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いつまで自分でせいいっぱい?

2022.05.04 公開 ツイート

#14

思うこと。 佐津川愛美

さっつん以外にこの役を演じられる人はしばらく出てこないと思う。数年したら出てくるかもしれないけど、今現在では居ないと思う。

そう言われて受け取った台本があった。
読んでみると、美月という少女がそこに居た。
何故か惹かれた。
私が演じなければ、美月は居なくなってしまうのだろうか。美月はどこにいくのだろうか。
14歳から沢山の台本を読ませてもらってきて、私が演じなければいけない。初めてそう思った。

 

やりますとお返事してから、撮影まで4年かかった。
製作費を集めるのにそれだけかかったということだ。
その間にも、色んなお仕事を頂けていたので、私はいつ撮影が出来るのだろうかと待っているだけだった。

でもいつかね。いつかあなたは私が演じるからね。待っててね。というような、もはや母親のような気持ちが増えていった。

製作費が集まり、全てのキャストの方も決まり、撮影が出来た。
美月がとても複雑で過酷なシーンも多いキャラクターということで、それを演じる私に対して、みんなが見守って応援してくれていた。
キャストの皆さんは寄り添って支えてくださった。スタッフの皆さんも一生懸命は勿論、みんなで頑張れたことが本当に有難かった。

全てのシーンを撮り終わり、この役を演じ切れたことは今まで19年間役者をやってきて、一種の集大成になったかもしれないと思った。

数ヶ月して編集が終わり、作品が完成した。
試写を終え、試写室を出ると、色んな感想をもらった。

脚本を書かれた港さんは握手をしながら、
「本当にありがとうございました。もう脚本家やめてもいいぐらいです」と。
手が震えていた。恐縮だった。
私ももう役者やめてもいいぐらいですと思っていた。それだけ出し切った。

公開が近付いてきた。
この作品の監督と呼ばれていた人に週刊誌から質問状がきたと報告があった。
翌日は朝からこの映画に関する沢山の取材、そして、完成披露試写だった。私はどんな気持ちで何をお伝えしていいのか、わからなかった。

なんとか言葉を選んで選んで取材を終えた。
そして舞台に立った。

おそらく明日には記事が出ることを私は聞かされていた。詳しい内容まではわからなかったけど、少なくとも、この作品は傷だらけだと思った。

初めてお客さんに作品を観て頂ける機会。
舞台上から客席を見た。
なんの先入観もなくこの作品を観てくださる方は、今日観に来てくださった方々だけかもしれない。
そう思った。そう思ったら気持ちが込み上げてきて、抑え切れなくなって泣いてしまった。

あの時の気持ちは、悔しさだったのか悲しさだったのか、怒りだったのか、、、今でもわからない。

 

私がどれだけ身を削って挑戦したか、そんなことは誰にも関係ない。
私がどれだけ思い入れがあるか、そんなことは、観てくださる方には全く関係ない。
そんなことは元々知らなくていい情報だ。

映画は公開中止になった。

この作品の監督と呼ばれていた人に傷つけられ、辛い思いをされた方がいらっしゃる以上、私は悲しいと思ってはいけないのではないかとずっとずっと葛藤している。週刊誌に書かれていたのは、性行為を強要されたというショッキングなワードだった。

私は19年間この世界で仕事をさせてもらってきた中で、性的な要求をうけたことや経験をしたことはない。
私が業界内で大手事務所と呼ばれるところに所属させてもらっているからなのだろうか。
そうだとしたら、業界では箱入り娘なんだと思う。
今まで気付いていなかったけど、ずっと守ってもらってきたんだなぁと知った。

 

今回のことでインスタグラムには沢山の励ましのメッセージを頂いたけれど、それだけではなかった。
私が過去に映画で演じた、男性に襲われるシーンのスクリーンショットや露出したシーンが連続で送られてきた。
他にも枕だとか自業自得だとか。
ネット上で事実と違うことを言われても傷つかないと思っていたけど、実際にそう思われているんだということを実感すると、ダメージが大きい。

 

声をあげてくださった方は発信してくれたことで、更に辛い思いをすることもあっただろう。そこに関しても私は居た堪れない。

なによりもですが、今回のようなことが裏にあったことが、とにかくショックで、悔しくて、やるせなくて、いまだに言葉にするのは難しい気持ちが駆け巡っている。
自分にとって大切なこの世界で、色んな辛い思いが生まれている。その思いをずっと我慢してきた方が居る。

 

14歳で初めて映画の現場を経験して、各部署の方々が、自分の仕事に一生懸命な姿を目の当たりにした。

 

みんなでワンカットをつくる。
みんなで映画をつくる。
幼い私の目から見た現場の皆さんは本当にかっこよかった。そんな姿に感動し、映画に携わっていきたいと思わせてもらった。

あの時感じた現場の皆さんへの憧れとリスペクト。あの日からずっと、私にとって映画の現場は特別で、大切にしてきたものでした。
ここで学んできたもの、経験してきたことは、間違いなく自分にとってはかけがえのないもの。
勿論許せないことも、まだ消化できないこともある。
それでも。どんなに傷ついても、苦しくても、やっぱり映画が好きなのです。
だから、ちゃんと進みたい。

 

公開中止という結果が
今後の映画界、エンタメ界をより良くする
何かのきっかけになってくれたら、それでいい。
そうしていくのは、私たちです。

ここに記したのは、いつもの私のエッセイです。
誰かに向けて鋭い意見を言いたいわけではありません。私も乗り越えたいし、前を向きたいし、その為に書かせてもらいました。

 

エンドクレジットを見ると、いつも誇らしい気持ちになる。携わってくれた皆さんを感じ、心から嬉しくなるのです。
私にとっては、1人ではなく、みんなと作品をつくり上げるという部分が大切なんだと思う。 
私たち現場の人間は、決して誰かのコマではありません。エンターテイメントをお届けする、1つのチーム、全員が大切な仲間です。

真摯に作品に向き合っている、素晴らしいスタッフキャストの皆さんと、私は沢山出会ってきました。
そういう人たちと、しっかり作品をつくり上げていきたい。

作品は誰かの心に触れてもらう為にある。
そして、お互いを尊重してこそ、より良い作品が生まれる。

私はそう信じています。

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、34歳のリアルな日常を綴る。

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佐津川愛美

1988年8月20日生まれ、静岡県出身。女優。
Instagram http://instagram.com/aimi_satsukawa

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