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政治を語ろう

2021.11.12 公開 ツイート

野党敗北で「消費税減税」バナシは消えるのか 渡瀬裕哉

今回の衆院選では“消費税減税”が、与野党論戦の一つの対立軸となりました。しかし消費税率維持を主張する与党に、野党は敗北。このまま“消費税減税”の話は立ち消えになってしまうのでしょうか? 話題書『税金下げろ、規制をなくせ』(光文社)著者で、政治アナリストの渡瀬裕哉さんにうかがいました。減税を待ち望む有権者にできること、それは今回の投票だけではないようです。

 
(写真:iStock.com/SergeyChayko)

消費税減税に対する有権者の支持は今回あったといえるか

菅総理辞任から自民党総裁選、そして衆議院議員選挙という慌ただしい選挙の秋が終わりました。そして、自民党・立憲民主党が議席を減らし、維新の会が躍進するという選挙結果となりました。

代表なくして課税なし(No Taxation Without Representation ※意訳:民意を無視した増税は認められない!)、とも言われているように「税金」は政治のテーマとして重要な要素の一つです。日本においてもかつて帝国議会が設立されたきっかけとして、地租改正に対する不満や租税負担の軽減を求める自由民権運動の広がりがありました。戦後も税率は常に選挙テーマとなり続けており、近年では主に消費税に関する議論が選挙のたびに繰り返されています。

 

さて、今回の衆議院議員総選挙でも各種税率の増減が論争の的となりました。その中でも大きな対立項目は消費税減税に関する賛否です。2021年衆議院議員選挙では、野党各党が消費税減税に関して前向きな姿勢を示す中、与党は消費税率の維持を主張することになりました。

この変化は近年の日本政治にとっては大きな転換点と言えるでしょう。民主党政権時代に行われた自公民による消費税増税の三党合意以来、主だった旧民主党の国会議員は選挙時に消費税減税に消極的な姿勢を示してきました。今回の転機は、日本維新の会が昨年、参議院で消費税減税法案を提出し(テレ朝ニュース 2020年6月5日、時限的8%)、選挙公約としてフロー大減税を打ち出した(西日本新聞 2021年5月17日、日本大改革プラン)ことにありました。野党勢力の1つが党として強力に減税を訴える中、減税政策に対する党内抵抗勢力が頑強な立憲民主党・国民民主党も党勢を維持・拡大するために過去の路線を転換せざるを得なくなったものと思います。

今度は選挙結果を見てみましょう。小選挙区は個々の候補者の質に大きく左右されるため、ここでは各政党の比例得票数を参照していきます。

消費税減税を訴えた政党の比例得票数は過半数を超えました。

立憲民主1149万、維新805万、国民260万、共産417万、れいわ222万、社民102万、N党80万の合計数は3035万人であり、投票者の過半数を超える人々が消費税減税を求める政党に投票しました。衆議院議員選挙の小選挙区は死票が多いため、野党の分散化した民意は議席には反映しにくい傾向がありますが、投票者が実際に政策として望む声は消費税減税が多かったと言うことができるでしょう。

そのため、与党は大半の議席を維持しましたが、消費税減税を求める声を無視することはできません。

なぜなら、来年7月には参議院議員選挙が予定されているからです。衆議院と比べて死票が少ない選挙制度である(選挙区選出議員74人、比例代表選出50人、合計124人。比例代表は“非拘束名簿式”)ため、与党はそれまでに増税を肯定したり、減税を頑なに否定する態度を見せることはないでしょう。それは参議院過半数割れの危機に直面することを意味しているからです。今回の衆議院議員選挙における有権者の投票の隠れた意義はここにありました。

来夏の参院選に向けて、増税に反対し、減税の動きを拡げていくには

ただし、与党は来年の参議院議員選挙を乗り越えてしまえば、向こう3年間は国政選挙を行う必要がありません。したがって、その3年の間に好きなように増税を決めることができるでしょう。そのため、参議院議員選挙で与党が過半数割れ = 減税勢力の連立入り or ねじれ国会化することがなければ、新たな増税はほぼ確定すると見て間違いありません。したがって、消費税増税阻止または消費税減税を求める有権者の本当の闘いは参議院議員選挙ということになります。

また、日本国民がコロナ禍で散々苦しめられた上、世界経済の見通しも若干の不透明さが見え始めている中、参議院議員選挙において経済活動を冷え込ませる更なる増税案を阻止することも重要です。

たとえば、金融所得課税強化は愚の骨頂と言えるでしょう。コロナ禍で実体経済が大きな打撃を受ける中、世界の経済を辛うじて支えてきたのは金融投資によるリスクマネーです。今、あえて同課税強化を謳って経済にトドメを刺す必要性を全く感じません。

むしろ、コロナ禍からの立ち直りは欧米中との新たな産業競争の始まりであり、中長期にわたって雇用を維持・拡大するため、日本国内で新産業に向けられるリスクマネーの供給を更に促進することが必要です。したがって、現状のような与野党のルサンチマンに基づく増税論ではなく、日本の経済成長を実現する減税案が求められます。

また、炭素税も問題です。現在、炭素税は政府内で検討されていますが、この増税案は米国の大統領・連邦議会が左派の民主党というタイミングに歩調を合わせたものに過ぎません。米国で炭素税に反対する共和党が急速に党勢を回復しており、日本側としてもわざわざ焦って進める必然性はありません。レジ袋有料化の時もそうでしたが、政治家は環境を錦の御旗にすれば国民負担を容易に増加させることができると思いつつあります。その思い込みを打ち砕くことが望まれます。

これらの増税案は消費税と比べて与野党対立が激しくないため、近頃ざわつかれているインボイス制度(2023年10月スタート)同様、ボウっとしていると知らない間に増税が決まる恐れがあります。したがって、消費税だけでなく他の増税案に関しても、国民の生活状況・経済状況を無視して進める政党・政治家にNoを突き付けていくことが重要です。

我々一般の有権者が具体的にできることは、Twitter上や街頭演説で接触できる政治家に対して「貴方は〇〇税の増税に賛成ですか?」と聞いてみることです。〇〇税は貴方が増税に反対している税金で構いません。その上で、政治家が「はい、増税します」と回答したら「落選してください」、「もちろん増税に反対です」と回答したら「応援しています」と伝えましょう。

小さなことのように思われるでしょうが、政治家が「〇〇税について有権者から直接聞かれて減税を求められること」は肌感覚として1か月に1度あるか否かです。多くの有権者から声が寄せられることで、政治家側はビックリして自らの主張を再検討することになります。

我々にできることは、有権者として増税政治家にボディブローを打ち、減税政治家を厳しく応援していくことです。この繰り返しによって、政治家を一人でも減税政治家にしていくことができます。地味ではありますが、この国で減税を実現するために一緒に頑張りましょう。

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渡瀬裕哉

1981年東京都生まれ。国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか―アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)などがある。

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