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帆立の詫び状

2021.11.04 更新 ツイート

悪気のないおじさんたち 新川帆立

先月から二カ月弱の間、日本にいる。新刊プロモーションのための一時帰国だ。大阪、福岡、宮崎と移動しながら書店さんに挨拶をし、サイン会2件、講演会2件、取材十数件をこなし、なんとかひと段落ついた。その間も原稿の〆切は止まらない。日中は動き回り、夜はホテルで執筆、寝落ちという日々が続いた。

↑地元宮崎。秋晴れが気持ちの良いベストシーズンでした。
 

忙しくなると自分のポンコツ具合が増すもので、財布を持たずに出かけてあやうく無銭飲食になりかねない状況に陥ったり(Suicaで払って事なきを得た)、移動中にダッシュをしたら神楽坂の坂で転倒し大きな青あざをつくったり、ランチを食べたのに食べてないと誤診して日に二度昼食をとったり、一日一トラブルというくらいドジを重ねた。

率直な感想をいうと、「もう疲れた。アメリカに帰りたい。しばらく日本に戻りたくない」ということだ。

 

ドジなのは自分のせいだから仕方ないのだが、そもそも作家になるような人間は大して社会性も社交性もないのだ。外出先で一日二件以上の用事をこなすのは難しいし、一日外出したら三日くらい家でゴロゴロしないとエネルギーが回復しない。普通の会社員のように毎日外出(出勤)ができるなら会社員をしているわけで、それができないから特殊な獣道を歩んでいる。

そうは言いつつも、厄介なことに、外に出て人に会うのは好きなのだ。いざ人と会って話すと楽しい。だから外出の予定もどんどん入れてしまう。あとからどっと疲れると分かっているのに……刺激に弱いのに刺激を追い求めてしまう妙な行動習性に振り回されている。

↑サイン会の様子。沢山の方のご来場、ありがとうございます。

この記事の流れでいうと嘘っぽいですが、多くの読者さんとお話しできて(本当に)嬉しかったです。

作家の仕事の中でも執筆や改稿、ゲラといった原稿周りの作業が一番好きで楽しい。だが原稿仕事だけしていればいいというわけではなく、色々と人前に出なくてはならない場面もある。先述のとおり、表に出る仕事は自分の特性に起因してけっこう疲れるのだが、それに加えてどうしても避けて通れないストレス事象があることに気づいた。

 

「悪気のないおじさんたち」との遭遇だ。

デビュー当初からうすうす気づいていたのだが、今回のプロモーション期間を経て、確信に変わりつつある。取材を受けたりイベントに参加したりすると、他人の何気ない一言に傷つけられる場面がある。

 

例えばこういう事例だ。

あるラジオに出演した時はパーソナリティの男性から「可愛いって言われたいだけなんだろ? 可愛いって言っておけばいいんだろ?」と唐突に言われた。別のラジオに出た時は、プロデューサーの男性から「あ~東大生って感じですね~」と言われた。講演会のあとに名刺交換した男性から「内容とテーマは良かったと思うが、私は難聴なのでほとんど聞き取れなかった。私が先日行った講演会の資料を送るから参考にしてください」とメールを頂いた。ある男性との打ち合わせでは、必ず文頭に「新川さんは頭がいいんでしょうけど」とつけてからダメ出しをしてくる。「取材の際に作品ではなく私の結婚観や恋愛観ばかり聞かれてモヤモヤした」と男性作家に愚痴ったら、「そりゃそうでしょ。みんな君の作品のことよりも君の結婚観のほうに興味があるよ」と言われたこともある。ある男性の書店関係者からは「これからもアイドル作家として頑張ってください」と満面の笑みで言われた。エッセイを書けば「女流作家の私生活の切り売りにドキドキ」という謎コメントがついたりもする。

「あなたの創作論は間違っている。僕のブログを参考にしてください」と言ってきた者が二名、「ご参考までに、僕の原稿を読みますか?」と言ってきた者が二名いる(いずれも別の男性で、プロ作家ではない)。そのほか、私をモデルにしたと思しきキャラクターが濃厚なエロシーンを繰り広げる小説を「読んでください」と渡してきたツワモノもいる。

 

これらは私が実際に体験したことのほんの一部だ。デビューして一年も経っていないのに、よくもまあどんどん出てくるなというくらい出てくる。こういうことは本当によく起きるのだ。

文字にするとえげつない感じがするが、現実ではもっと、さらっと爽やかにこういう言葉が発せられる。皆ニコニコしながら言うし、ほとんどの場合、悪気がない(ように見える)。むしろ好意がベースにあってそれをどう処理していいか分からず暴発している感じもある。そこらへんを分かっているから私も怒りだしたりしないし、やんわりと対応するが、それでも私の心には小傷が残る。

ひとつひとつの傷は大したことがなくても毎日毎日さらされると、さすがに疲弊する。それで私はもう、アメリカに帰って夫と二人きりで他の誰とも関わらず、小説を書くだけの暮らしをしたいと思った。

 

「おじさんたち」と中高年男性を名指ししたのには訳がある。年齢や性別でひとくくりにするのは良くないと分かっているし、多くの中高年男性は優しく思いやりがあり常識もある。だが、あえて中高年男性を名指ししたい。なぜならば、上記の事例は本当に全て中高年男性から言われた、行われたことだからだ。男女も年齢も様々な人たちに会うが、上記に類する失礼な言動をとるのは本当に驚くほど、全員中高年男性だ。中高年男性と会うときは、何か言われてもすぐに心の受け身が取れるよう防御モードで向かっていく。会う前からストレスを感じるし、会っている間もずっと気を張っている。

 

だから中高年男性諸君、気をつけてほしい、と言うつもりはない。彼らにも色々抱えているものがあるだろうし、もう勝手に好きに生きてくれ、と思っている。

むしろ私は、同じような経験をしている人たちに向けて、私の経験を語りたいと思った。あなたが傷つけられるのは、あなたのせいではない。何をしても言われるときは言われるし、理由なく(しかも悪気なく)石を投げてくる人はいるのだ。

ちなみに私は、嫌なことがあると2000字程度のエッセイを書くことにしている(松本清張『黒革の手帖』にちなんで『黒腹の手帖』と名づけている)。日時や場所、実名を含み、証拠画像も添付してある。書き溜めておいて、何十年か後に大御所作家になったら暴露本として出版してやろうと思う。その頃には多くの中高年男性は鬼籍に入っておられるだろうが、亡き世の評判を地に落としたくなければ悔い改めたほうがいい。といっても許すつもりはない。作家はたいてい、執念深いのだ。

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コメント

ぐろキリン  悪気のないおじさんたち|帆立の詫び状|新川帆立 - 幻冬舎plus https://t.co/kr8heXdESJ 4日前 replyretweetfavorite

gokchai  オッサンほんま消えとれやw 悪気のないおじさんたち|帆立の詫び状|新川帆立 - 幻冬舎plus https://t.co/T2FSaB8e6L 4日前 replyretweetfavorite

だいこんあし  わかるわかる。こういう人いるよね(おじさんに限らず)。悪気がないって気持ち悪い…。でもって、自分は絶対こういう人にならないように気をつけようと思う次第。https://t.co/rhyLWDoJTv 4日前 replyretweetfavorite

カツキ@還暦ブースター  悪気のないおじさんたち|帆立の詫び状|新川帆立 - 幻冬舎plus https://t.co/WzFs4QVPop 中高年の男性諸君ただでさえ世間から疎ましく思われているのだからこれ以上余計な事を言わず大人しく生きていこうな。 4日前 replyretweetfavorite

帆立の詫び状

原稿をお待たせしている編集者各位に謝りながら、楽しい「原稿外」ライフをお届けしていこう!というのが本連載「帆立の詫び状」です。

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新川帆立

1991年2月生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業。弁護士。司法修習中に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストに合格し、プロ雀士としても活動経験あり。作家を志したきっかけは16歳のころ夏目漱石の『吾輩は猫である』に感銘を受けたこと。2020年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した「元彼の遺言状」でデビュー。

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