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夜のオネエサン@文化系

2022.06.17 更新 ツイート

私は最悪で地元が最高で女が最強~「地元最高!」 鈴木涼美

先日ツイッターを見ていたら、とある女性のツイートが一部で話題になっていた。正確に言うと私はその話題になっている様子を察知するほど感度が高くなく、ほぼSNSを友人らの生存確認くらいにしか使えていないのだけど、友人の一人で割と平和に体重が何キロになったとか深夜にお菓子食べたとかいう報告を書き込んでいる夜のギャルのその日のツイートが異様にリツイートされたり辛辣なコメントがついたりしているのを発見したのであった。それで、「ギャル、燃ゆ」な状況が面白いのでコメントなど読んでみたら、どうやら彼女のツイートは、とある話題のツイートに反応したものであったことから、大元となっている話題のツイートになんとか辿り着いたわけである。

 

話題となっていたのは女性起業家のツイートで、とある高級カメラを持っていたら「パパ活で買ってもらったんでしょ?」と言われて悲しいという内容のもので、後段の「なぜ『女性である』というだけで、性的消費をされる貧乏人と決めつけられるの?」という一文が、一部の激しい同意と、一部の強い反発を受けていたようだった。

性的消費をされる貧乏人とはなかなか人目をひくコピーだが、正確に言うと性的消費は性的に消費されることを目的としていないものに対してもなされるものなので、パパ活女性は性を売る貧乏人とか性を商品化する貧乏人とか積極的に性的消費されて対価を受け取っている貧乏人とでも名づけた方がしっくりくる気もする。性的消費されるつもりが毛頭ない女性起業家や女性アナウンサーやダンサーや学者であっても、逞しい性欲をお持ちの奴は性的消費するわけで、そういう時にハレーションが起きる。

私は生まれてこの方ずっと吉川晃司と朝青龍と漫画『クローズ』を性的消費しているのだけど、彼らも私に性的消費されるために生まれてきたわけではないだろう。もしかしたらこの起業家には、パパ活女子と一緒にされたくないという気持ちと性的消費されたくないという気持ちが両方あったのかもしれません。それは全く別の欲望ではあるが、寝ても覚めても売春について考えている私が勝手に外から推測すれば、そこで守られるのは同じプライドかもしれないとも思う。

さてそれは結構どうでもよくて、私がなんとなく感慨深いなと思ったのは、かつて一部の女たち――それは私を含むのだけど――にとって、自分で買ったもののくせにいかにも男に買ってもらったフリをする振る舞いというのが歴然としてあったことを思い出したからだ。JJとその時代にそういう女たちは多く潜んでいた。私もまた、キャバクラの客に、彼氏に、美味しいご飯と有り余る精子を与えるのが趣味の殿方に、自分が汗水垂らして買ったプラダの財布やシャネルのピアスを、いかにも別の男に買ってもらったように匂わせていたことがあった。

その態度にはそれなりに見返りがある。客であれば別の客にマウントを取るべくさらなる投資をする気になる。彼氏であれば元カレらしき人への絶妙な嫉妬心を育ててやはりマウントを取るべく高額投資をしてくれるかもしれない。そして何より男たちが、この女はかつて誰かしらにプラダやシャネルの金額を払う価値があると思わせた実績がある、この女は男たちに高級品を与えられるくらい魅力的なんだと勘違いしてくれる。私と遊びたいなら同じくらいのもの用意しなさいよね、というメッセージになる。そしてそのうち男たちのその値踏みを自らもインストールして、私って高級な女、という幸福な勘違いもできる。

なんてくだらない、正しさのかけらもない、他者の承認どころか値付けによってしか自分の価値が把握できない、若く不安な、女たちのプライド。そしてそれを支える、男たちのマウント。

そのような愚かで無自覚な男女こそ、件の女性起業家は心底見下したかったのだと思うが、そしてそれに関してはもうホントごめんなさい、JJとその読者たちであった私らによって男のプレゼントの値段で女が自分の価値を測るような事態は再生産され、男たちは高級品を持った女を男の金で暮らす女だと決めつけるようになったんだと思います、重ねてごめんなさい、としか言えないのだけど、「私は男の承認や男の金がなくても自立している」という自尊心をお持ちなら、それをその男どころか全世界に発信しなければ満たされない欲求とはいかなるものなのか、ともちょっと思う。

私は男に高いもん買ってもらえる女なのよ、というプライドより、私は男の金を使わずに高いもん買える女なのよ、というプライドの方が時代的な正当性はあると私も思うが、同意と同情を集めて、自らのプライドの正当性を時代に問わなければ崩れるのだとしたら、その自尊心もまた結構脆弱であるような気もする。

いずれにせよ、どうせ自分で買ったんでしょと言えば「違うもん、私はモテるから財布開かないもん」と反論し、どうせ男に買ってもらったんでしょと言えば「馬鹿にしないで、私は自分で買えるわ」と嘆き、女ってのも大概扱いの面倒臭いものですね。ちなみに私は来月誕生日なんだけど、150万円のカメラならいくらくれてもいいよ、メルカリで売って、数年ぶりにホストクラブでも行くから。

なんだか話が長くなってきたが、女がするとややイガイガする感のある上記のような表明だが、男が発言者だと置き換えると実に滑稽になる。「どうせ女からのプレゼントでしょって言われちゃった。自分で苦労して買ったのにな」なんて言う男がいたら逆に完全なるモテ自慢、モテるだけじゃなくてみんなからモテるでしょモテるでしょって言われていること前提で話すイケすかないやつだし、自分で買ったんだろと言われて「はー? 自分で買わないし! 女が買ってくれるし」なんて言う男は、モテ自慢ではなくヒモ能力選手権とかそっちの話になる。それは生真面目風に言えば、男が稼ぎ、女は貧乏で性的に消費されるしかなすすべなかった構造がまだ意識の中には根強く残っているということなのだろう。だがこういった男女の非対称性を使って、イガイガコンテンツをほっこりコンテンツに置き換えるという試みは時に奇跡を生む。

『地元最高!』(usagi 彩図社 7月28日発売)

長くTwitterなどで人気を集めてきたusagi氏による漫画「地元最高!」がついに単行本化されるらしい。同作は控えめに言って最低な貧困地域の貧困層がクスリを売ったり自らやったり地元の先輩に暴力で支配されたり刑務所から出てきたりする漫画である。小さな地域の小さな地区で育ちSDGsはおろか地球温暖化も景気も選挙も知らないであろう主人公たちは不当な暴力に晒されながらも、なんだかんだ先輩は面倒を見てくれるし稼ぐ術を教えてくれるし地元最高、と言い続ける、実にファンシーな作品である。

ファンシーである所以は、長く男のアンダーグラウンドもので描かれてきた事象を、登場人物を全てお目目くりくりのかわいいギャルたちに置き換えて描いているからだ。ウシジマくんのタッチで描かれればおどろおどろしく悲痛でちょっと怖いそれらも、プリティギャルたちで描かれるとカワイイ。

不良や貧困や裏社会を描いた漫画にはこれまでも女が描かれてきたが、そのような場合に女はほとんどがそれこそ性的消費される貧乏人であって、パチンコ依存売春主婦とか、ヤク中風俗嬢とか、せいぜいクラブに勤めるヤクザの小指ちゃんとかだった。しかし「地元最高!」では通常は男が担っていた暴力描写の方を女に置き換えていて、プリティギャルたちは薬物依存気味でギャンブルも薬物売買も殴る蹴るも窃盗も強盗もするが、売春はしない。

暴力を男から解放し、女を売春から解放する本作こそ実に今日的な意味でのフェミニズム漫画であると、性的消費されていた頃はそんなに貧乏ではなかったが、プライドではなくて加齢によって性的消費されなくなってからは貧乏人である私は見ている。
 

関連書籍

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夜のオネエサンが帰ってきた! 今度のオネエサンは文化系。映画やドラマ、本など、旬のエンタメを糸口に、半径1メートル圏内の恋愛・仕事話から人生の深淵まで、めくるめく文体で語り尽くします。

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鈴木涼美

1983年東京都生まれ。蟹座。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。著書『AV女優の社会学』(青土社/13年6月刊)は、小熊英二さん&北田暁大さん強力推薦、「紀伊國屋じんぶん大賞2013 読者とえらぶ人文書ベスト30」にもランクインし話題に。夜のおねえさんから転じて昼のおねえさんになるも、いまいちうまくいってはいない。

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