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人形怪談

2022.05.20 公開 ツイート

「人形怪談」番外編 田辺青蛙×芦花公園対談(後編)

「これ以上怖いものを書けるだろうか」ホラー作家も戦慄するツイッターが見せる“人間の怖さ” 田辺青蛙/芦花公園

(写真:iStock.com/Koldunov)

致死量の友だち』(二見書房)で初の本格ミステリに挑戦した田辺青蛙さんと、SNS発のホラー作家として注目を浴び、『ほねがらみ』が文庫化されたばかりの芦花公園さん。お互いがお互いのファンであり、好みも似ているというおふたりの話は尽きません。
(構成:宮本幸枝)

ツイッターは極上のホラー小説

田辺 今回初めてお化けや幽霊が出て来ない、「人」が怖い作品を書いて、思ったのは、やっぱり現実のほうが怖いなって。「怖い」って、究極のところ人間なのかなと。これを言うとかなりいろんな怪談作家さんから怒られるんですが、人って怖いですよね。それも、人の執着は怖い。芦花公園先生のどの話にも、共通して「執着」がひとつのテーマとしてあるように思いました。

 

土地の因縁とか悪霊は、引っ越せば済む話だったり、祓えばいい話だったりする。でも人間はそうはいかない。ストーカーだったり、新しく出会う人だったり、執着を生む原因が自分の容姿とか性格ゆえにだと、どうしようもないじゃないですか。それが親だとなかなか縁も切れないし。芦花公園先生の作品は、そんな「どう解決したらいいかわからない」怖さが書かれていてすごいなと思いました。

芦花 確かに「人が怖い」って、実際そうですよね。呪いもだいたい突き詰めれば人の怨念で、ヒトコワ(※)といえなくもない。だから、ヒトコワを完全に排除したストーリーを書くのは逆に難しいんだろうなと思いますね。

※ヒトコワ=生きている人間の怖さ、狂気を描いたジャンル

田辺 呪いとか祟りとか、超常現象的な、特別な方法でないと対処できないものは当然怖いですけど、それと同じくらい怖いのは人間の内面とか、見た目の美醜によって決まってしまう価値観とか……それは日常の誰でも経験しうる現実世界での怖さですよね。

人が心理的にいちばん揺さぶられるのって、やっぱり身近に感じる怖さだと思うんです。仙人みたいな暮らしでもしない限り、誰でも常に日常の中でそういう怖さにさらされているわけで。それこそツイッターなんかは、匿名で誰とも知らない人とつながって、眺めているだけでも傷ついたりすることがある。どこかの子持ちの親のアカウントで、明らかに虐待のようなツイートを見かけると、もうなんとも言えない気持ちになりますよ。

芦花 私はツイッター廃人状態で、ツイッターをずっと見ているような人間で。だから決して否定はしていないんですけど、あそこにあるのはやっぱり8割が悪意ですよね。あとの2割は、言ってみればクローズドサークルのお友達。

2作品続けて毒親が登場する作品を書いたのですが、毒親を持つ人のエピソードを一番たくさん見ることができる場所がツイッターなんです。あくまで私の観測範囲のことなんですが、毒親育ちで、親からその攻撃性を受け継いでしまっている人ってけっこう多いように思います。親からされたことをそのまま他人にしてしまっていると考えると悩ましいですよね。

田辺 私は、定期的にバズる主婦の愚痴系ツイートが怖くてしょうがないんです。夫がモラハラで、妊娠しているか子供が小さくて別れたくても別れられない、みたいな。そのリプライ欄も怖いんですよ。うちもそうです、うちももっとひどいです、とか。私は、これより怖いものが書けるだろうかって思ってしまいます。

日常の中に溢れる“怖さ”

田辺 私は「怖さ」って、怪談とか霊とかの超常現象的なものと、日常の中のものとで、そんなに差異はないと思っていて。誰もが感じ得ることを、物語として共感させることができるといいなと思いながら書いています。それが突拍子もないことだと、共感させるのは難しい。よく、人を笑わせることと怖がらせることは同じくらい難しいと言われますが、個人的には、笑いのほうがはるかに難しいと思っていて。

人って、「怖い」とか、ネガティブに感じている日常のほうが多くないですか。花瓶が倒れた、PCの電源が勝手に切れた、っていうだけでも、人によっては怖く感じるかもしれない。原因を推測して超常現象的な怖さと思うこともあれば、データが飛んだことが恐ろしくて仕方ないという人もいるだろうし。語りすぎないもの、語られないもので、想像力と共感をいかに与えることができるかというのが、物語を作る上で目標とするものじゃないかなと個人的には思っています。

芦花 「怖さ」って、色々な感情がある中でも、とても原始的な感情なので、書きやすいのかもしれないですね。たとえば私は多分、人を感動させる物語はおそらく書けないんです。なぜなら自分があんまり感動をしないからなんですが。感動して泣いたっていう経験がちょっと思いつかないくらいで。

私は、田辺先生の怪談の、クールなところが好きなんです。情緒的ではないというか、あんまり我が入っていないというか。だからきっとあったことを、あったこととしてわりとそのまま書いているのかなと。そのほうが怖いですよね、怪談としては。

田辺 そうだ、聞きたかったんですが、芦花公園先生は今後、もっと怪談実話を書く予定はありますか?

芦花 ありますね。まだ詳細をお話しできる段階ではないのですが。

私もそういえば田辺先生に聞きたかったんです。どの程度、個人を出していいのかとか、アレンジの加減がわからなくて、田辺先生はどうやってらっしゃるんだろうなって。実話怪談は、小説とはまた違った怖さというかリアリティがあるじゃないですか。どこまで書いていいのかな、っていう按配がわかっていない部分があって。田辺先生は、たぶん実際に取材されているのだと思うんですが、全部そのまま書いているわけではないですよね。

田辺 そうですね。実際に取材もあれば、怪談会で集めたりもしていますが、かなり変えているところはあります。どんなふうに集めてらっしゃるんですか?

芦花 あの、じつは私の場合、取材じゃなくて、知っている人とか知らない人が自分から話してくるんですよ。私が怪談を集めていると言っているわけではないのに、なぜか勝手に相手が話し出して、集まってきてしまうという……。

田辺 まんま『ほねがらみ』みたいですね。それはガチで怖い(笑)。

(終)

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

芦花公園 小説家

東京都生まれ。小説投稿サイト「カクヨム」に掲載し、Twitterなどで話題になった「ほねがらみ―某所怪談レポート―」を書籍化した『ほねがらみ』にてデビュー、ホラー界の新星として、たちまち注目を集める。その他の著書に『異端の祝祭』『漆黒の慕情』『聖者の落角』の「佐々木事務所」シリーズ(角川ホラー文庫)、『とらすの子』(東京創元社)、『パライソのどん底』(幻冬舎)ほか。「ベストホラー2022《国内部門》」(ツイッター読者投票企画)で1位・2位を独占し、話題を攫った、今最も注目の作家。

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