
突然だが、本屋大賞を知っているだろうか?
「全国の書店員が選んだ いちばん! 売りたい本」というキャッチフレーズで運営されているイベントである。一次投票には全国483書店より書店員627人、二次投票では322書店、書店員392人が投票し、先日大賞が発表された。
大賞受賞の逢坂冬馬さん、ノミネートされた皆さん、おめでとうございます。どの本も面白いこと間違いなし。読者にとっては外れなしのブックガイドだ。私もデビュー前、本屋大賞の発表を毎年楽しみにしていた。

今年は作家になって初めての本屋大賞だったこともあり、どきどきしながら結果発表を迎えた。
デビュー作『元彼の遺言状』は、一次投票時点で発行部数60万部を超えていた。ありがたいことに、大々的に展開してくださっている書店さんも沢山ある。こんなに売れたのは書店員さんたちが「売りたい!」と思って、力を入れてくれたからに違いない。つまり、本屋大賞でもそこそこ票が入っているのでは、と内心期待していたのである。
いざ、結果発表。書店に駆け込み『本の雑誌』増刊号、本屋大賞特集を探すも、なかなか見つからない。書店を梯子して三店舗目でついに発見した。
気が急いて、レジに持っていく前にパラパラとめくって、投票結果を確認する。ふむふむ、一時投票で一票でも入っていると掲載されるのね……と順番に見ていく。が、……あれ、ない? ない、ない、ない……。
私はその場で固まった。『元彼の遺言状』に一次投票で一票も入っていないのである。
あまりの衝撃にしばらく突っ立っていたが、大人しく『本の雑誌』を買い、家に帰ってから部屋の隅でちょっぴり泣いた。
繰り返すが、本屋大賞のキャッチフレーズは「全国の書店員が選んだ いちばん! 売りたい本」である。言葉通りに解釈すると、『元彼の遺言状』を一番売りたいと思った書店員さんは全国どこを探してもいない、ということになる。
大々的に展開してくださっている書店さんも、裏では「ちっ、本当は他に売りたい本があるんだけど、まっ、仕事だから、帆立の本、並べとくわ」という感じで、仕方なく陳列してくれていたのですか~(ですか、ですか、ですか……と頭の中で問いかけが反響した)。
エッセイを読んでくださっている方々はそろそろお気づきだと思うが、これはただの愚痴である。愚痴だから必要以上にマイナス思考になっているし、ひねくれた見方になっていると思う。書店員さんたちは真摯に本を売ってくださっている。仕事だから仕方なく、というテンションの書店員さんと会ったことはないし、売り場には書店員さんたちのソウルが宿っている。そういうことも分かっているのだが、あえてこうして愚痴を書いているのは、何はともあれ、落ち込んだからだ。
実は、『元彼の遺言状』に票が入っていないのにはからくりがある。
本屋大賞の投票対象となるのは2020年12月1日から2021年11月30日までに刊行された本だ。『元彼の遺言状』の発売日は2021年1月8日である。対象期間の最初のほうに発売されたから、忘れられているのかもしれないし、対象外だと思われている可能性もある。
しかも私の場合、同対象期間中の2021年10月6日にシリーズ二作目『倒産続きの彼女』が刊行されている。期間中にシリーズ物が二作出ているなら、最新作のほうに票を入れるのが自然だろう。
現に、二作目の『倒産続きの彼女』のほうには、大変ありがたいことに一次投票で投票してくださった書店員さんたちがいる。すごくうれしかったし、励みになった。より面白いもの、より上手いものを書けるようになりたいと想いをあらたにした。
そんなわけで、冒頭で書いたほど悲しむ必要はないのだが、なにしろ作家として迎える初めての本屋大賞である。「一票も入らない」という衝撃に、頬をぶたれ茫然としたのである。
だって、逆のことをされたらどう思いますか?
「全国の作家が選んだ いちばん! 本を置いて欲しい書店」というキャッチフレーズで投票されて、自店に一票も入ってなかったら、めっちゃ悲しいですよね。同グループ内の系列店のほうに票が入っていたからオッケーということでもなく、結果は結果だから仕方ないと思いつつも、悲しいですよね。
票が入っていなくて悲しかったというだけで、誰を恨むわけでもない。ただ、消費される側も人間なのである。全国津々浦々に、同じようにひっそり傷ついている(私はこうして大騒ぎしているわけだが)作家さんたちがいるかもしれない。悲しいけれども仕方ない、共に耐えよう、という思いで筆を執った。「別にそんなに気にならないわ」という人もいるだろうし、「この程度で傷つくなんて、帆立も甘ちゃんだぜ」と思う人もいるだろうが。
そして読者の皆さん。皆さんの目に入るキラキラした世界の下に、私のような死屍累々が転がっているのだ。けれども、死屍累々のことは気にせず、年に一度のお祭り、楽しんでください。
帆立の詫び状

原稿をお待たせしている編集者各位に謝りながら、楽しい「原稿外」ライフをお届けしていこう!というのが本連載「帆立の詫び状」です。