排除”のクーデター劇のすべて。

一方こちらは、カジノで巨額のカネを熔かした男の物語。著者は、自身が社長、会長を務めていた時に、ギャンブルによる負債の返済に使う目的で子会社から55億3000万円を借り入れた。それが特別背任にあたるとして、懲役4年の実刑判決を受けた。

本書はその刑期満了後、韓国のカジノに向かうシーンから始まる。手元には3000万円の現金。「この種銭を元手に、今回はどこまで勝てるかな……」。懲りていない。またやった。韓国で4日間のギャンブルの果て、3000万円は9億円に。これで106億円の負けが取り戻せるのではないか……。著者の夢想は確信になり、時間をおきながら賭けを続けるが、結局全部熔かしてしまう。そして、その翌年にはシンガポールで1か月間カジノに明け暮れ、今度は4000万円を熔かす。「ギャンブルバカ一代」は、自分の身を危険極まりないエッジの先端に置き、脳髄がしびれるような勝負をしないと生きている心地がしないのか……。狂ったのはギャンブルだけではない。受刑時には獄中から手紙で指示を出し数千万円のフェラーリを次々と購入。買った車はただ停めておくだけにもかかわらずだ。本書はこんな人生を送った孤高のギャンブラーが自分を冷静に語った告白記である。そして、そのいわば放蕩記以上に面白いのが、著者の一族を大王製紙から追放しようとする一派の狡猾なクーデターの全真相。それはドラマよりも生臭く、ギャンブルよりも血がたぎる。

こんな、けっしてだれにも真似できない日々を生きる男の唯一無二の傑作ノンフィクションをぜひ!

{ この記事をシェアする }

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。

幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!

バックナンバー

アルパカ内田 ブックジャーナリスト

内田剛(うちだたけし)。ブックジャーナリスト。約30年の書店勤務を経て2020年2月よりフリーランスに。NPO法人本屋大賞実行委員理事で創立メンバーのひとり。文芸書をメインに各種媒体でのレビュー、学校や図書館でのPOP講習会などを行なっている。これまでに作成したPOPは5000枚以上で著書に『POP王の本!』あり。無類のアルパカ好き。
Twitter @office_alpaka

コグマ部長

太田和美(おおたかずみ)。幻冬舎営業本部で販売促進を担当。本はミステリからノンフィクションまでノンジャンルで読みまくる。アルパカ内田(内田剛)さんとは同学年。巨人ファン。
Twitter @kogumabuchou

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP