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アルテイシアの熟女入門

2022.01.01 更新 ツイート

祖母の名は アルテイシア

新年、明けましておめでとうございます。今年もJJ(熟女)コラムをよろしくお願いします。

JJは餅を食べるのに若干ビビるお年頃。経験的に言うと、タピオカの誤嚥も結構ヤバい。

先日、20代女子から「キューバ危機の時ってどんな感じでした?」と聞かれて「ごめん、その時はまだ生まれてないねん」と謝った。

キューバ危機(1962年)の時は生まれてないけど、ベルリンの壁の崩壊(1989年)はニュースステーションで見た。

14歳の私は「世界はどう変わっていくんだろう」とドキドキしたが、45歳の私は「世界は少しはマシな場所になったんだろうか?」と考えてしまう。

 

15年前、私が30歳だった時の日本のジェンダーギャップ指数は79位で、そこから120位まで順位を下げた。その間、フランスは70位から15位まで順位を上げた。

他国が性差別を解消するために努力する中、日本だけ変わらずに置いてきぼりナウである。

「おらこんな国イヤだ、日本を出たならユーロを貯めて、北欧でトナカイ飼うだ」と元旦から歌いたくなる。

ちなみに私はバーフバリを見た時「めっちゃ屈強な吉幾三やんか」と思った。

本当は私も生まれ育った日本で暮らしたいのだ。友達もいっぱいいるし、雑煮やおせちも好きだし。

ヘルジャパンに絶望するだけの日々はつらいので、希望を数えてみることにした。

先日、同世代の作家さんが「新刊の担当は新卒の女性編集者で、バリバリのフェミニストなんですよ。彼女を見ていると頼もしいな、時代は進んでいるなと感じます」と話していた。

たしかに「私はフェミニストじゃないけど、性差別には反対です」と前置きせず、「私はフェミニストです!」と宣言する若い女性が増えたと思う。

彼女らからは「どうせ叩かれるなら堂々と名乗ったる」という気概を感じる。

大学生にはジェンダーの授業が大人気らしく、大学教員の友人は「ジェンダーを学びたい、という学生が爆増している。まずは私がしっかり勉強しなきゃ」と話していた。

ここ数年はジェンダーやフェミニズム系のコンテンツも爆増している。

10年前、私が「フェミニズムについて書きたい」と出版社に提案しても見向きもされなかったのに、今は「フェミニズムについて書いてほしい」と依頼が来る。

また、最近は男性の読者が増えていると感じる。

「妻に勧められてアルさんの本を読みました」と感想をくれたり、夫婦でイベントや講演会に参加してくれる男性も増えた。

男性の記者やライターさんから取材してもらう機会も増えた。

彼らは「男も変わらなきゃいけない」「男こそアップデートするべきだ」と話してくれる。今はまだ一部でも、そういう男性が増えていることに希望を感じる。

「ジェンダーに無関心だったけど、子どもが生まれて意識が変わった」という男性もよく見かける。

友人の兄は「男尊女卑丸」と呼ばれていて、ジェンダーに無関心どころか「女のくせに」と呼吸するように言う兄だったという。

友人いわく「それって父のコピーなんだよね。両親の関係から男尊女卑を学んでしまって、ミソジニーを刷り込まれていた」とのこと。

そんな兄が娘二人を育てるなかで、医学部の不正入試や痴漢問題にマジギレして「こんな社会はおかしい、変えなきゃいけない!」と言うようになったという。

手のひら返しの例文のようだが、そんな手のひらはどんどん返してほしい。

「性差別や性暴力を許せない」と声を上げる男性が多数派になれば、オセロのように社会をひっくり返せると思うから。

空気を読め、長いものに巻かれろ、という同調圧力の強い日本では、声を上げる人間が叩かれる。

でも声を上げる人間がどんどん増えて「そっちにつかなきゃヤバいかも?」という空気になれば、社会は一気に変わるんじゃないか。

近頃はフェミニズムのフェも字も知らないおじさんから「最近ジェンダーってよく聞くけど、どういう意味?」と聞かれる機会が増えた。

「ミソジニー? それどんな汁物?」みたいなおじさんの中にも「時代遅れになるとヤバい」と危機感を抱く人が増えたのだろう。

「コンプラ? それどんな揚げ物?」みたいなおじさんに「いんいちがいち」と一の段から教えるのはダルいけど、丁寧に説明している。これで世界が1ミリでもマシになるならと思って。

10月の衆院選の後、特に空気が変わったと感じた。

「ジェンダーは争点じゃない」と言い張る人々もいるが、党首討論でジェンダーの質問が出ること自体が10年前にはなかったことだ。

選挙中は毎日ジェンダーという言葉を耳にしたし、2021年の流行語大賞に「ジェンダー平等」がトップテン入りした。

こちらの記事によると、衆院選中の全国紙など7媒体で「ジェンダー」の言葉が登場する記事を調べてみると、2017年の前回衆院選の約43倍になったそうだ。

私も若い人たちから「アルさんのコラムでフェミニズムを知って、政治に興味を持つようになって投票に行きました」と嬉しい言葉をもらって「冥土の土産にしよう……」と合掌している。

この国ではおじさんのおじさんによるおじさんのための政治が続いていて、女子どもは人間扱いされていない。

性が乱れる、に歯茎がめっさ痛いやないか」に書いたように、自民党内の保守系議員らの抵抗によって、選択的夫婦別姓も同性婚もあれもこれもどれもそれも進まない現状だ。

一方、それに対して「ふざけるな! 冗談も休み休み言えオブザデッドやぞ!」と声を上げる人々も増えている。

その声が大きくなればなるほど、政治家は無視できなくなる。

「家父長制を守るのが俺の使命だ」「ジェンダー平等を阻止するぞ、オー!」みたいな連中の顔色をうがかってるうちに、国民にそっぽを向かれてしまう……と危機感を抱く議員も増えるだろう。

だから私は諦めない。黙って俺に従え系の家父長制政治に「なんで黙らなあかんねん、主権者はこっちやぞ、ブオオー!」と法螺貝を吹いていく。

「声を上げることに疲れませんか?」と聞かれるけど、たまに疲れることもある。駅の階段を上るだけで肺が破れそうになるJJだもの。

ただ、階段は上りより下りの方が怖い。一段飛ばしで駆け降りる若者を横目で見ながら、手すりをつかんでそろりそろりと……

なんの話をしてたんやっけ。

そうそう、疲れるけど諦めないのは、地獄を再生産したくないからだ。「地獄のような未来はもうたくさんだ」とトランクスも言っている。

2021年のヘルジャパンオブザイヤーな出来事は、妊娠9か月の女友達が電車で痴漢に遭ったことだ。

「反撃できない妊婦だから狙われたと思うと、悔しくて眠れなかった」
「この社会で子どもを産み育てることが、本当に怖くなりました」

という彼女の言葉に「この世界は地獄だ」とアルミン顔になりつつ「痴漢を駆逐してやる……一匹残らず……!」と瞳孔が開いた。

そして、その場に居合わせたら何ができただろう? と考えた。

犯人を捕まえられたらベストだが、それが無理でも間に割って入ったり、彼女に声をかけることはできるだろう。

「大丈夫ですか?」と声をかけるだけでも、被害者は安心するし救われる。

「助けてくれる人がいる」という安心感、社会に対する信頼があれば、被害者は助けを求められる。

逆に「誰も助けてくれない」と絶望してしまうと「助けを求めても無駄だ」と1人で抱え込み、支援につながることもできない。

なにより「見て見ぬふりをしない人」が増えることで、性暴力をしづらい社会にできる。

そんな思いから「性暴力を見過ごさない」動画を作った。

ここは天国じゃないんだ、かと言って地獄でもない。いい奴ばかりじゃないけど、悪い奴ばかりでもない。

とブルーハーツは歌っていたが、世界を良くするために必要なのは、いい奴が行動することだ。

世界を悪くするために必要なのは、善人たちの無関心と沈黙だ。

女友達が赤ちゃん連れで飛行機に乗った時、周りのおじさんたちが「赤ちゃんは泣くのが仕事だから気にしないで」と声をかけてくれて、すごくほっとしたという。

こういう話を聞くと「世の中、捨てたもんじゃねえな」と思えるし、人の善意を信じられる。

私も若い頃、電車で貧血になって倒れた時に「どないしたん!!」とおばちゃんたちが寄ってきて「飴ちゃん食べるか?」と黒飴や黄金糖をくれた。

そんな頼れるおばちゃんに俺もなる!! と決意する、初老の初春である。

初老と言えば、同級生の男の子に孫が生まれたと聞いて「孫!!」と飛び上がった。

自分はおばあさんになってもおかしくない年齢なのか……という気づき。

磯野フネさんもおばあさん然としているが、まだ50代である。ちなみにサザエの母校は「あわび女子学園」というらしい。

あわびはさておき、子どもの頃は正月に親戚一同が祖父母の家に集まった。

おばさんたちは台所で働き、おじさんたちは広間で宴会するのを見て「女に生まれるって損だな」と思った。

私の祖母は大正生まれで5人の子どもを産み、10人の孫をもつ大所帯のおばあさんだった。

中学生の時、祖母に「おばあちゃんって名前なんていうの?」と聞いたことを覚えている。

私はその時まで祖母の名前を知らなかったのだ。

祖母の名前を呼ぶ人は誰もいなかったし、郵便物もお歳暮も祖父宛てに届いたため、家の中に祖母の名前は一つもなかった。

彼女も家父長制のもと「妻」「母」「娘」の役割を生きてきて、名前を奪われた女性の1人だった。

祖母が生まれた時代は女性に参政権がなかったし、「女に学はいらない」と言われて学校もろくに通えなかったそうだ。

私が大学に合格した時、祖母はすごく喜んでくれた。その後しばらくして認知症になり、施設に入ったまま亡くなった。

この年になって、祖母ともっと話しておけばよかったと思う。「おばあちゃん」じゃなくて「ハツコさん」の話を聞きたかった。

いま私たちが進学して就職して選挙に行けるのは、「女にも人権をよこせ!」と戦ってくれた先輩たちのお陰である。

参政権を求めて活動した女性たちは「イカれた女たち」とバッシングされながら、時代を前に進めてくれた。

今もフェミニストはバッシングにさらされている。嫌がらせや誹謗中傷を受け、デマを流されたりストーカー被害に遭う人もいる。

「フェミニズムについて発信するのは怖くないですか?」と聞かれるが、もちろん怖くなる時もある。

でも怖くても進むと決めたのだ、先輩たちのバトンを未来につなぐために。

去年の夏、いとこが赤ちゃんを産んだ。私に抱かれた瞬間ギャン泣きした彼女に「安心して大きくなってね」と言える世界にしたい。

今よりマシな未来を見るために長生きしたい。

そんな抱負を抱きつつ、餅をよく噛んで食べる正月である。

関連書籍

アルテイシア『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』

生涯のパートナーを求めて七転八倒しオタク格闘家と友情結婚。これで落ち着くかと思いきや、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも「オナラのできない家は滅びる!」と叫ぶ変人だけどタフで優しい夫のおかげで毒親の呪いから脱出。楽しく生きられるようになった著者による不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ。

アルテイシア『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった アルテイシアの熟女入門』

加齢最高!大人気連載が1冊になりました。若さを失うのは確かに寂しい。でも断然生きやすくなるのがJJ(=熟女)というお年頃!おしゃれ、セックス、趣味、仕事等にまつわるゆるくて愉快な熟女ライフがぎっしり。一方、女の人生をハードモードにする男尊女卑や容姿差別を笑いと共にぶった斬る。「年を取るのが楽しみになった」「読むと元気になれる」爆笑エンパワメントエッセイ集。

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アルテイシアの熟女入門

人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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