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他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。

2022.05.22 公開 ツイート

「勉強だけをしてきた学生生活に価値はない?」→「あなたの自信に間違いはありません」幡野広志さんの人生相談 幡野広志

多発性骨髄腫という難病で余命宣告を受け、現在も闘病中の写真家、幡野広志さん。そんな幡野さんの人生相談集『なんで僕に聞くんだろう。』は、「cakes」連載時から年間でもっとも読まれた記事に輝くなど、大きな反響を呼びました。今回ご紹介する『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』は、その続編。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと……。私たちの背中を押してくれる、幡野さんの優しく力強い言葉を、ぜひ味わってみてください。

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Q.「地味にまじめに勉強をしている私は間違っていますか?」

私は、大学院に通う理系の学生です。就職も決まり、現在修士論文の執筆中です。

大学受験に失敗してしまい一年浪人してしまいましたが、両親や親戚からの厚いサポートがあり、無事に志望校に合格することができました。

学部生時代は感謝の気持ちを込めて真面目に授業に出席していました。(しっかり学べていたかは別ですが……)そのかいもあってか、成績も上位のほうに入ることができ、無事希望の研究室へ配属されることが出来ました。

研究は辛いことも多くありますが、自分の研究でいつか世の中を良くしたい、学んだことを活かしたい、と考え、就職先も現在の学びの延長線上のことができる企業にご縁があり内定をいただくことが出来ました。

少し自慢のようになってしまいましたが、私の悩みは上記にも大きく関係しているため詳しく書かせて頂きました。

 

少し前、某サイトにて、「真面目に大学に行くより、少しサボったり留年したりするほうが価値のある大学生活だと思う」という一言を、好きな発信者の方がおっしゃっておりました。

この一言がずっと頭から離れません。

真面目に毎日一限に出て、良い成績をとるため勉強して、研究室に遅くまで残っている今のわたしは間違っているのか? 博士課程に進学せずに就職する理系学生は、このような一言に意見する価値はあるのだろうか?

留学をしたり旅行をしたりして、世界を見ていないわたしは意識の低いダメな学生なのか?

起業をせず、自ら意見を発信せず、企業で小さな一社員として働くことは、自堕落なことなのか?

わたしは、私の6年間の学生生活が周りにどう思われているのかが怖くて、誇りに思うことができません。真面目に頑張ってきたことは、間違っていたのでしょうか。

価値のある大学生活とは、どのようなものなのでしょうか。

(匿名希望 24歳)

(写真:iStock.com/demaerre)

ひとつの思考や物事がすべての人に当てはまるわけじゃない

あけましておめでとうございます、そして就職おめでとう。2020年はあなたの人生のなかでも思い出ぶかい年になりそうですね。

ぼくは大学を出ていないし、写真の専門学校はすぐに中退してしまったので、最終学歴は高卒です。卒業した高校は福澤諭吉もびっくりするようなバカ高校で(在校生ごめんね)英語の授業はアルファベットのABCの大文字と小文字と筆記体からはじまりました、これマジです。

ぼくはいまでも勉強が全然できないし、筆記体もいまいちわかりません。ついでに修士論文の執筆の大変さもよくわかりません。ぼくは勉強が嫌いで、遊んで好きなことをしている人生でした。

 

それでも大学で講義をしたり、こうやって原稿の執筆をしているから、かならずしも学歴がすべてではないなぁともおもいます。でもこういうのは学歴がある人がいったほうが説得力あるし、そもそも写真家って学歴とは関係のない職業なだけです。

だから、あなたの好きな発信者の「真面目に大学に行くより、少しサボったり留年したりするほうが価値のある大学生活だと思う」という言葉に、ぼくはウンウンとうなずいてしまいます。この言葉は一理も二利も三千里もあるんじゃないかな。一理なのか一利なのか一里なのかバカだからよくわかんないんですよ、さすがにウソだけど。

 

どんなことでもそうだけど、ひとつの思考や物事がすべての人に当てはまるわけじゃないです、人によりますよ。大阪人はみんなおもしろいって思い込んじゃうこととおなじです、つまらない大阪人だっています、大阪人によります。

「真面目に大学に行くより、少しサボったり留年したりするほうが価値のある大学生活だと思う」の文頭に、「興味のない授業を受けたり、課題だけをやる気なくこなしたり、無駄に時間をすごすなら……」というのがつくんじゃないかな。この「真面目に大学に行く」というのは、出席だけ真面目にするって意味だともおもえます。

あなたの場合は成績上位になって、世の中のためになるような研究をして、それを活かせる就職先にもいけるわけです。素晴らしいじゃないですか、あなたみたいな人がいるからぼくみたいなバカが安心して生きられる社会になるんですよ。

アイデンティティはいくつもあったほうがいい

あなたも心の奥底では自分に自信があるでしょう。それはあなたの謙虚さからうかがえます。ぼくはいろんな人に会いますが、自信がある人はみな謙虚です。

自信というのは最初から持っているわけでも、与えられたものでもありません。本人の努力によってえられた実績が、自信になり謙虚さになります。

柱のようにたくさんの実績があればあるほどいいです、年齢に応じて新しくどんどんえられることがのぞましいです、それが成長です。

一流大学に入学したり一流企業に就職しても、そのあとに実績をえられなければ、肩書きバカになって、人を見下してしまうかもしれません。そこに謙虚さはないよね。

 

時間はお金とおなじぐらい大切です、大学生ってお金はないけど、時間はあるんです。この時間を何に使って実績をつむかってことです、あなたはこの時間を立派に使ってます、あなたの自信に間違いはありません、大丈夫です

おじさんになってくると時間はあまりないけど、お金は大学生のころよりも余裕が出てきます。もちろん人によるけど、あなたの場合は研究に忙しくてお金の心配もないでしょう。

勉強をしていなかったぼくは、いまになって勉強をしたいとおもっています。遊びに時間をかけたおかげで遊びはけっこう優秀なんだけど、いまはお金をかけていろんなことを勉強したいです。ぼくは今年は料理のことをしっかり勉強しようかとおもっています、料理が上手くなりたいから。

(写真:iStock.com/SasinParaksa)

そしてもちろん逆パターンも存在します、勉強に時間をかけた人はお金をかけて遊ぼうとしたりします。仕事がいくらできても、遊びが弱いと仕事だけの人生になっちゃうのよ。

仕事だけの人生も、健康なときは上手くハマるパターンもあるんだけど、仕事ばかりの人生であることを後悔する瞬間が訪れることがあります。

それは、病気になって死ぬときです。もしくは死ななくとも、病気で仕事を失ったときです。これは絶対とはいわないけど、かなりの高確率で後悔をします。正直なところほぼ絶対です。

 

唯一のアイデンティティが仕事だと、会社の経営状態や社会からの需要、病気などの本人の努力ではどうしようもない、解決できないことであっさりと消え去ってしまうんです。だからアイデンティティはいくつもあったほうがいいの、仕事でも遊びでも。

ただ、時間とお金はなかなか同時には持てないので、実績のつみかたも順番でいいんです。20代の10年でなにをするか30代の10年でなにをするかその結果が40代ぐらいであらわれて、いい大人になるのだとおもいます。格好いい大人をみると、なおさらそう感じます。

ぼくは好きなことを勉強して、あなたは好きなことを遊ぶ

人ってそれぞれ能力も得意なことも違うし、好きなものだって違うでしょ。そういう人がたくさん集まって、自分の苦手なことを誰かが補ってくれているから生きていられるんです、それが社会です。

ぼくは写真家だけど、カメラを開発や製造してくれる人がいないと成り立ちません。子どもがいるけど、産婦人科の医療者や保育士さんがいるから、成り立ってます。病人だけど、医療者や薬を開発してくれる人や、税金や健康保険料を支払ってくれている人がいるから生きています。

あなたみたいな学生が研究をして、就職をしてくれるから生きているんです。でも、もしかしたらぼくも、誰かが生きることの役に立っているかもしれません、そういうものです。

 

社会に出ると勉強だけでは解決できない問題がたくさんでてきます、それを補うのが「遊びで学んだこと」だったりします。だからといって遊びだけでは解決できない問題もたくさんあります、それを補うのはやっぱり大学などの高等教育で学べる勉強だったりします。

あなたの場合は勉強はしっかりとできているのだから、あとは遊びを経験するだけです。ぼくは遊びをしっかりとできたから、あとは勉強をするだけです。ぼくは好きなことを勉強して、あなたは好きなことを遊ぶんです。誰かの価値観に合わせた勉強も遊びも大人になったら必要ありません。

みんなが海外旅行にいってるから自分も、とかじゃなくて、遊びなんだから自分の好きなことでいいんです。人にいったら笑われてしまうような遊びだっていいの。大切なのは自分の好きなことをして笑顔でいることです。

ぼくもあなたぐらいの年齢のときは写真家になることを人から笑われたけど、いまは誰になにをいわれようが、気持ちがブレることはありません。写真の勉強をして、写真以外でたくさん遊び、実績をつむことができたからだとおもいます。

 

あなただって遊びを学べば、誰がなんといってようが、ブレることはなくなります、そんなもんです。不安は実績で補えます、そうすると自信が確信になります

10年ぐらいしたらあなたもきっと格好いい大人になるよ、そんなときに10歳ぐらい年下の悩む人の相談にのってあげてね。

そのときのために、いま悩んでいる気持ちを忘れないように、大切にしてください。悩んでいた過去の自分をバカにしないように、自分の過去の悩みをバカにしてしまうと、若い人の相談をバカにするダサいおじさんになっちゃうからね。

でもこれもあなたなら心配はないとおもう。悩んだ経験って人生の財産になるよ。では良い一年を。

関連書籍

幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。』

甘いだけのアドバイスなんてもう要らない! 厳しかったり、ゆるかったり。突き放したり、抱きしめたり。 ガンなった写真家が、相談者の心のど真ん中を刺してくる! 本気で悩む人の「本当に欲しい言葉」が見つかる、唯一無二の人生相談。

幡野広志『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。』

がんになった写真家になぜかみんな人生相談。毎週必ず話題になる『なんで僕に聞くんだろう。』書籍第2弾。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと。みんな“幡野さん”に聞きたがる!

幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』

「家庭ある人の子を産みたい」「親の期待と違う道を歩きたい」「虐待してしまう」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校」「毒親に育てられた」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」......。誰にも言えない悩みを、なぜか皆、余命宣告を受けた写真家には打ち明ける。どんな悩みも、軽やかだけど深く、変化球な名言で刺し、包む!異色の人生相談。

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他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。

多発性骨髄腫という難病で余命宣告を受け、現在も闘病中の写真家、幡野広志さん。そんな幡野さんの人生相談集『なんで僕に聞くんだろう。』は、「cakes」連載時から年間でもっとも読まれた記事に輝くなど、大きな反響を呼びました。今回ご紹介する『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』は、その続編。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと……。私たちの背中を押してくれる、幡野さんの優しく力強い言葉を、ぜひ味わってみてください。

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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