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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2022.04.30 更新 ツイート

第177回 紅白戦 いとうあさこ

赤がんばれ、白がんばれ。
小学校の運動会でのアナウンス。あの棒読み感が逆に「もっと応援しなくちゃ」と腹の底から出る「がんばれー!!」を引き出してくれていたような気がします。ただ今日は運動会の話ではないんです。私の体で起きた“赤”と“白”。その“赤vs白”じゃなくて、“赤白vs私”、のお話。

まずは“赤”。突然そいつはやってきた。顔に、発疹。右の頬からずーっと顎の下を通って左の口角の辺りまで、帯状に真っ赤で細かいブツブツ。その赤みはかなり強く、まるで顔に大きな平仮名の“し”の文字が書かれているかのよう。もし私がこの状態で死んだら、「何かダイイングメッセージか?」と思われる程くっきりな“し”。そして何せ痒い。水でパシャパシャ洗うと治まるけれど、またすぐ痒くなる。原因は何か。場所はほぼマスクをつけている部分。ちょうどその前日、汗かきまくりのロケをマスクしたまま何時間もしたから、それか? 要は汗疹(あせも)、みたいな。でも今までもそういう状況は何度もあったし、そんな時はポチッと1つ2つ吹き出物が出来るくらいで、こんな“し”は出たことない。数日経っても“し”は消える気配を見せない為、近所の皮膚科に仕事前、朝一番で向かった。暖かい日が続いていたので何も考えず薄手のシャツ一枚で出かけると、まさかの風が強く冷たい、かなり寒い朝。しかも早め早めで動くもんでうっかり病院が開く30分も前に到着。扉の前でガタガタ震えながら待った。一番乗りだった私は病院が開くと同時に受付後すぐ呼ばれた。真冬か、という程キンキンに冷えたほっぺの“し”を先生に診せる。診断は“花粉皮膚炎”。え? 花粉症って鼻水と目の痒みだけじゃないんだ。今は薬も効いて“し”はだいぶ薄くなってきた。もうさよならだね、“し”。二度と出てこないでね、“し”。

そして、“白”。それは今まで目をそらしてきた“白髪”です。私は様々な“老い”を受け入れてきた。体の痛みやいろいろ忘れちゃう事、同じ髪でも“細くなった”“薄くなった”の話は全然平気。それが、何故か“白髪”だけが受け入れられない。まず音、よくないと思いません? “しらが”、ですよ? “黒髪”は“くろかみ”って読むのに“白髪”は“しらが”。いや、だったらそこは“しろかみ”じゃない? だって“くろが”って言わないでしょ? “しろかみ”なら百歩譲って綺麗な感じするけど“しらが”って、ねえ? まあ“白髪”なんてイヤなら染めればいいだけで、他の“痛み”とかよりどうとでもなりやすいとは思うんですけどね。ただ20代前半に舞台の役の関係で安いブリーチ剤を買って髪の色を抜いた事はありますが、それ以外はずっとそのまんまで染めた事がない。普段褒められる事のない自分が50歳過ぎても「えー? まだ白髪染めしてないんですか?」と言われる事を“褒め”と受け止め、どこか勝手に“自分の良い所”、みたいに思っちゃっていたのかな。それか“老い”を受け入れる気満々なのに、染めたら何か逆らっている感じがする、とか? はっきりはわからないけど、とにかくそんなどうでもいい“感覚”で“白髪染め”を拒んできたわけです。でもそれもそろそろ限界。表立って白くはないのですが、左の脳天の辺りや生え際なんかの“白”が顔を出すようになってきた。でもそれを美容院で話すと「まだ全然染めなくていいですよぉ。髪染めると傷みますから」と必ずといっていいほど言われてきた。でもふと思ったんです。仲良しの大久保さんは染めているけど、私とは雲泥の差で髪がキレイ。ある日それを大久保さんに言うと、一言ビシッと言われた。「金かけてんだよ!!」こまめに美容室に行ってちゃんとしている大久保さん。その言葉が重く、突然稲妻のように体を突き抜けまして。そうよ、その通りよ。私なんて年1回しか美容院に行かないし、化粧もしないしオシャレもさほど興味がない。40歳で体重計を捨て、大好きな“飲食”を解放したらちゃんと太った。20代半ばから山口智子さんを筆頭に数々の“自然体”美女たちに憧れ、“白シャツデニムが一番かっこいい”を目指して生きてまいりましたが、いつからかその“自然体”を言い訳に、がっつり“さぼって”いた気がする。これだけ何にもしないなら、1つくらいちゃんとする事があってもいい。いや、しよう。大久保さんの一言で私は目覚めた。そうだ、美容院へ行こう。

実はちょうど昨年の誕生日に大久保さんからご自分行きつけの美容院での“ヘッドスパ&トリートメント”のチケットを頂戴しておりまして。早速予約の電話をば。その際、とうとう、言った。

「髪の毛を染めたいです。はい。白髪染めです。ええ、初めてです。」

美容師さんは同世代の女性でとにかく話しやすい人。元々黒髪な分、余計に“白”のごまかしがきかないし、しかも初染めなので色味やら薬剤をどうするか、細かくご説明くださりまして。結局、髪に優しい自然由来のモノで、出来るだけ自然な“黒”になるよう色を調合。初染め、してまいりました。もちろんヘッドスパとトリートメントも。わたくし恒例“年1美容院”はホントにカットだけで、髪の毛に何かを施した事がない。「ああ、髪の毛よ、ごめん。大切にしなかった上に、ただ毎日大量に抜けていく事に文句だけ言っていた私を許してほしい。」なんだろ、この久しぶりの“丁寧”感。うん、嬉しい。ここまで放っておいた“自分”の、“髪の毛”という端っこの部分ではありますが、人の手が入り整えられようとしている。それが、嬉しい。

そんなこんなで3時間ほどかけてやってもらった髪。駅まで戻る道中、心なしかサラサラと髪がなびいている感じにマスクの下はニヤニヤしておりました、私。急に毎月美容院へ、とはいかないにしても数か月に一度、もしかして半年に一度かもですが、髪の毛、大事にしてみようかな。

何はともあれもう……赤がんばるな、白がんばるな。私、がんばれ。

【本日の乾杯】クレソンを刻んでドレッシングかけただけ。昔はクレソンやパセリは添え物で食べないものだと思っていた。こんなに好きになるなんて。ええ、大人になりました。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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